異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

閑話 アデルの決意 後編


「さあ、着きましたわ。ここが、カケルさまのワタノハラ家のお屋敷です」

 ローラさんが自慢げにその豊満な胸を張る。

 なぜローラさんが自慢げなのかはわかりませんが、自慢したくなる気持ちはわかります。

「あの……これって、お屋敷ではなく、王宮では?」

 もちろん王宮など行ったことも、見たこともありませんが、他に例えようがないのですから、仕方ありません。

「うふふ、アデルさん。私、王宮にいったことがありますが、大きさだけなら、こちらの方が大きいです」

 実際に行ったことがあるミネルヴァさんが言うならそうなのだろう。

「な、なんか緊張してきました。私なんかが居て良い場所なんでしょうか?」
「もちろんです。さあ、仕事場へ行きましょう」


 すれ違うメイドさんたちはみんなびっくりするぐらい綺麗で、くらくらしてくる。っていうか、メイドさん多すぎないですか? もう100人以上、すれ違いましたけど!?


「ここがアデルさんの働く場所ですね。ちょっと待っててくださいね」

 目の前にそびえたつ、巨大なガラス張り? の建物にミネルヴァさんが入ってゆく。ここが私の職場になるのでしょうか?

「ミネルヴァさん、彼女が募集で来てくれた子ですか?」

 建物から出てきたのは、見たこともない不思議な衣装を着た、黒髪の女性。

 どれぐらい見入っていたのでしょうか。息をするのも忘れていたことに気付いて驚きます。美人とか綺麗とかそんな言葉ではとても表せないです。妖精? 精霊? 女神様? この方も異世界人なのでしょうか? 漆黒の髪が、艶やかに輝いているように見えます。

「初めまして、サクラ=オルレアンです。この植物園の所長を務めています」
「あ、あの、アデルと申します。精一杯頑張りますので、宜しくお願いいたします」
 
 お話によると、サクラさまは、植物魔法の使い手で、カケルさまのために、様々な珍しい果実や、作物を育てているんだとか。私の仕事はそのお手伝いだそうです。

「あ、あの、私、実家では果樹農園をやっておりましたので、お役に立てると思います」
「ふふっ、ありがとうアデルさん。期待しています」

 にっこり微笑むサクラさまがまぶしい。

 うわあ……サクラさま可愛い。女性同士なのにドキドキしちゃいます。 


***


 あれから、1週間、お手伝いという雑用係だった私ですが、サクラさまに気に入られて、今では助手という栄誉ある役職に就いたことで、お給料も凄いことになっています。たぶん、1週間で、うちの実家の一年分ぐらい? 

 植物園は、どんどん拡張されていて、人手が慢性的に不足している状況。サクラさまから、家族を呼んだらどうかとお誘いをいただいたので、先日手紙を出したところです。

 お仕事もとてもやり甲斐があって、毎日がとても充実しています。だって、私の作ったものが、カケルさまがお作りになる料理の材料になるんです。こんな嬉しいことはありません。

 もっとも、カケルさまは忙しく世界中を飛び回っている状況で、このお屋敷にもほとんど帰ってきていないのだとか。婚約者のサクラさまですら、あまり会えていないそうですからね。

 そんな訳で、ここで働き始めてから、まだ一度もカケルさまをお見かけしたことすらないのです。

 まあ、昔少しだけ話した程度の関係ですから、憶えていただいているかどうかも怪しいですけれど。間接的にでも、カケルさまのお役に立てているならば、それで十分満足なのです。


***


「サクラ、いるか?」

 植物園に響き渡る懐かしく、決して忘れられない優しい声。

「あ、あの……さ、サクラさまなら、奥の研究室に――――」

 優しい表情に吸い込まれるような黒い瞳。記憶よりもずっとずっと素敵な男の人。夢にまで見た私の王子様がそこにいたのです。

「あれ? アデルさん? なんでここに? あ、ほら以前会ったんだけど憶えてるかな?」

 憶えていてくれた……しかも名前まで。忘れるはずないじゃありませんか。自分のことを忘れても、貴方のことは絶対わすれたりなんかしないのです。

「……さ、サクラさまの助手をしています。カケルさまのお役に立ちたかったんです……だから」

 駄目です。涙が止まりません。こんなことカケルさまを困らせてしまうだけなのに……

「アデルさん……ありがとう。良かった、ずっと後悔していたことがあるんだ」
「……後悔ですか?」

「ほら、あの時、ご両親がうちの娘を嫁にって言ってたろ? あの時は俺、この世界に来たばかりでさ、それどころじゃなかったんだけど……」
「えっと……それってどういう意味ですか?」

 顔から火が出るほど恥ずかしい。言葉がうまく入ってこないのです。

「あの時の提案はまだ有効かな? アデル、良かったら、俺のお嫁さんになってくれないか」

「……ふえっ!?」

 お、オヨメサンってなんの植物でしたっけ? 頭が真っ白になって理解が追いつきません。

「まあ、他にも婚約者がたくさんいるし、これからも増えるかもしれないけど、絶対に幸せにするよ。それだけは約束できる」

「う、うぐっ、ふ、ふぇ……うわあああああん」
「ち、ちょっとアデル?」

 突然泣き出した私を一生懸命抱きしめ頭を撫でてくれるカケルさん。ごめんなさい。当分泣きやむなんて無理そうです。

「……ちょっと、王子様? 私の可愛い助手を泣かさないでくださいね?」
「へ? あ、あのこれはその、ごめんなさい」


「……ぷっ、あははははは」

 今度は可笑しくなって、笑いが止まらなくなってしまいました。ごめんなさい。カケルさま。

 
 
 

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