異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
アーシェとシャル姉さま
「あ、いたいた、見たぞランス……いえ、シャルロット。ふふっ、本当に私にそっくりだな。むう、むしろわたしよりも可愛いような……」
「で、殿下、そんなことありえませんよ、もしそう見えるのなら、全部このドレスのおかげです」
ぎゅっとドレスを抱きしめる。私にはこれしかないから。あの方が私のために作ってくださったものだから。
「ふーん……そうなんだ」
殿下のニヤニヤした視線に耐え切れず、話題を変える。
「ところで、何か御用でしょうか? 私を探していたようですけれど」
「あ、そうそう、明日引っ越すから、準備を手伝って欲しいのだ」
「へ? お引っ越しですか? どちらへ?」
「英雄殿のお屋敷に決まってるだろう。もちろんお前も一緒に来るんだぞ、シャルロット」
「……ええええええええっ!? で、ですが、私にも職務が……」
「ああ、大丈夫、送り迎えは英雄殿がしてくれるから。なんでも、豪華な大浴場と、優秀なメイドたち、死ぬほど美味しい料理が待っているらしい……ごくり」
そ、それは……とても魅力的ですね。
「ですが、それならば、別に私が行かなくても、大丈夫なのではないですか?」
「は? お前も婚約者なのだから当然一緒に住むに決まっているだろう?」
「……ええええええええっ!? こ、ここ婚約者!? わ、私が? いつの間に?」
もう訳がわからない。たぶん顔が真っ赤だと思うけれど、そんなことを気にしている余裕は今の私にはない。
「え? 最初からだけど? 私が婚約者になるなら、当然セットでないとな。それとも……迷惑だったか?」
一転して不安そうな表情を浮かべるアーシェ殿下。
「そ、そんな顔をなさらないでください。迷惑なんて……嬉しいです……ありがとうございます」
そうか。英雄殿が別れ際にまたすぐ会えるって言ってたのはこのことか。私ったら馬鹿みたい。ふふっ、私が婚約者……英雄殿のお嫁さん……ふふっ、うふふふ。
「…………ずいぶん嬉しそうだな、シャル姉さま」
いつの間にか、ジト目で見つめられていることに気付いて慌てて正気にかえる。
「って、でで殿下、な、何ですか、その呼び方は!?」
「んふふ、実はな、父上……公爵家の方の父上が、お前を正式な養女として迎えたいらしい。男だったお前を養子にすれば、相続問題がからんでくるが、女に戻ったのなら、もはやなんの問題も無いからな。そうなれば、お前も晴れて公爵令嬢で、私のお姉さまということになるだろう? 嫌か?」
「……あの、殿下、私、生きてますよね? 幸せすぎて実感がないのです。現実感が湧かないのです」
「ふふふ、まったく頭が良すぎるというのも考え物だな。素直に喜んでいいのだぞ? えいっ!」
私の胸に飛び込んでくる殿下を慌てて抱き止める。
ああ……昔はよくこうしていたっけ。身体の弱い殿下を抱っこしたり、背負って差し上げたり、本を読んでさしあげたり……
「もう……なんで泣いているのだ、シャル姉さま」
「ですが……アーシェ殿下が……」
「アーシェって呼んでくれ」
「無理です……」
「くっ、仕方がない、ではアーシェさまで我慢してやろう」
「わかりました、アーシェさま」
「うむ、それでいい」
満足そうに頷くアーシェさまを抱きしめる。ずっとこうしたかったんだと、今ならわかる。そして、これからもずっと一緒にいられるという事実が、何よりも嬉しいのだ。
***
「ふふふ、俺史上最高の波が今ここにきている」
「ねえ、ミヤビ、なんでベルトナーのやつ、あんなにはしゃいでるの? キモイんだけど」
「おお、勇者美琴、なんでも国中から、ベルトナーに見合い話が来ているみたいですよ」
「は? 見合い? ベルトナーと? なんでまた物好きな……」
「そうでもないぞ、勇者さま。あれでもベルトナーは、優良物件で間違いないからな」
「そうなの、セレスティーナ?」
「ああ、元々末席とはいえ、円卓の騎士の一員であるし、今回のことで、領地はないものの、若くして子爵となったのだ。旦那様という圧倒的な後ろ盾も出来たし、宮廷魔導師になれるほどの魔法の使い手でもある。見た目も悪くないし、後継ぎの男子が居ない家であれば、多くの高位貴族の目に魅力的に映っていても不思議ではないということだ」
「な、なるほど、言われてみれば、そんな気もしてきたよ」
ふふふ、何だか酷く失礼なことを言われているようだが、今の俺には、そよ風のようにしか感じないね。やはり余裕があると違うのだよ、心の余裕が。
「ふふっ、諸君らもようやくこのベルトナーの魅力に気付いたようだな。今なら、絶賛謝罪受付中だぞ?」
「そういうところが評価を下げていることに気づけ!」
「だが、ベルトナー、見合いも結構だが、そこには愛などないのだぞ?」
くっ、美琴たんとセレスティーナさまの言葉が刺さる。実感がこもっている分、たちが悪い。
「う、うるさい、俺は美女とスローライフを送りたいだけなんだ! 誰にも邪魔はさせない」
逃げるように見合いの席へ向かう。
こうなったら、とびきり可愛い子を見つけて、見返してやる。見合いとはいえ、俺のことを好きになってくれる女の子だっているはずだからな。きっかけなんて何でもいいんだよ。
だけど――――
くっ、全員カケルくんにメロメロじゃないか!? 話題もそのことばっかりで、誰も俺に興味なんてもってない。いくら鈍い俺だって、そのくらい分かるんだよ。くそっ!
もちろん、カケルくんに恨みを持つなんて筋違いだ。最近は俺のために、魅力を抑える特訓をしていて、今だって素の魅力しか出していない。それでこれなんだから、笑うしかないんだけどね。
とにかくカケルくんは、本当に良い人なんだ。だから……モテないのは、俺に魅力が足りないからなんだろうな……
薄々は気付いていた。だって、前世でも一度もモテたことなんてないし、彼女だっていたことない。この世界に転生してからだってそうだ。特訓とか勉強とかを言い訳にして、ずっと逃げ続けてきたんじゃないか。お金さえ稼げばモテるだろうとか、可愛い奴隷を買えばいいとか、どこかで安易に考えてきたツケだ。
カケルくんはすごいよ、いつだって全力で向き合って、命がけで助けようとしている。そりゃモテるよな。
居たたまれなくなって、会場を出ると、中庭へと避難する。大口叩いておいて、成果ゼロとかとても言えない。
王宮の中庭は、色とりどりの花が咲き誇り、ライトアップされた様子はとても幻想的だ。恋人のいない俺にとっては、無駄にしかならないのが申し訳なく感じてしまう。
「ん? 何をしているんだ……」
少し奥まった茂みから覗く丸いお尻。本人は隠れているつもりなんだろうが、まさに頭隠して尻隠さず状態だ。
どうせやることもないし、晩餐会が終わるまでは暇だしな。
興味本位で、そっと近づくベルトナーであった。
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