異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

冒険者ギルドのリース


「ねえ、リース、今夜お見合いパーティ―あるんだけど、来ない?」


 ここはセレスティーナの冒険者ギルド。午前中の混雑も過ぎ、受付嬢たちはようやくおしゃべりに花を咲かせる余裕が出てくる。

 リースはこのセレスティーナ支部の受付嬢の中でも一番の人気を誇るが、いまだにお付き合いしている男性がおらず、それがかえって、人気に拍車をかけている。


「ごめんなさい。私には決まった人がいるから、パス!」 

 リースは差し出されたコーヒーを受け取ると、そのダークブラウンの瞳を面倒くさそうに閉じる。

 ちなみに、セレスティーナの冒険者ギルドには、刹那が造ったコーヒーメーカーが設置されており、職員たちは自由に飲むことが出来る。


「リースってば、まだカケルさまを諦めていないの? 気持ちは分かるけど、無理だってば~」

 呆れたようにジト目でリースを見つめる同僚のミント。

「ふふふ、大丈夫よ。もう時間の問題なんだから! 諦めたらそこで終わりなのよ?」

「ふーん、まあ、リースがそこまで言うなら無理には誘わないけど、いつでも声をかけてよね」



「ふう……」

 仕事を終え、一人冒険者ギルドを出るリース。いつもなら、同僚と食べに行くところだが、今夜はお見合いパーティーとやらで、皆そちらに参加するようだ。 

「時間の問題……か」

 ミントにはそう言って強がってみたものの、正直当てがあるわけでも、自信があるわけでもない。

 容姿なら誰にも負けない自信もあるし、公女であるクラウディアはともかく、商業ギルドのミレイヌやミネルヴァ、ローラまでもお嫁さんになったと聞いては諦める理由もない。

「でも……中々チャンスがないのよね……」

 そう、常に世界中を飛び回っているカケルと逢うのは難しい。ましてや、二人きりで逢うことなど、奇跡でも起こらなければ無理だろう。

 カケルが領主を務めるこのセレスティーナに来れば、逢う機会が増えると思っていたのに、実際には屋敷はプリメーラにあるわけで、こんなことなら、プリメーラに残っていた方がまだマシだったかもしれないと息を吐く。後悔先に立たずではあるけれど。

 それでも、最初の頃は、送り迎えもしてもらえたし、話す機会もそれなりにあったのだからと自分を慰めるリースであった。


「あれ? リース、元気だったか?」

 俯いてとぼとぼ歩いているリースに、たった今、思い描いていた想い人の声がかかる。

「ふえっ!? か、カケル……さま? こんなところで何を?」

 見れば、そこだけ空気の色が変わっているかのように、時間すら止まってしまっているかのような、まるで神話の英雄のように美しい男性がこちらを見て微笑んでいる。


「街の見回りだよ。ずっとセレスティーナに来れなかったからな。問題が無いか確認していたんだ……ってどうした?」

 これを逃したら終わりだ。リースは迷うことなくカケルの胸に飛び込む。

「あの……お腹が空いてふらついてしまったのです」

「そうか、良かったら一緒に食べるか? おすすめの店とかあるなら任せる」

「お、お任せください!! とっておきのお店があります!!」

 カケルに抱き着いたまま、ぱあっっと笑顔の花を咲かせるリース。



「ところでカケルさま、私が言うのもなんですけれど、お時間は大丈夫なんですか?」

 カケルが超多忙なことは誰でも知っている。ましてや、婚約者でもない自分と夕食をとるなんて、大丈夫なのかとリースが不安になってしまうのも無理はない。
  
「ああ、分身体を使っているから大丈夫だ。気にしてくれてありがとうな、リース」

「分身体!? ああ、そう言えばそうでしたね。ということは、今、お仕事しているカケルさまもいるんでしょうか?」

「ああ、もちろんだ。でも、ちゃんと記憶も感覚も共有しているからな。仕事している俺も、ちゃんとリースのことを認識しているんだぞ」

 たくさんのカケルに共有されていると思うと、リースは、天にも昇るような浮かれた気持ちになる。

 リースは、組んだ腕にぎゅっと力をこめるのであった。


******


「おおっ!! ここがその店か! なんだか雰囲気の良いお店だな……」
「はい、最近オープンしたばかりですが、ガーランドの本格的なエルフ料理が楽しめると話題になっているんです。私もまだ一度しか来たことはないんですけど」

 リースの言う通り、この店は、ガーランドの有名店が初めて人族の街に支店を出したことで話題になっている。店の内装は、木材と花や植物に彩られ、店員は全員エルフというこだわりようだ。


「いらっしゃいませ。お二人様で?」

 イケメンなエルフ店員に案内されてレストランの奥へと向かう二人。


「あれ? リース? 結局来たんだ?」

「げっ!? ミント? ま、まさか……お見合い会場って、この店?」

 見れば、知った顔がたくさんいる。幸せの絶頂だったリースの顔が強張る。下手をすれば、せっかくのデートが台無しになってしまいかねないのだから当然だ。


「おお、ミントじゃないか! 冒険者ギルドのみんなも久し振り!!」

「「「「って、か、かかかカケルさまああああ!?」」」」

 ミントを含めて、その場にいる全員が絶叫する。

「ち、ちょっと、リース、ななな、なんで貴女がカケルさまと一緒なのよ?」

「う……そ、それは……」

 口ごもるリース。何といえば正解なのか。正直わからない。


「ん? リースは俺の婚約者だからな。今夜は二人きりのデートだよ」

 そういってリースを抱き寄せるカケル。


「……こ、婚約者!?」

 カケルの爆弾発言に絶句する冒険者ギルドの面々。

「そうだ、今夜は俺が奢るから、みんな好きなだけ飲み食いしてくれ!」

「おおっ!! ありがてえ!! さすがカケルさま!!」
「ごちそうになります~!!」

 カケルの太っ腹な言葉にみんなの笑顔がはじける。

  

「ごめんなリース、勝手なこと言ったりして。迷惑だったか?」

 みんなと別れて二人で個室のテーブル席に着くと、カケルが申し訳なさそうにリースに謝罪する。

「……バカ。私の顔を見てよくそんなことが言えますね……あの……そっちに行っても良いですか?」

 リースは席を立ちカケルの隣に座りなおす。

「リース、店員がメニューをとりに来るまで、残り18秒だ」
「……じゃあ、17秒だけキスしてください、カケルさま」


 そっと唇を重ねる二人。

 カケルがこっそり時空魔法を使っていたことにリースが気付くには、もう少し時間がかかりそうだ。

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