異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

悪・即・斬!!


 ちっ、まったくとんでもない事態になってやがる。

 今度はトラキア王宮に潜入している。

 ウルナさんとストレージの話を合わせて見えてきた現状。それは思ったよりはるかに深刻なものだった。




『なんだって!? それじゃあクルアさまを含めて、トラキアの王族は全員魔物化されているのか?』
『はい、グリモワール帝国の魔物化技術は恐ろしい段階まで来ています。人間の理性を残しつつも、驚異的な力を与えることができるのです。しかもその強さは、魔力量に比例して跳ね上がるため、帝国は組織を使って、高魔力保有者を積極的に集めているということですね』

『だがストレージ、そんな力を持った存在が、大人しく帝国の言うことを聞くとは思えないが?』
『はい、そのために使われているのが、古代のアーティファクト『隷属の首飾り』です』

『なるほど、キタカゼからもその報告は受けている。となると、やはり帝国は量産化に成功したのか?』
『申し訳ございません。その辺りはわかりませんが、帝国からかなりの数が提供されているのは事実です』
 



 帝国は世界征服の野望を抱いていると聞いた。となるとその尖兵となる強力な戦力を今この瞬間も生み出し続けているのだろう。

 クルミも……そんなことのために狙われたのか……絶対に許さん、クズどもが!! 

 明日の会議で、そのあたりの情報共有をしなければならないが、邪神のこともあるし、優先順位が難しい。ストレージによれば、現在トラキアは、隣国サラシナに侵攻する準備を進めているそうだ。

 そのタイミングによっては、隣国の被害だけではなく、クルアさんたちに虐殺をさせるということになりかねないのだ。とても放置はできない。



『カケルさま、宰相の居場所が判明しました。ただし、多重結界で完全に守られていますね』

 ストレージによれば、現在トラキアを実際に動かしているのは、宰相のワルデクズだ。
 
『ありがとう、カイ。付近に人は?』
『ソニアとエルゼが無力化しているので大丈夫です』

『わかった。後は任せろ』


 たしかに結界のせいで、奴本人の居場所は把握できないが、逆に結界の中にいることがばればれだ。


「……魔法反射、物理無効、おまけに触れると警報が鳴るのか……これは手出しが出来ないな。普通なら」

 結界を含めた一帯を空間魔法で隔離する。さらにデスサイズのシグレを召喚。

「シグレ、行くぞ。一撃で決める」 
『お任せあれ、主殿』

 正真正銘のクズであるお前にはソウルセイバーは使わない。せいぜい苦しんで死ね!!



「悪・即・斬!! くらえ『ソウルスレイヤー』!!」

 
 デスサイズはこの世の理を超えた神界の神器。切れないものを斬り、斬りたいものだけを切り裂く死神の刃。シグレの放った一撃は、結界や周囲の建物に被害を出すことなく、宰相ワルデクズを両断する。

 ソウルスレイヤーは、特に悪質な魂に対して執行する死神の裁き。神界へ昇る前に、生前犯した罪や業を焼きつくし浄化するまで地獄の苦しみを味わい続けるのだ。つまり善人にたいしては効果が無い。

 
『ぎぃやあああああああああああああああ!?』


 断末魔の悲鳴と共に、宰相ワルデクズは絶命する。

 余程の悪行を重ねたのだろう。その苦しみは終わることなく、実に3年にも及んだ。時空魔法で早送りしたおかげで、それほど待つことはなかったが。



「おおっ、まるで別人のようだな、ワルデクズ」
『はい、まるで生まれ変わったような清々しい気分です。これからは、主様のもとで、少しでも己の悪行の償いをさせていただきたく』

 魂が浄化されたワルデクズは、まるで聖人のような穏やかな表情で頭を下げる。だが、これではいけない。本人だと知っている俺ですら、別人に見えるのだ。このまま帰したら騒ぎになってしまう。

「ワルデクズ、これを使え。妄想スケッチで生み出した、お前専用のマスクだ。装着すれば、元の悪人顔に早変わり。せいぜい数日、長くても1週間以内には必要なくなるから、それまでは我慢してくれ」

『かしこまりました。サラシナへの侵攻は、適当に理由をつけて遅らせますのでご安心ください』
「ああ、頼んだ。あと、魔物化の実験も止められるか?」

『それは難しいですね。魔物化は、帝国の人間が全て管理しているので、手が出せません』

 そっちは別枠か……仕方ない。もうひと暴れするか。


***


「……おかしい。最近あきらかに実験体の入手に滞りが出ている……どこかで邪魔が入っているのか? お前に聞いているんだけどな、侵入者くん?」

 先ほどから監視されていることには気付いていたが、一体何者だ? この距離まで接近されたのは初めてだよ。ククッ。

「……へえ、気付くんだ。中々やるじゃないか、さすがは帝国直属の幹部といったところかな?」 

 なにもなかったはずの場所から姿を現す黒髪の男。こいつ……空間系の能力者か?

「どうやら、味方……というわけじゃないよね? 何の用かな?」

 殺すのは簡単だが、目的や背後関係を知っておく必要はあるだろうね。素直に話してくれるとも思わないけど。

「俺は異世界の英雄カケル。悪いがお前を殺しに来た死神ってとこかな?」

 なにっ!? 異世界の英雄だと? そうか……なるほど。

「く、くくく、あははははははははは!! 殺す? このボクを? 無理無理。言っておくけど、ボクは強いよ? それより実に幸運だね。本国が血眼になって捜していた異世界人がこんなところにいるなんて!!」

 異世界人は間違いなく最高の素材だ。手に入れることが出来れば、世界はすぐにでも手中に収めることが出来る。殺せなくなったのは面倒だけど、手足を落とすぐらいなら問題ない。



――――ザシュッ!!――――


「……へ!?」

 あれ? ボク、なんで倒れているんだっけ? おかしいな……身体がうごかない……。

「…………」



 
「それじゃあユーリ、魔物化実験の方、うまく誤魔化しておいてくれ」
『わかったよ。任せておいて!!』

 ふふふ、なんだか生まれ変わったような気分だ。さあ、カケルくんのために頑張って働くぞ!

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