異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

ずっと色褪せない君と記憶


『すまんな、デュラハンの頭部は、我々エンシェントウルフを狂わせる魔力があるのだ』

 赤い顔をして項垂れるルルさま。毛でわからないと思うだろうが、鼻筋のあたりは毛が薄いのでわかるんだよな。

『仕方ないでしゅ。ちゃんと管理していなかった私の責任でもありましゅから』

 せっかくミヅハがセットした髪やリボンがボロボロになってしまったが、そこはミヅハ謹製。あっという間に元通り。さすがだな、我が妹よ。

(お褒めに預かり光栄です、お兄様)


「あ、あの……英雄殿、もし良ければ……私も」

 恥ずかしそうにハクアがお願いしてくる。わかっているさ、ちゃんとハクアの服と下着も持っている。変態だとか思わないで欲しい。なんなら全員分持っているのだから。

「リッタとルルさまは、ちょっと待っていてくれ」
『わかりました、英雄しゃま!』
『早く終わらせてブラッシングしてくれ!』

 すっかりブラッシングの虜になっているルルさま。ふふふ、専用モフモフ狼に一歩前進だな。将来的にはモフりながら、ルルさまを枕に寝ることが目標だ。

 はっ!? ち、ちょっと待て……俺はとんでもなく大事なことを見落としていた。そんな遠回りをしなくても、俺にはクロエという専用モフモフ狼がいるじゃないか。だが、見落としていたのはそこじゃない。クロエに『獣化』してもらえば、全身モフができるということを失念していたのだ……。

 はは……なんだ、英雄だ、チートだとか言ってもこの程度か。

 俺は一体クロエの何を見てきたんだ……いつも一緒にいたのに、ヒントはいつでも目の前に転がっていたというのに……すまん、クロエ。今夜は絶対『獣化モフ』するから許してほしい。

 更に俺はある可能性に気付く。ハクアの『神狼化』のスキルだ。実際に見たことはないが、間違いなくモフだろう。しかも極上の可能性が高い。なんたって『神狼』だもの。


「あ、あの、ミヅハさま? 英雄殿が固まってしまわれましたけど、大丈夫でしょうか……」
『大丈夫ですよハクアさま。お兄様は、皆の幸せのために常に悩まれておいでなのです。さあ、着替えましょうか』


 気づけば、ハクアとミヅハは着替えに行ったらしく、すでに姿は無かった。すぐに自分の世界に入ってしまうのは俺の悪い癖の一つだな。


『お兄様、ハクアさまの着替え終わりましたよ』

 10分ほど経って、全身モフのイメトレをしていた俺に、ミヅハが声をかけてくれる。

「おお……綺麗だ……ハクア」

 ハクアの部屋に入ると、そこに居たのは、輝くような白髪をなびかせ頬をうっすらと染めた奇跡のような可愛い生き物だった。

「……そ、そんなに見つめられると、恥ずかしいです……ふえっ!?」

 うっすらと桜色だった頬がすっかり朱色に染まり、瞳が恥ずかしさに揺れている。可愛くて愛おしくて、たまらず抱きしめてしまう。

「ごめん、我慢できなかったんだ」
「ふわあ……か、構いません……嬉しいです……」

「なあ、ハクア」
「はい……英雄殿」
「これから向かうケルトニアなんだが、何が起こるかわからない」
「……はい、そうですね」
「だから、出発前に、お前にも眷族になってもらいたいんだ」

 俺の考えも、少し変わってきている。以前だったら、眷族化に関しては、婚約者が望むタイミングで考えていたし、実際にそうしてきた。だが、邪神の出現が近く、正直何が起こるのか想像もつかない。俺自身がいつ居なくなるかわからないのだ。であれば、出来るときに眷族化しておきたい。後で後悔しても遅いのだから。

「……眷族化については、さきほどミヅハさまから伺いました」

 ハクアの顔はもう可哀想なぐらい真っ赤だ。湯気が出ているんじゃないかと錯覚しそうになる。

「覚悟はとうにできております。よろしくお願いいたします」

 初めて出逢った時から、ハクアは気高き姫であり、戦士であり、騎士だった。その印象は強まりこそすれ微塵も揺らぐことはない。

「誤解しないで欲しいが、眷族化はあくまで結果であって、俺がハクアをそうしたいと思っているんだ。お前を守りたい、一つになりたい、愛し合いたい、心からそう思っている」
「……はい、嬉しゅうございます。私も心よりそう思っています」

 ハクアとのキスは少しだけほろ苦い涙の味がした。

 眷族化した瞬間、何かが砕け散ったのがわかる。良かった、上手くいったみたいだな。

***

「あ、あの……英雄殿、もう少しだけこうしていてもよろしいでしょうか?」

 恥ずかしそうにぴっとり抱き着いているハクア。

「ああ、この部屋は外部と切り離してあるからな。時間もほとんど経過しないから、好きなだけゆっくりできるぞ」
「す、好きなだけ……!? 良いんですか?」
「当たり前だ。ハクアと過ごす時間に制限なんてあるわけないだろう?」

 ああ、確かに言ったさ、好きなだけってな。

 でも、もう1週間経っているんですけど!? いくら時間の経過が遅いとは言っても、もう3分ぐらい経過してるよ? もうね、眷族化がめっちゃ進んで、めちゃくちゃ綺麗になってるよ?

 白の民の女性は情が深いとは聞いていたけれど、本当なんだなと実感する。

「ハクア、そろそろ義父上が手紙を読み終えるころだろう。行こうか」
「はい、英雄殿!!」

 ハクアの手を取り部屋を出る。一週間ぶりの外の世界だ。

 普通なら、色々忘れてしまって大変なんだろうけれど、何の問題もない。

 色褪せない記憶は、ずっと俺を苦しめる呪いだとおもっていたけれど、助けてくれる祝福でもあるんだって、最近そう思えるようになってきた。

 みんなを、そして世界を救うための力なんだと信じられるようになってきた。

 隣に寄り添うのは、すっかりおなじみになった白髪の君。

 きらっきらの笑顔で見つめられたら何も言えなくなる。あれだけ一緒にいたのに、ちっとも色褪せないのはなぜなんだろう。

 ずっと一緒だったのに、この時間が終わることに若干の淋しさを感じている自分にも呆れてしまうよ。

 別にさ、このまま彼女とお別れするわけでもないのにな。

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