異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
そのキスは血の味がした
『さあ、お兄様、お次はネージュさまですよ。時間がありませんから早く早く』
部屋の外へ出ると、余韻を楽しむ暇もなく、北方騎士団長ネージュが交代で入ってくる。
ありがとうミヅハ、淋しいなんて感じる暇もなかったね。ふふっ。
「す、すまない……説明はすべてミヅハ殿より聞いている。よ、よろしくお願いいたします」
これまたプシューッと湯気が出そうなぐらい真っ赤な顔の騎士団長。普段の凛々しい姿とのギャップがたまらない。完全武装の甲冑姿というのも、一層ギャップを感じさせているのは間違いないだろう。
ちなみに俺は、メイドと甲冑どちらが良いかと問われたら、三日三晩悩んで、両方と答えるほどの甲冑好きだ。この高鳴りを少しでも分かってもらえたら嬉しい。
「わかった。悪かったな、突然で驚いただろう?」
「何も悪いことなどない、英雄殿とより深くつながることができて、なおかつ強くなれるんだ。こちらとしては是非もないことだ」
凛々しい騎士団長としての力強い意思表示が頼もしい。ただし顔赤いし、ぷるぷる震えているのが可愛らしい。こんな可愛い生き物を放置なんて出来るわけがないじゃないか。
硬い甲冑ごと抱きしめる。俺ぐらいになると、甲冑越しでも直で触れるのと変わらないのだ。オリジナル魔法だから、今のところ俺とベルトナーくんぐらいしか使い手はいないけどな。
初めて出逢った時から、ネージュは誇り高き騎士団長であり、愚直なまでに真っ直ぐな尊敬すべき女性だった。その印象は強まりこそすれ微塵も揺らぐことはない。
「誤解しないで欲しいが、眷族化はあくまで結果であって、俺がネージュをそうしたいと思っているんだ。お前を守りたい、一つになりたい、愛し合いたい、心からそう思っている」
「……はい、ありがたき幸せ。私も心よりそう思っています」
毎回同じ様なことを言っているが、同じように思っているのだから仕方がない。一言一句、言葉に嘘はないのだから許してほしい。
ネージュとのキスは少しだけ鉄臭い血の味がした。どうやら緊張しすぎて舌を噛んだらしい。
血に反応して、うっかり『吸血』スキル発動してしまった。キスしながらの吸血、これ初心者にはハード過ぎなやつだ。エヴァですらまともではいられなくなるのだからな。
「うはあああああああああ!?」
あまりの快感に気を失うネージュ。久々にやってしまった。ごめんね。
「う……わ、私は、気を失って?」
「ごめんなネージュ、いきなり悪かった」
「いや、すべて私の力不足ゆえ……英雄殿、頼む、もう一度、もう一度今のを……」
なすすべもなく気を失ったことを恥じているのだろう。その瞳は燃え、視線は真っ直ぐに俺を貫く、否とは言わせない迫力と決意があった。
 
「……わかった、だけど、無理はするなよ?」
「ふふっ、無理を通してこそ得られる境地もあるだろう」
不敵に笑うネージュ。言葉では止まらないか。
『吸血』しながらのキス。
「うはあああああああああ!?」
気を失うネージュ。
「ま、まだだ……負けてたまるか……」
『吸血』しながらのキス。
「くっ、うはあああああああああ!?」
三度気を失うネージュ。だが、止めるわけにはいかない、彼女の誇りを傷つけることになってしまうから。
『吸血』しながらのキス。
「ぐっ、ぐぐぅ、う、ま、まけにゃい……まけたくにゃい……うはあああああ!?」
***
「……だ、駄目にゃあ……や、やめるにゃあ……」
もう100回以上、同じことの繰り返し。もう限界だろう。正直に言えば、人間に耐えられる快感ではないのだ。このままではネージュが壊れてしまう。
仕方ない、ほんの少しだけ意識を保てるように、手助けを――――
