異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

大地の魔獣

 
 ギガン島へは、クロドラに乗って飛んでゆく予定だ。

 出発の準備を進めていると、けたたましい音がして、竜騎士団副団長のカルラが飛び込んでくる。

「た、大変です! 白の民が北の国境に押し寄せているとの報告が入っております」
「な、なんだと? まさか……ディヴィジョン山脈を越えて来たというのか?」
 
 エレインが顔面蒼白になる。白の民って確か……ラウラさんの種族だよな? それにディヴィジョン山脈? あんなところに山脈なんて無かった筈なんだけど、まあ多少は地球と違ってもおかしくはないのか?

「違います。信じがたいことですが、ディヴィジョン山脈が消えたというのです。それで白の民が国境地帯を易々と越えてきており、一部では、すでに侵入を許してしまっているとのこと」
「山脈が……消えた? そんなことがありえるのか?」
 
 信じられない様子でいるエレインだが、嘘をつく意味もないだろうし、実際にそうなのだろう。消えた山脈とか、すごーく嫌な予感がするが、とにかく原因の究明より先に、侵入してくる白の民を何とかしなければならない。

「エレイン、北の国境付近に水源はあるか?」
「は、はい、ミスリス湖という湖がありますが……」

 キャメロニアの北限は、丁度スコットランドとの国境辺りだったはず。普通に飛んでいったのでは、時間が掛かり過ぎてしまう。

(ミヅハ! 頼めるか)
(お任せください。いつでも大丈夫ですよ)

 神々しいほどのオーラを纏った精霊神ミヅハが現れる。最近の妹は、美しさが神がかっているので困るよ。ミヅハが可愛いくて仕方がないことを、可愛い精霊神に祈りを捧げながら報告する。
(も、もう……お兄様ってば、私のことを私に報告してどうするのですか……ふふっ)

「みんな! ミヅハが国境付近まで水源転移するから、一か所に固まってくれ」
 
 精霊神ともなると、パーティごと触れずに転移させることなど容易い。一瞬で俺たち全員、国境付近にあるというミスリス湖に到着する。

 すでにこの辺りには、白の民が大挙して押し寄せており、国境付近の町や村が襲われているのは明らかだ。遠目にも、火や煙が立ち昇っているのがわかる。

「みんな急げ、なるべく白の民を傷付けずに無力化するぞ。過去のような殺し合いの悲劇を繰り返すわけにはいかないからな」
「「「「はい!」」」 

「ミヅハとモグタンは、とりあえずでいいから、国境に仮の壁を作ってくれ。これ以上の白の民が流入してくるのを止めるんだ」
『わかりましたお兄様』
『分かったモグ』

 上位精霊の力は凄まじい。みるみる国境線数百キロにわたって地面が隆起し、頑丈な壁が出来あがる。しかも表面は魔法でも溶けないミヅハの氷でつるつるコーティングしてあるので、破壊することも、登って乗り越えることも難しい。少なくとも、時間稼ぎには十分だ。

「すでに侵入している白の民に関しては、エレインの指示に従ってくれ。俺は国境を越えて白の民の様子を確認してくる。出来れば山脈が消えた原因もな」

「美琴、セレスティーナ、ミヤビ、ベルトナーくんはノスタルジアを頼む。クロエとヒルデガルドは、みんなをサポートしてやってくれ」 
「「「「分かりました!!」」」」

 念のため、何体か召喚獣を召還してから、白の民の国へ向かうべく、飛翔スキルで空へ飛び――――

『待つのだ、主!!』
 鋭く声を発し、俺を制止するのは……

「どうしたんだ、リーヴァ?」 

 現れたのは、リヴァイアサンのリーヴァ。相変わらず召喚していないのに、やりたい放題、好き放題だな。せっかくなので、ブラッシングは欠かさないけどな。

『不味いぞ主、このままでは、まもなくこの国は終わる』
 
 ブラッシングされながら、いきなりとんでもないことを言い出すリーヴァ。彼女にしては珍しく焦っているようにも見える。ブラッシングは満喫しているみたいだけどね。やれやれ、嫌な予感が当たってしまったか。

「リーヴァ、どういうことだ?」 
『……ベヒーモスだ。奴か来る』

 ベヒーモス……前にリーヴァが言っていた原初の魔獣の一角。大地を司る存在だったな。たしかにそんな奴が来たら、この国は簡単に踏み潰されちまうんだろう。そんなことはさせないけど。 

「分かった。それで、ベヒーモスは何処から来るんだ?」

『……空だ。まもなく落ちてくるぞ』
「マジかよ!? ベヒーモスってデカイんだろ?」

 リヴァイアサンもとんでもない大きさだったからな。絶対ベヒーモスもデカいに決まっている。そんなのが落っこちてきたら、国どころか、この大地まで割れちまうんじゃないのか?

『ああ、おそらく消えたデヴィジョン山脈の正体はベヒーモスに違いない。我と主の力に反応して目覚めたのかもしれんな』

 うわあ……それじゃあ俺のせいみたいなものじゃないか!? 絶対に被害を拡大させないようにしないと。

「……ちなみになんで空から?」
『……寝起きの準備運動だな』
「……ものすごーく迷惑なんですけど」

 リーヴァによれば、目覚めたベヒーモスは、目覚めの遊泳飛行をするらしい。ああ、そうか、ベヒーモスは別名バハムートだったな。そりゃ飛べるわ。

「そのまま何処かへいってしまう可能性は?」
「無いな。必ず同じ場所へ戻ってくる。というか落っこちてくるから、この辺一帯は間違いなく壊滅だな」

 くそっ、山脈サイズの魔獣がはるか上空から落ちてくるとか、ヤバすぎる。さすがに受け止めるのは無理っぽいから、空にいる間に何とかしないと。

「……なあ、リーヴァ」
『……なんだ?』
「ベヒーモスは倒すしかないんだよな?」
『……ああ、それが我らが救われる唯一の方法だ。すまんな』 
「……いいんだよ。約束しただろ? だけど、もし俺がしくじったら、その時は悪いが頼んだぞ?」
『……万が一にもないと思うが?』
「……ずいぶんと評価してくれているんだな」
『ふん……ほれ、早く行かないと手遅れになるぞ』

「ああ、行ってくるよ、リーヴァ」

 いつになく顔が赤い彼女の頭を撫でてから、ベヒーモスを倒すため空へ飛び立つ。また寝起きを襲うのかと少しだけ申し訳なく思いながら。  

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