異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

穴があったら入りたい


 ふわっと身体が持ち上がるような感覚に意識が覚醒する。

 身体全体が、とてもあたたかく、包み込まれるような安心感が心地良い。

 唇に何かされたような感触があって、私の身体から痛みや苦しみが雪のように溶けてゆく。きっと私は死んだのだろう。魂となり、身体から解放されたのだと思う。


「無茶しやがって……でも……よく頑張ってくれたな。おかげで間に合ったよ」

 優しくあたたかい声が耳元をくすぐる。誰ですか? そうか……きっと天使さまなんですね。てっきり天使さまは女性だと思っていましたけれど、言われてみれば、そんなのは思い込みに他なりません。

 たしか、天使さまは、亡くなった家族や恋人、その人の理想の姿であらわれるとも聞いたことがあります。ということは、この天使さまは私の理想の男性像ってことでしょうか? 我ながら赤面ものです。

 いつまでもこうしていたい気持ちもあるのですが、好奇心には勝てません。私はとっても好奇心が強いのです。こうして死んでも治らないぐらいには。

 そっと目を開けてみることにします。魂だけになっても、瞼があるのかどうかは分かりませんが、現に見えないのだからあるのでしょう。


「……はうっ!?」

 慌てて目を閉じます。危なかったです。あんまり格好良すぎて、素敵すぎて、心臓が止まるかと思いました。魂に心臓なんかないと思っていましたが、ちゃんとドキドキしています。まるで生きているみたいですね。

「あの……ヴァニラ?」

 はううう、その声で私の名前を呼ばないでください。死にます。悶え死にます。あ……もう死んでいるのでしたね私。もし魂の状態で死んだらどうなってしまうのでしょうか? またまた好奇心が首をもたげます。

 はっ!? しまった。好奇心を追及している場合じゃなかった。せっかく私の理想の王子さまが目の前にいるのですから、思い残すことがないようにしないと。そう……私はキスもしたことがないのです。もっと言えば、デートらしいデートもしたことがなかったですね。いや、考えてみれば、男性とまともに話したことも無かった……仕事は除く。なるほど……その無念の思いが無意識下に蓄積していて、天使さまがこんなお姿で現れたのですね。納得です。

 ならば、女神さまが最後に下さったご褒美ということなのですね。ありがとうございます。清く正しく生きてきて良かった……

「あの、天使さま、き、キスして下さい……」

 恥ずかしすぎるので、目を閉じたままお願いする。どうせ閉じるのだからもうこのままでいいと思うのです。

「て、天使さま!? お、おう、分かった。初級、中級、上級のどれがいい?」 
「……天使さま? お言葉ですが、私はこう見えて聖級魔導師です。聖級でお願いします!」

 いくら天使さまといえども、私にもプライドがある。経験はないが、やる気はあるんですからね!

「せ、聖級だと……!? 良いのかヴァニラ?」

 あれ? どうしたのです? 天使さまともあろうお方がずいぶんと弱気なことで? 

「構いません。小娘だからといって、あまり舐めないでください」
「わかった……行くぞ?」

 
 そのあとのことはよく覚えていません。いいえ嘘です、正確には恥ずかしくて思い出したくないとも言います。はい、私は小娘でした。もうね、魂全部とろけてしまって、ああ、私はバターで出来ていたんだなって気が付きました。きっともうすでに生まれ変わっていると思います。わりと本気で。

「ヴぁ、ヴァニラちゃん……良かった。助かったのね……」
「ああ、本当に良かった、魔導師殿が死ななくて本当によかった……」

 ……へ!? なんで!? みんなが泣いて喜んでいる声が聞こえてくる。
 
 ま、まさか……全部夢だったの? あの甘いキスも全部……じゃ、じゃあ、今私をお姫様抱っこしてくれているのは……誰?

 目を開くと、あの心臓が止まりそうなほど格好良い彼がそこにいる。近くてあったかくて、とても夢とは思えないほどリアルだ。あんなすごいキスをされたかと思うと、恥ずかしくてまともに顔なんて見れないけれど。

「あ、あの……天使さまは一体何者なんですか?」

 やっとのことで言葉を絞り出す。

「俺はカケル。異世界から来た英雄だよ。よろしくなヴァニラ」

 ……異世界から来た英雄さま。天使さまじゃなかったのですね……ってことは!?

「あの……ビアンカさん? もしかして……全部見てました?」 
「ん? 見てたって、どこを? キスしてって言ったところかい? それとも、小娘を舐めないでってタンカをきったところかい? それとも――――」
「うわあああああああああああ!? も、もういいですから!?」

 うう……生きていたのは良かったけれど……死にたい、穴があったら入りたい。

 

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