異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

愛と憧れは共存可能です


 爽やかな朝の風が頬をくすぐり、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 若干のけだるさの中、昨晩のことを思い出しては身もだえる。そう、俺はとうとう男になれたのだ。ふふふ、言われてみれば世界がこれまでとは違って見えるようだ。今なら誰にでも優しくなれそうなそんな幸福感。

 ふと、右腕に絡みつくやわらかい感触に気付き、思わずにやけてしまう。そうだ、今朝は一人じゃないんだった。愛しい俺の嫁さんがいるんだった。

 その可愛らしい寝顔にキスを――――

(ぎゃああああああああああ!?)

 あ、あぶねえ……思わず叫ぶところだった。そうだった、彼女はデュラハン、頭は別の場所にあるんだったな……。すっかり寝ぼけてて忘れていたよ。

 えっと、頭はどこへいったのかな? 

 見当たらないので、仕方なくリッタの身体をじっと眺める。決してナイスバディではないものの、俺好みのバランスの取れた美しい肢体に見惚れてしまう。こんな綺麗な娘が嫁さんなんて、本当に幸せものだよな。

 ずっとこうしていたいけど、そろそろ起きないとマズいか……リッタを起こして――――

(うはああああああああああ!?)

 ち、ちょっと待った、リッタの頭部さん!? そ、そんなところにいたんだね?

 突然のしびれるようなとろけるような感覚にベルトナーは、文字通り腰砕けになる。

『ふわあ……ベルトナーしゃん……おはようございましゅ……って、朝から何やってるんですか! へ、変態さん!? だ、駄目でしゅってばああああ!?』

 ……朝から一戦交えてしまった……俺は悪くない、リッタの頭部が悪いんだ……



『ど、どうでしゅか? に、似合いましゅか?』

 新しい服を着て、恥ずかしそうにくるくる回るリッタ。  

 長旅と木々に挟まっていたせいで、彼女の服はあちらこちら破れて汚れていたんだけど、生憎俺の家に女物の服なんてあるはずもなく。

 ミヅハさんが服や下着一式だけでなく、女性に必要な様々な日用品まで、すべて用意してくれたので本当に助かった。男の俺じゃ、わからないことばかりだったし。お礼に抱きしめようとしたら死ぬ一歩手前まで連れていかれたので、もう二度としないと心に誓ったよ。新婚早々未亡人とかしゃれにならないしな。

「ああ、可愛い、世界一似合っているよ、リッタ」

 多少ひいき目もあるけど、満更お世辞でもない。ミヅハさんのセンスは抜群で、リッタの魅力をいかんなく引き出しているのだ。今すぐ襲い掛かりたい衝動に駆られるが、さすがに時間がない。

『さあ、出来ましたよ、リッタさま』
『うわあ……ありがとうございましゅ、ミヅハさま……これが私なんて』

 ミヅハさんがまるで一流ヘアメイクアップアーティストのように、リッタの頭部をアレンジしてくれた。髪はよりサラサラで輝いているし、大きめのリボンが俺の好みドストライクだ。な、なぜわかったんだろう。これは感謝のハグを……いや、駄目だ、殺される未来しか見えない。

 
 あーあ……リッタのやつ本当に可愛いな。でも、だからこそ不安になってくる。この後待ち受ける展開が怖くて、不安で押し潰されそうになる。着替えを済ませながら一人悶々としていた。

『お兄様のことが心配ですか? ベルトナーさま』
「み、ミヅハさん……は、はい、正直心配でおかしくなりそうです。あ、で、でも別にカケルくんのせいなんて思ってなくて――――」 

『ふふっ、わかってます。でも、大丈夫ですよ』

 そういって微笑むミヅハさんは、この世のものとは思えない美しさで……っていうか確か精霊神なんだっけ、マジモンの神様じゃないか……ヤバいよね、カケルくんたち。

『……例えば、ベルトナーさまは、美琴さまがお好きですよね、憧れのアイドルとして』
「は、はい……」
『でも同時にリッタさまを愛することもできているではありませんか。憧れの存在を好きになるのは止められませんが、愛と憧れは似ているようで、まったく別のもの、共存可能なものなのですよ……』

 そうか……自分に置き換えてみればわかりやすいな。なるほど、たしかにそうかもしれない。

「ありがとうございます。でも、やっぱりリッタがカケルくんを好きになるのは大前提なんですね」
『それは仕方のないことですよベルトナーさま、お兄様を好きにならないことは死んでいるのと同じ、生きとし生けるものは等しくお兄様を――――ちょっと、ベルトナーさま聞いてらっしゃるのですか?』

 お兄様大好き教の説教が始まったので、早々に逃げ出す。

 でもありがとうございます。おかげでずいぶん楽になりましたよ。


***


「はじめまして。異世界の英雄カケルだ、よろしくリッタ」
『ふわあ……え、英雄しゃま、り、リッタと申しましゅ……あ、あああ握手してもらっても?』

 ……楽になったとは言ったけれど、真っ赤になってデレデレのリッタを見るのは意外ときついよ!?

「そ、そこまで! 時間切れだリッタ、はい下がって、下がって」

 たまらず間に割り込んでリッタを背中に隠す。

『ええええええ!? な、何ででしゅか!? もっと英雄しゃまとお話ししたいでしゅ!』
「だ、駄目なものは駄目なんだよ」
『はあああああああ!? 意味が分からないでしゅ! そこをどくでしゅ!』

「ふふっ、リッタ、ベルトナーは、嫉妬しているんだよ。お前を独り占めしたいんだ」
『ふえっ!? そ、そそそうなんでしゅか? ……それならそうと、言ってくれれば……』
「お、おう……その、まあ……そういうことだ。悪かったな、器のちっちゃい男でさ」

『馬鹿でしゅね……私はとっくにベルトナー……貴方のものなのに……』

 ああ、そうか、そうだよな。俺は何をビビッていたんだ。俺がリッタを信じないってことは、俺がリッタを貶めているってことじゃないか。とんだ馬鹿野郎だな……俺は。

「ごめんな、リッタ、もう止めたりなんかしない。でも迷惑にならないようにするんだぞ?」
『ベルトナー……ありがとう、愛してましゅ。じゃあ、遠慮なく――――』
 
『英雄しゃま~』


 カケルに抱き着き、離れないリッタを見つめながら、これで良かったんだよな? と自問自答するベルトナーであった。

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