異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

一秒の数千分の一の刹那


『残るはあと二人、宰相と皇帝だけね。次はまな板撲滅男よ』

 さすがに幹部クラスとなれば、油断は禁物。力を出す前に一瞬で終わらせる。

『……ずいぶんとやる気じゃないの?』

「まあ……奴とは所詮わかりあえないんです。悲しいことですが、英雄並び立たず。この世に存在してはいけない者もいるのですよ」

『よくわからないけど、やる気があるのは大歓迎よ。さっさと終わらせましょう』



 宰相は、15歳以上の帝国民の女性を集めて大規模な検査を行っていた。

 既定のカップに届かなかった女性たちは、宰相の下で『豊乳化』を施されて、生まれ変わってゆく。

「くっ……外道がっ!!」 

 これほど怒りで我を忘れそうになるのは初めてかもしれない。

『……お怒りのところ申し訳ないけど、喜んでいる人のほうが圧倒的に多いみたいよ?』

 何も聞こえない……聞きたくない。聞いちゃだめだ、聞いちゃだめだ……

 誰が何と言おうとも、生まれ持った宝物を奪ってよい理由にはならない。イリゼさまも、きっと悲しまれることだろう。

『いや、たぶんイリゼ様、何とも思っていないわよ? そんなのカケルぐらいじゃないの?』

 何も聞こえない……聞きたくない。聞いちゃだめだ、聞いちゃだめだ……


「シグレ!」
『応!!』

 問答無用で、世界の敵を叩き斬る。

『ぎぃやああああ!?』

『豊乳化を記憶しました』 

 使うことのないスキルを得ても虚しいばかり。残念だ。ベクトルが違えば、友となる可能性もあったかもしれないのに。生まれ変わったら、まな板職人になるんだな。次点で寿司職人だ。

「ふぅ……中々辛い戦いですね……体力より、精神的に」
『……全然そんな風に見えないんだけど?』

 ごめんなさい、言ってみたかっただけです。



『いよいよ、最後のボスね! 魔物化よりも、隷属化の方が厄介だから、悪即斬よ!』 

 たしかにどちらのスキルも、強力な分、発動には条件がある。

 だからその前にケリをつける。

 

 皇帝の執務室へ侵入する。

「シグレ!」
『応!!』

 速攻で終わらせるべく、一刀両断――――手応えが無い!?


――――ガキィンッ!――――


 不可視の攻撃を咄嗟にシグレで受け流し、一旦距離を取る。

 チッ、やはり一筋縄では行かないか。

『駆、下がりなさい!!』

 キリハさんが鋭く叫ぶのと同時に反射的に下がる。見れば立っていた場所ごと空間がごっそり消えている。怖っ!?

「キリハさん、これは……」
『なるほど……だからイリゼ様は、私を同行させたのね……これはちょっとヤバいわよ……』

 あのキリハさんが冷汗を流している。俺よりはるかに強いあのキリハさんが……


『神級結界発動!!』

――――ガ、ガガ、ガ、ガガガキィンッ!――――

 無数の攻撃が、キリハさんの結界によって弾かれるが、結界に薄く亀裂が入る。

『やっぱり長くはもたないわね……クレハ!!』
『控えております』

『神装形態やるわよ……』
『……地上で、ですか!?』
『やらなければ勝てない……でしょう?』

 神装形態……? 初めて聞く単語だ。


『駆、私とクレハが動きを止めるから、貴方が神装でとどめを刺しなさい。一秒が限界だけど、問題ないわよね?』

「わかりました。神装はどうすれば?」

『シグレと一体になるイメージ……そうそう……って違ううう!? そっちじゃない、スケベ!!』

 ごめんなさい……

『まったく……本当に緊張感ないんだから。良いわ、どうせ見れば出来るんでしょ?』

 赤い顔でぷいっとそっぽを向くキリハさん。


『神装クレハ!!』

 デスサイズ、クレハが強い閃光を放つと、キリハさんの全身が刃の鎧に包まれる。

『神装を記憶したよ! やっちゃえ!!』


『神装シグレ!!』 

 全身がシグレに包まれる。何という全能感……だが、同時に、地上では長くは使えないと理解する。空間の強度が保たないのだ。

『行くわよ駆、結界解除!!』

 まるで一筋の閃光のように、キリハさんが敵に切り込む。

 辛うじて残像が追えるほどの神速の攻撃。全身の鎧が無数の刃となり敵を穿つ。ようやく敵が正体を現す。

 これは……邪神の因子と悪意の魂が融合しているのか!?

 直視できないほどの、オゾマシイ悪意の塊、キリハさんが叫ぶ。

『駆、今よ!!』

 キリハさんが捨て身で敵の懐に飛び込む。そうしなければ、動きを止めることが出来ない。悔しいが、今の俺には出来ないことだ。

 俺に出来ることは、ただ一つ、キリハさんが作ってくれたチャンスを活かすこと。

 イリゼ様からいただいた溺愛の加護のおかげで、敵の核がはっきり視える。

 一秒の数千分の一の刹那。


『千本時雨!!』

 千本のデスサイズが敵を切り裂く。シグレの最終奥義、はい、今この場で考えて作りました。
    
『ウギャアアアアアアアア!!???』


 虚空に消えてゆく悪意と邪神の因子。


『魔物化を記憶したよ』
『隷属化を記憶したよ』
『レベルが99上がったよ、以上!!』

 
 床に倒れているのは、宮廷錬金術師の男。どうやら取り憑いていたのは、皇帝ではなく、こちらだったようだな。

 おかしいとは思っていたんだ。帝国の魔物化実験と計画は、かなり前から進められていた形跡があった。あとでたっぷり話を聞かせてもらうぞ。


 ともあれ、悪意の魂、討伐完了だ。

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