異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

北方騎士団長ネージュの葛藤


「俺はカケル、異世界から来た英雄だ。遅くなってすまない、もう大丈夫だ」

 私は助かったのか? いまだに夢を見ているようで現実感がない。

 原因はわかっている。あの黒髪の青年があまりにもおとぎ話じみていて現実感がないのだ。だって、絶体絶命のピンチに颯爽と現れて助けてくれるなんて……まるで私が幼い少女のころから憧れていた英雄譚の主人公とヒロインそのものではないか。

 しかも、彼は自分を異世界人の英雄と名乗った。そんな都合のよいことが現実に起こるはずがないのだ。私のこれまでの人生のように……


「あ、ありがとうございます! 英雄殿! わ、わたしオルファと申します。動くこともできず、こんな格好で申し訳ございません」

 副隊長のオルファの声で我に返る。そうだ、夢か現実かそんなことはどうでもいい。助けてもらった事実は変わらないのだから、礼を言うのが筋だろう。自分の失態に恥ずかしくなる。

「気にしないで、オルファさん。今、回復薬を飲ませてあげるから」

 くっ、しまった。礼を言うタイミングを逃してしまった。

「あの……英雄殿? もしよろしければ……口移しで……」
 
 頬を染めてとんでもないことを言い出す副隊長。お、オルファさん!? 貴女精霊に愛されし乙女ではないのか! う、うらやま……は、はしたないぞ! 第一、英雄殿に失礼だろう? そんなの断られるに決まって……

「そうか、じゃあ口移しで……」 

 ええええっ!? い、良いのか? しかもなんか慣れてる感じが……むう……

「ふわあ……英雄どにょ……ありがとうございましゅ……」

 くっ、オルファの奴、とろっとろに惚けた顔をしてからに……そ、そんなに気持ち良いのだろうか?

 次こそはと思っていたのに、次々と他の隊員を回復させてゆく英雄殿。くっ、こういうのは苦手なんだ。そもそも殿方とまともにお付き合いしたことすらないし……お見合いも全部断ってきたからな。

 それに、さすがは英雄殿だ。一見無作為に見えるが、ちゃんと重症度の高い隊員から回復させている。素晴らしい、それは素晴らしいのだが……お前らなんで揃いもそろって口移ししてんの!? なに? ケルピー隊ってこんなでしたっけ? 初めて会った得体のしれない男に唇を許すようなハレンチ隊でしたっけ? まったくけしからん。風紀が乱れている。

 ……ところであの、私の番はまだですかね? 結構ダメージ受けていると思うんだが? ってなんでいつの間にかケルピーまで口移ししてもらってんの!? あなた方精霊ですよね? 英雄殿も断っていいんですよ? もうわけがわからない。すごいな異世界人……


***


「悪い、待たせてしまったな」
「ち、違っ!? ま、待ってなんかないでしゅ……」

 くっ、噛んだ……何たる失態。北方騎士団長たるこの私が何を小娘のように動揺しているのだ? 落ち着け、落ち着いてよく相手を見るんだ。特別なことなど何もない。異世界人とはいえ、同じ人間、ただの男ではないか。

 くっはああああ!? か、格好良い……何かキラキラしているし、いい匂いがするし、あ……これは駄目だ。完全に落ちてる。私……恋に落ちてる。好き……どうしようもないほど好きなんだ。したい……私も口移しで飲ませて欲しい。

 でも――――

「英雄殿、申し訳ないのだが、他にも襲われている人々や街がある。そちらを助けていただけないだろうか? 本来であれば私たちの仕事なのだが……頼む、時間がないのだ!!」

 私は一人の女である前に、大勢の命を預かる騎士団長だ。今は恋にかまけている時間などない。一瞬でも流されそうになった自分を強く恥じる。

「……大丈夫だ、ネージュさん。状況を見て、危険な場所から仲間を向かわせて、もうすべて終わっている。ここに来たのが最後だよ。遅くなってごめん」

 英雄殿が申し訳なさそうな表情で私の頭を優しく撫でてくれる。ああ、そうだったのですね。これで安心……って、ふえっ!? あ、あああああ頭を撫でていらっしゃる!? あわわわわ……お、お父様以外に撫でられたこと無いのに……

「あ、ごめん、ついクセで……いきなり撫でたりして悪かった」
「へ? い、いや……い、嫌じゃないから!! その……もっと撫でて……ください」

 いやあああ!? わ、私ったらなにおねだりしているの? 馬鹿なの?

「ああ、わかった。いくらでも撫でてやる、お安い御用だ」

 ああ……貴方のその優しい声と温かい手の感触に心が体が喜んでしまっている。

「それでネージュさん、回復だけど……どうする?」
 き、きききキタああああ!? とうとう運命の瞬間が……
「わ、私はこう見えて伯爵令嬢なのです……婚約者でもない方とは……」
「ああ、そうだよな。じゃあほら、これを飲んで――――」
 変わった形の器を差し出す英雄殿の手をそっと押し戻す。
「ですから、責任を取って、私をもらってください。あ、頭を撫でたのですから……」

 うわああああ!? 何言ってんの私! いくらなんでも無理がある。頭撫でたから結婚しろとか、さすがの英雄殿もドン引きに違いない。ううう……

「わかった、他にも大勢婚約者いるけど、それでも良ければよろしくな?」
「は、はい!! か、構いません! わ、私の方こそ、料理とか苦手で何もできませんけど……」
 ま、まさかのOK? くっ、こんなことならもっと真面目に花嫁修業しておくべきでした。
「大丈夫、料理は得意だし、ネージュさんにも美味しいもの毎日作ってあげるからさ」

 は、はうううう……貴方は神か? いや英雄でしたね。そんなことより、

「あの、私のことはネージュとお呼びください」
「……大丈夫、ネージュにも美味しいもの毎日作ってあげるよ」
 ふふっ、呼び捨て最高です。とても距離感が縮まった気がします。
「だからさ……代わりと言ってはなんだけど、早くネージュを味見させてくれないかな? 身体辛いだろ?」
「ふえっ!? えとえとえと……お、お願いします」

 まったく……体は治りましたが、今度は足腰立たなくなったんですけど……飲ませるだけって言ったのに……もう馬鹿なんだから! でも……大好きですよ、私の英雄殿。 

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