異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
黒羊のフェルト
「陛下、大変です。帝国に蔓延っていた闇が、英雄によってすべて排除され、帝国上層部の多くが入れ替えとなったそうです」
突然の知らせに騒然となる王宮。
「なんだと? 我らにとっての影響はどうなのだ、宰相?」
「はっ、これまでのような苛烈な搾取が無くなるだけでも、プラスかと。ただし、我らも色々探られたくない部分もありますゆえ、繋がりを追及されると厄介なことになるやもしれませぬ」
フンッ、国王と宰相が慌てていますね。これまで、散々帝国に尻尾を振って、悪事を重ねて来たのです。公平な裁きがなされることを願わずにはいられません。
「へ、陛下……」
「なんだ? 今大事な話をしているところだ」
「その、帝都より、使者さまがいらしております」
帝都からの使者ですって? いくらなんでも早くないですか? うわっ!? 何ですかあのとんでもない美少女は?
ヤバいです、見ているだけで癒やされてしまいます。
『あら? お取込み中だったかしら? 私は英雄の妹ミヅハと申します。我が兄の妻となりうる人材を見極めに参りました』
「こ、これはこれは……ようこそミヅハさま、私はこのヴァイス王国国王ヴァイシュウと申します」
額に汗をかきながら、恭しく首を垂れる国王陛下。帝国からの使者で、英雄の妹となれば、いかな国王であろうとも、無礼な真似はできない。
『これはご丁寧にありがとうございます』
その圧倒的な美貌と所作の美しさも相まって、謁見の間にため息があふれる。
それにしても何という神々しさ……国王陛下が、完全に気押されていいますね。
「ところでミヅハさま、英雄さまの妻でしたら、最適な者がおります! おいっ、ビアンカを呼べ!!」
まてまて、まさかあの性悪ビアンカ殿下をすすめるつもりですか!? 英雄さまを怒らせるつもりなのですか?
『お待ちください。この靴は水の精霊の祝福を受けたアーティファクト。英雄の妻たる者にしか履くことが出来ない魔法の靴なのです。すぐに王宮中の女性を集めてください』
国王陛下を制してミヅハさまが光り輝く靴を取りだす。いったい何の素材でできているのだろうか?
すごい……透明の靴なんて初めて見ました……なんて綺麗なんでしょう。
魔法の靴を眺めていたら、不意に家族の顔が浮かんでくる。そう……私がここにいる理由。
「成人おめでとう、フェルト」
「うわあ……ありがとう! お父さん、お母さん!」
羊毛で作られた暖かそうな靴。王宮へ見習い執事として働くことになる私への贈り物。
「王宮は冷えるからね。頑張るんだよ」
私たち黒羊獣人は、昔から執事になる者が多い。理由は不明だが、かつて異世界の勇者や英雄が黒羊獣人を執事として重用したことに習い、世界中の国が真似をしたのが始まりだとも言われている。
また、黒という色が、異世界人とのつながりを連想させることから、縁起が良いとされていたりもする。
理由はともかく、羊毛を生み出す以外に取り柄の無い私たちにとってはありがたい話で、黒羊獣人だというだけで王宮に入ることが出来るのだ。
もちろん、そこからは本人の頑張り次第なんだけれど。
悲劇が起きたのは、私が王宮に入ってから二年が経ち、ようやく一人前の執事として仕事を任せられるようになった頃。
帝国の命令で、黒羊獣人が帝都へ連れて行かれてしまったのだ。
私は王宮勤めのおかげで対象からは外れたけれど、羊毛職人の両親と兄、まだ成人していない弟妹たちを含めて全員対象者となってしまった。
最初は大量の羊毛が必要なのだろうと気楽に考えていたが、どうもおかしい。
誰一人として戻ってこないし、連絡もない。
疑心と不安だけが積み重なってゆく。私が出来ることといえば、少しでも上位の執事となり、より高位の人間からの情報を得ること。それに場合によっては帝都へ同行する機会もあるかもしれない。
だが、入ってくる情報は、安心できるどころか、不安が大きくなるものばかり。
怪しい人体実験の噂。人間が次々と魔物になっているという信じられない話。
そして、帝都に行った人間は、まるで別人のようになって帰ってくる。
もはや、私なんかの手に負える話ではないのかもしれない。自分の無力さに腹が立つ。
もう諦めるしかないのか……そう思っていたのですが。
予想だにしなかった英雄さまの降臨によって、どうやら帝国の闇は晴れたようです。
今なら家族を探しに行けるかもしれない。もう手遅れかもしれないけれど。
期待と不安に押しつぶされそうになるが、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
私は、意を決し、魔法の靴を履くための列を目指して歩き始めた。
***
「ウソでしょ!? なんで履けないのよっ!!」
女性たちの悲鳴が謁見の間を埋め尽くす。
先ほどから百名以上が挑戦しているが、不思議なことに誰一人として履くことが出来ない。どうやらアーティファクトというのは本当のようだ。
美しく高貴な貴族令嬢、私よりも有能な執事やメイドたち、身分や美しさ、有能さは関係ないのか? そもそも本当にあの靴を履けるような者が、この王宮にいるのだろうか?
順番が近づくにつれて、鼓動が早くなり頭が上手く働いてくれない。
『はい、次の方どうぞ? ふふっ』
ミヅハさまに促されて羊毛の靴を脱ぐ。両親からもらった宝物。底冷えする王宮勤めを支えてくれた家族との想い出。
身体が震えて上手く身体が動かない。
その時、気のせいかもしれないが、一瞬ミヅハさまが微笑んだような気がした。その瞬間、無駄な力が抜けて、私の足は吸い込まれるように魔法の靴の中にすっぽりと収まる。
『おめでとうございます、フェルトさま。合格です』
割れんばかりの歓声と嫉妬や怨嗟の声が遠くに聞こえる。
何が起きたのか? 私はどこか他人事のようにただ呆然とするしかなかった。
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