異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

誇り高き黒髪の姉妹


 ぐふふ、この場所を発見出来たのは実に幸運だった。

 俺たちアルゴノート支部は、災厄の影響で一旦避難していたものの、王家が国外へ脱出してからは、やりたい放題好き放題、がっつり荒稼ぎさせてもらっていた。まあ命懸けではあるがそれはいつものことだ。

 だが、王家が戻り、治安が急速に回復しつつある以上、これまでのようにはいかなくなる。そろそろ潮時かと思っていたが、まさか最後に牛獣人の集落を見つけるとはな。きっと日頃の行いが良いのだろう。ぐふふ。

 牛獣人はアルゴノート以外ではほぼ存在を知られておらず、その生態すら世間では謎に包まれている。

 実際には、性格は温厚で非常に扱いやすい亜人種で、攻撃性も皆無で逃げ出す心配もない。その一方で、その希少性もあり、闇市場では一部マニアの間で目玉が飛び出るほどの高値で取引されることもしばしばだ。

 ようするに我々人身売買を生業にしているものにとっては、最高の獲物だということ。

 そんなお宝が、数百人単位でそこら中に、文字通り転がっているのだ。笑いが止まらないではないか。

 俺はすぐに組織本部に連絡をとり、大規模な捕獲チームを派遣してもらった。まさか1000人規模の人員を送って寄越すとは思わなかったが、それだけ本部が期待しているってことだろう。

 首尾よく捕獲に成功すれば出世は間違いない。これだけの成果だ。支部長を飛び越して、エリア幹部も視界に入ってくる。

 まあ牛獣人相手なら、万が一にもしくじる心配もないし、多少の護衛がいたところでこの数だ。問題なく押しきれるだろう。

 
「デオチさま、準備は整っております。げへへ、楽しみですな」
「ぐふふ……安心しろ、お前はちゃんと取り立ててやるからなモッブ」

 さあ、ショータイムの始まりだ!!


***


「ねえ、お母さん。いつまでこんなところで草を食べなくちゃならないの?」

 もう半年以上、その辺の草しか食べていない。別に草が嫌いなわけじゃないけど、さすがに飽きてきた。たまには違うものも食べてみたいなあと思ったりもする。でもお母さんったら―――

「そうねえ……そのうち誰かが迎えにくるかもしれないわ。動くの面倒くさいじゃない?」

 駄目だ……自分から動く気ゼロなんだね。お母さんが駄目なら……

「ねえ、お父さん。いつまでこんなところで草を食べなくちゃならないの?」
「んん~? どうしたんだミク。こんなパラダイスのどこが不満なんだ?」

 やっぱり無理か~。これは当分その辺の草を食べる生活確定ですね。まあ私も特段不満があるわけじゃないから、あんまり強く言えないかも。

 
 でも、私は英雄の血が甦った先祖返りらしくて、他のみんなとは違うんだ。食べて寝る生活も嫌じゃないんだけど、なんていうのかな、血が騒ぐんだよね。困ったなあ。

 そんなことを考えつつも、本当はたいして困っていないんだけどね。ふわあ……動くとお腹空くから寝ようかな。草だけだと力でないんだよね。


「あらあら、ミク、貴女も早くボディーガードを見つけなさい」

 屈強な虎獣人にお姫様抱っこで運ばれて来たのは、姉のミクル。最近強そうなボディガードを見つけてからというもの、会うたびに自慢してくるからなんかいやだ。

「私は必要ないよ。自分で歩けるし」
「ふーん、とても便利なのにね?」

 まったく、お姉ちゃんたら、何もわかっていないんだから。ボディガードを引き受けるっていうことは、狙われているんだよ? どうもあのボディーガードが好きになれない。襲われて泣かないといいけど。


***


「……タイガさん? ここどこ? なんでこんなに人気のないところ……」
「はあはあ……もう我慢できないぜ。ミクル、お前を俺のものにしてやるよ」

「ち、ちょっと!? なんの話? 落ち着いて!」
「今更知らねえとは言わせないぜ? まったく焦らしやがって」

「ま、待って、牛乳なら好きなだけ飲んでいいから!! それだけは許して」
「いいや、駄目だ。全部俺がもらう。ぐへへへ」

 ああ、妹が言っていた通りだった。私が馬鹿だったんだ。観念して目をつぶる。


『きゃあああああああああ!?』
『た、助けてえええええええ!?』

 突然、牛獣人たちの悲鳴が響き渡る。

「な、何事だ!? くそっ、良いところだったのに……許さねえぞ」

 苛立たしげに様子を見に行ったタイガが慌てて逃げてゆく。

「え? な、なにが起きてるの?」  

 ひょっとしたら、昔聞いたおとぎ話みたいに英雄さまが助けに来てくれたのかもしれない。悲鳴が上がった時点で望みは薄いが、万一ということもある。


「おお! 見ろよ、すげえ上玉発見!! ぐへへへ」

 ぞろぞろと、見たこともない人族の男たちが現れる。

 残念ながら、どう考えてもタイガの魔の手から救いに来てくれた英雄さまという感じではない。むしろ、タイガの方がまだマシまである。

「なあ、味見ぐらい構わないんだろ?」
「牛乳までならセーフだ。それ以上は殺されるぞ」

 男たちが恐ろしい話をしている。

「へいへい、じゃあ飲ませてもらうか。いっただきま――――ぶべらっ!?」

 私の牛乳を飲もうとした男が目の前から突然消えた。

「て、てめえ、何者――――ぶべらっ!?」

 あっという間に男たち全員が倒されてしまった。何が起きたのか。私にはさっぱりわからない。


「大丈夫か? 俺は異世界の英雄カケルだ。貴女たちを助けにきた」

 異世界の……英雄さま……? 間違いないわ……だって私や妹と同じ髪色だもの。誇り高い英雄の黒髪ですもの。

  

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