異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

皇女コンスタンティア


『殿下、私の後ろにいてください。なあに、あの程度の魔物、どうということもないです』 

 自信満々のヌー伯爵。帝国貴族の中でも、知略に優れるが、戦闘力は下から数えた方が早い……というか、侍女のメアよりはるかに弱かったはず。

 そんな彼が、果たしてあの化け物と化した一騎当千の近衛騎士団と戦えるのか? しかもジョバンノ子爵は、武勇一本で貴族にまでのし上がった本物の武闘派だ。両手剣から繰り出される連撃は、重く速い。対処を誤れば、あっという間に追い込まれてしまう。

 しかも、今の奴らは全員、空を飛べるのだ。多勢に無勢、しかも見たところ、ヌー伯爵は武器らしきものを持っていない。どうやって戦うつもりなのだ? まさか、隠されていた極大魔法の使い手だったとか?


『ふふっ、ご心配なく、殺したりはしません』

 私の心配を察したのか、そんな嬉しいことを言ってくれる。殺さないではなく、殺せないの間違いでなければ良いが……。せめて、メアだけでも、なんとか殺さずにこの場を凌げれば……そんな都合の良いことを、この絶望的な状況にも関わらず願ってしまう。

 
 おそらくだが、ヌー伯爵のあの自信は、強力な援軍のあてがあるからだろう。

 立ち居振る舞いから、時間を稼ごうとしているのが何となくわかる。

 ジョバンノ子爵らも、そんな自信満々な態度を警戒して、迂闊に攻撃を仕掛けられないでいる。

 だが、もう限界だろう。


「ええい、やれ!! 邪魔だてするならヌー伯爵を殺しても構わない、殿下を捕らえろ!!」

『ふふっ、やれるものならやってみなさい。この拳が火を噴きますよ?』

 ……ヌー伯爵、お前そんなに熱い男だったのか? 


 襲い来る騎士団を肉弾戦で殴り飛ばすヌー伯爵。もはや別人だな……っていうか、素手で鎧を殴って大丈夫なのか!?


「くっ!? ジョバンノ……」

 空から音もなく襲ってきたジョバンノ子爵の攻撃を咄嗟にかわす。

「くくっ、よそ見していると怪我をしますよ?」
「生憎だが、貴様に後れを取ることなどない。『雷装』!!」

 雷を体と武器に纏わせて戦う必殺のスキル。相手はよけることも、防ぐことも出来ない。

 だが、ジョバンノは、涼しい顔をして、攻撃を両手剣で受け止めると、私の剣に纏っていた雷が放電して消失してしまう。

 くそっ!? 一体どうなっているんだ……?

「くはは、何を不思議そうな顔をされているのです? 貴女を捕らえるのに、雷対策は万全なのですよ」

 
 どうやら、私の雷属性を無効化する魔道具か何かを所持しているのだろう。だが――――

「雷だけが私の力だと思っているのなら、ずいぶん見くびられたものだな…………うっ!?」

 か、身体がおかしい……自分の意思とは別に……ま、まさか……!?

「ほほう……ようやく効いてきたようですね。おめでとうございます!! これで殿下も立派な帝国皇女殿下となられることでしょう」

 嫌だ……こんなところで……くそっ、意識が……がああああああ!?

 自らの雷撃で意識を無理やり保つ。

「……無駄なあがきを……苦しみが長引くだけですよ? 早く受け入れて楽になるのです」

 にやりと口角を上げたジョバンノ子爵が迫る。もはやにらみつけることしか出来ない。 

「さあ、私の手をお取りください。殿下ならさぞや美しい魔物に――――へぶしっ!?」

 一瞬にして視界から消えるジョバンノ子爵。一体何が起こったんだ……?

 朦朧とする意識の中、最後に見えたのは、黒髪の青年の姿と唇に何かが触れる感触だった。



***


「はっ!? こ、ここは? 私はどうなったんだ?」

 目が覚めると、そこは見知らぬ部屋の中。ただの部屋ではない。皇宮でも見たことがないような調度品の数々。ベッドも信じられないぐらい柔らかく快適だ。

「大丈夫か? まだ寝ていてもいいんだぞ?」

 くっ……あまりの甘く優しい声色に変な声が出そうになったが、なんとかこらえる。

「あ、あの……ここは? 貴方が、その助けてくれたのか?」

 もしそうなら恩人に対して無礼な振る舞いは出来ない。

「ああ、ここは異空間にある部屋。俺はカケル。異世界から来た英雄皇帝だ」

「え、英雄さまだったのですね。わ、私はコンスタンティア、グリモワール帝国第二皇女です」

 たしかに黒目黒髪、そしてこの圧倒的な存在感。間違いない。本物の英雄だ。

「よろしくなコンスタンティア。俺に対して敬語はいらないぞ? それより体の調子はどうだ? 完全に回復しているはずなんだが」

 そう言われて、おぞましい魔物化のことを思い出し小さく震える。

 身体は……すっかり回復している。というより、すごく力がみなぎっている。と、ここにきて、自分が着替えさせられていることに気付く。下着も当然付けていない。

 わかっている。治療だったことも、着替えが必要だったことも。だが、目の前の英雄さまにすべてを見られたのだと思うと、顔が熱を帯び、鼓動がどうしようもなく速くなってしまう。

 これは……覚悟を決めなくてはならない。皇女が殿方に裸を見られるということの意味はよくわかっている。

「身体は……大丈夫です。ですが、その……見られてしまった以上――――」
「ああ、着替えさせたのは俺じゃないから安心してくれ」

 くっ、そんな……それは困る……困る? なぜだ? そうか……私はとっくに……

「ですが、寝顔を見られてしまいました……もうお嫁さんになるしか……」
「……コンスタンティア、俺はたくさんお嫁さんがいるが、いいのか?」
「……はい、英雄さま。嬉しいです」

 
 それからすぐに英雄さまは、帝国に起こった異変の源を断ち切ってくると言って出発してしまった。

 当然私も同行を志願したが、女性には危険な相手らしく、ここで帰りを待つことになった。

 隣の部屋では、侍女のメアも静かに寝息を立てている。

 近衛騎士団やジョバンノ子爵も、魔物化を解除されて、保護されていると聞かされた。
  
 ありがとう英雄さま。私の愛しい殿方。


 ん? 誰かを忘れているような……? まあ気のせいだろう。 

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