「英雄殿、駄目でしゅ、それだけは駄目……」
一体どこにそんな気力が残っていたんだ? ネージュの目はまだ死んでいない、心の奥底まで見通すような真っ直ぐで澄んだ瞳が、全力で俺の助けを拒んでいる。
「ネージュ……気を失うことは悪いことでもないし、ましてや負けでもないんだぞ。心を守ろうとする自己防衛機能なんだ、だから……」
「ふふっ、英雄殿はお優しいのですね……ですが、私は貴方の隣に立ちたいのです、いざというとき、貴方の足手まといにだけはなりたくない! だから……お願い」
……俺は馬鹿なのか……ネージュがなぜこんなに頑張っているかなんて本当に考えていたのか? プライドのため? 負けず嫌いだから? ごめんなネージュ、ありがとう……こんな男の隣に立ちたいなんて思ってくれて。お前は本当にすごい、俺なんかよりずっと立派な英雄だよ。
「おめでとうネージュ、よく……本当によく頑張ったな」
「ふ、ふふっ……こ、これで……わ、私も……なれただろうか……一人前の……眷族に……」
「…………へ? 眷族?」
「…………え? 違うのですか?」
何てこった、ネージュはこれが眷族化の儀式だと勘違いしていたのか……なんて不憫な。もうノリで誤魔化すしかないな。
「残念だけど、まだ始まってもいないぞ。さあこれを飲んで、レッツ眷族化!!」
すでにふらふらのネージュに神水を飲ませて抱きしめる。
「あ、あの……英雄殿? その……眷族化というのは、どのくらい?」
「そうだな……これまでの数倍……いや10倍くらいかな? でも――――」
「いやあああああああああ!?」
あ……気絶した。神水で起こす。
「はっ!? 申し訳ありません英雄殿、無様な姿を……んふう!?」
「おしゃべりはお終いだネージュ。大丈夫、すべて俺に任せて楽にしているんだ」
「ひゃ、ひゃい……よ、よろしくお願いしましゅ……」
***
「英雄殿……私は幸せ者だ。家柄に恵まれ、良き領民、同僚、そして親友にも恵まれた。さらには貴方のような伴侶まで……こんなに幸せで良いのだろうか?」
不安げに抱き着いてくるネージュ。恵まれてか……もしそう思っているなら、それは紛れもなく、お前自身の行動、生き方の結果なんだぞ? 決して与えられたものなんかじゃないんだ。
「いいや、駄目だな」
「そ、そうだな……やはり私などが……」
「違うよ、ネージュはもっと幸せにならないと駄目だっていったんだよ」
「……英雄殿」
「ネージュが幸せだと、恵まれていると思うなら、周りもきっとそう思っている。だから、それでいいんだよ。お前が幸せになれば、世界はもっと素晴らしいものに変わる。俺も含めてみんな一緒に幸せになればいい」
すこしだけ腕に力を込めて甲冑ごと抱きしめ唇を重ねる。この期に及んで脱がさないのは、俺のこだわり、わがままだ。馬鹿な男だと笑って許してくれたら嬉しい。
「愛しているよネージュ。この生が尽きる最後の瞬間まで。お前を幸せにしたいんだ」
「英雄殿……私もお慕いしております。この命尽きるまで。だから……もう少しだけこのままで……」
「ああ、この部屋は外部と切り離してあるからな。時間もほとんど経過しないから、好きなだけこうしていればいい」
ああ、確かに言ったさ、好きなだけってな。
でもさ、また1週間経っているんですけど!? いくら時間の経過が遅いとは言っても、もう3分ぐらい経過してるよ? 外でミヅハがカップラーメン食べ終わっているかもしれないよ!?
白の民の女性は情が深いとは聞いていたけれど、やはりガチなんだなとあらためて実感せざるをえないね。
白の民の恐ろしさに戦慄するカケルであった。
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