異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

英雄殿の……馬鹿ああああああああ!!


『ふふっ、お兄様お疲れ様です。で、す、が、これで終わりだとは思わないでくださいね? オルファさま、どうぞお入りください』

「英雄さま~!!」

 北方騎士団副団長にして、ケルピー隊副隊長のオルファが嬉しそうに抱き着いてくる。 

「お、オルファ、はしたないぞ」
「あれれ~、そんなこと言っても説得力ありませんよ、ネージュ団長?」

 たしかにべったり抱き着いているネージュが言っても説得力皆無だな。

「というわけで~、たっぷり愛してくださいね、英雄さま!」

『うふふ、お兄様ったら大人気! ハクシさまには、あと3分ほどお待ちいただくように伝えておきますね』

 くっ、まさかまた1週間コースなのか!? 俺は一体何時になったら出発できるんだろうか? だけど、その前に――――

「待て、ミヅハ、7分だ、7分待つように伝えてくれ、だってこの後、お前と過ごす時間もあるからな」
『お……お兄様……み、ミヅハは嬉しゅうございます……わかりました、族長様には10分待つように伝えてまいりますね!』

 足取りも軽く、スキップしながら消えるミヅハ。

 あの……俺、7分って言ったよね? ま、まあ良いか、少し早めのバカンスだと思えば。


***


「ご無沙汰しております、義父上」
「ご無沙汰って、さっき会ったばかり……」

 貴方はそうかもしれませんが、こちらは1か月以上振りなんですよ、義父上。


「それで、手紙には何と?」

 おそらくはあまり良い内容の手紙ではなかったのだろう。義父上の顔は苦悩で歪んでいるのだから。仕方なかったとはいえ、バカンスしていたのは申し訳なかった。

「手紙の内容だが……リーニャが危篤だそうだ……」

 その衝撃的な内容に、場が一瞬静まり返る……。

「は、母上が危篤ってどういうことですか!! そんな……私まだ一度も逢ってないのに……」

 へなへなと泣き崩れるハクアを抱きしめる。

「諦めるなハクア。生きてさえいれば、俺が……絶対何とかしてやるから」

 この手紙が書かれたのは、少なくとも数日前か……間に合ってくれよ。

「それで、義父上、詳しい容体などは書いていないんですか?」
「遅かれ早かれ、こうなることは決まっていたんだ。大丈夫だ、直ぐにどうのということはない。ただ……こんなに早いとは……」

 愛し合う夫婦が離れて暮らさなければならなかった理由、生まれたばかりのわが子を置いて一人故郷へ戻っていった母リーニャの苦しみと愛情。俺がハクアの眷族化を急いだ理由もそこにある。 


「義父上、『リャナンシーの宿痾しゅくあ』ですね?」
「婿殿……知っていたのか……」


 ハクアの母リーニャは、リャナンシーという妖精だ。人間から吸い上げる精気を糧とし、リャナンシーは、その見返りに、人間に様々な才能を与えるのだが、当然精気を吸われ続ければ、その人間は早晩、死に至ることとなる。

 それゆえ心優しいリャナンシーは、常に人から人へと、さまよい続けている。特定の人間を好きにならないように、なるべく広く浅くを心掛けているのだ。それでも好きになってしまったら? 愛してしまったら? リャナンシーは秘かに姿を消す。愛するがゆえに身を引くのだ。

「な、なぜです!? それと母上が危篤になっているのは関係ないではありませんか?」
「……違うんだよハクア、リャナンシーは……一度人を愛してしまったら、その人間からしか精気を得られなくなってしまうんだ」

 その言葉の持つ意味を理解したハクアが顔面蒼白となる。

「そ、それでは……母上は、母上は、私が生まれてから食事を摂っていないのと同じではないか!! 父上! 父上はそれを知りながら、黙っていたのですか!! 我が身惜しさに母上を遠ざけたのですか!!」


 激昂するハクアの言葉を、ただ黙って受け止めるハクシ。

 彼女にだってきっとわかってはいる。だけど、責めずにはいられないだろう気持ちも分かるから辛いな。

「ハクア、私のことはいくらでも責めてくれて構わない。でもな……リーニャはお前だけは助けたかったんだよ。だから……リーニャのことだけは許してやって欲しい。手紙を寄越したのはな、成人したお前に母親として最後に出来ることをするためだ」
「どういう……意味ですか?」

「……成人とともに目覚める、『リャナンシーの宿痾しゅくあ』をハクア、お前から取り除くためだ」
「わ、私にも、『リャナンシーの宿痾しゅくあ』が!? で、でもどうやって?」
「…………」
「どうして黙ってるんです? 父上!!」

「ハクア、リーニャさんは、己の命と引き換えに、ハクアを助けようとしているんだよ」
「え、英雄殿……な、なんで? なんでそんなことを……」
「きっとな、ハクア、お前に幸せになって欲しいからだよ。普通の人間として、生きて欲しいからだと思うぞ」
「い、嫌です! そんなの……絶対に嫌です。母上の命と引き換えにしてまで、生きようとなど思いません。幸せになんてなれません……」

 大粒の涙が零れ落ちる。そうだよな、そんなのってあんまりだよな。
 だからさ――――


「だから、俺が来たんだ、ハクア、だから俺がここにいる」

 ハクアの涙はとても綺麗だけど、嬉し涙以外では見たくない。指で拭って、安心させるように抱きしめる。悲しい時間はここまでにしよう。

「え、英雄殿……お願い、母上を助けて……ください」
「任せろ、それにな、『リャナンシーの宿痾しゅくあ』なら、もう解決済みだぞ」

「へ? それはどういう……」
「ほら、ハクアがすごーく気持ち良くなって、失神したろ? あの時だ」

 眷族化したことで、ハクアの 『リャナンシーの宿痾しゅくあ』は無効化されている。

「あわわわわわ……え、英雄殿の……馬鹿ああああああああ!!」

 真っ赤になって叫ぶハクア。

 良かった、少しは元気になってくれたみたいだな。


「……婿殿? どういうことか詳しく!!」 

 あ、やべえ……義父上まですっかり元気になってなにより……とんだ藪蛇になっちまったな。

 どうやって言い逃れしようかと思案を始めるカケルであった。

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