異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

知らないけれど知っているその想い


 エメロードラグーンは、七つの大きな島と無数の小島から構成される国家であるが、七つの島の一つ、ジャッド島は、深い密林に覆われた島ゆえ、略奪の手からは、今のところ逃れていた。

「サフィールさま、もう見ていられません。エメロードラグーンは、もうお終いです」

 海賊どもの手を逃れてこの島に集まった人々は、涙ながらに訴える。

「貴方様なら、エメロードラグーン最強の戦士である貴方様ならば、皆を助けられるのではないですか? なぜ動いてくれないのですか!?」

 そう、サフィールは、この国最高戦力の一人。このジャッド島の領主でもあり、七海聖に数えられる戦士であった。


 サフィールは、その髪と同じぐらい青いサファイアブルーの瞳に悔しさをにじませながら、口を開く。

「すまない。私が行けば、ある程度は戦えるだろう。敵の戦力を多少は減らすこともできる」
「だったら、なぜ?」

「だが……それだけなんだ。それ以上でも、それ以下でもない。奴らは、周到に準備をして事に臨んでいる。我らの魅了が通じないのもそうだし、海中に逃げられないように、周囲に網を張り巡らせ、周囲に毒を撒くほどの徹底ぶりだ。そして何より……奴らには勝てない」
「……敵の指揮官、パーシヴァルとガウェインですか……」

 敵将パーシヴァルとガウェイン。船団の指揮官としてキャメロニアにやってきた悪夢のような存在。

 冷酷無比で、逆らうものはことごとく倒されてしまった。サフィールも、遠目から見ただけだが、その圧倒的な強さに、瞬時に負けを悟らざるを得なかった。

 ガウェインは、太陽が昇り日が沈むまでの間、戦闘力が3倍になるという化け物だ。そしてパーシヴァルは、日が沈んでから夜が明けるまでの間、やはり戦闘力が3倍になる。つまり、付け入るスキがまったく無いのだ。

「ここで私が出て行ったところで、事態は何も変わらない。むしろ悪化するだろう。ここに居る者たちまで捕まってしまったら、本当にエメロードラグーンは終わってしまうのだから……」

(それに、おそらくシェーラ殿下は無事逃げだせたはずだ……)

 サフィールは、幼い従妹の無事を願う。

 シェーラ殿下には、妹のキトラがついている。あの妹なら、包囲網を抜けられたはずだから。それに捕まったという情報もこれまで届いていない。

 ならば、今は耐えるしかない。パーシヴァルとガウェインさえ居なくなれば、勝機は十分あるのだ。残された民とシェーラ殿下のためにも自分が動くわけにはいかない。

 わかってはいても、そう自分に言い聞かせても……目の前で、愛する国が蹂躙され、家族や仲間、友が連れ去られるのを正当化できるはずもない。

 サフィールは血がにじむほど、強く……ただ強く拳を握りしめる。


「あ、あれは!?」

 この島を目指して必死に泳ぐ一人の幼い半魚人族の女の子。その後ろからは赤毛の男たちが下種な笑い声を上げながらボートで追ってくるのが見える。


 あと少しで男たちの手が女の子に届くと思った瞬間、

「ぎゃあああああああ!?」

 男たちが切り裂かれて海に落ちてゆく。

「……大丈夫か?」
「あ……サフィールさま……ごめんなさい。私……」

 泣きそうな顔で謝る女の子。背筋に強烈な悪寒が走る。


「ふん、やはりまだ隠れていたか。まんまと罠にかかるとは傑作だなおい?」

 サフィールの背後で笑う男の声。

「くっ、お前は……ガウェイン」  
  
 最悪だ……自らの失態を悟るがもう手遅れだ。

「へえ……俺のことを知ってるなんて、有名になったもんだな」

 ガウェインは、へらへら笑うながら魔剣ガラティーンを引き抜く。

「……安心しろ。お前は綺麗な顔をしているから殺しはしねえよ。なんたって大切な商品だからな」

(……ならば勝機はあるか? 油断している今ならあるいは……)

「おっと、変なことを考えないほうがいいぞ? もし抵抗したら、その女の子を殺すからな?」
「くっ……外道が……」

「おほっ! いいね! ゾクゾクするぜ。決めた。お前は俺がもらう。良かったな、英雄の奴隷になれるなんて女神に感謝するんだな――――ぎゃああああああああ!?」

 なんだ? いったい何が起こったんだ? なぜ、ガウェインが倒れたんだ?

 訳がわからず困惑するサフィール。


「ふざけるなよ……てめえみたいなクズが、イリゼ様を呼び捨てにするんじゃねえ……」

 優しいけれど強い怒りがこもった声。見たこともない髪色と瞳の青年がそこに立っていた。

 一体いつの間に? しかも立っているのは海の上。どうなっているのだろうか?
 

 その青年の髪は、夜の空よりもなお暗く、その瞳は深海よりも深く吸い込まれそうな深淵。私の国には存在しない色。

 ああ……私はその色の名を知っている。

 遥か昔のまた昔。エメロードラグーンにやってきた英雄の色。

 すべてを塗りつぶし、何色にも染まらない。

 異世界からやってきた圧倒的な強さの色。

 たしか……『黒』というのだったな。


「大丈夫か? 俺は、カケル。異世界人の英雄だ」

 そういって笑う笑顔がまぶしくて。不覚にも見惚れてしまった。

 高鳴る鼓動が打ち寄せる波のように私の心を侵食してゆく。

 これまでの人生で感じたことがない想いに困惑が広がってゆく。

 ああ……私はこの感情を知らないけれど知っている。


 たしか……『恋』というのだったかな。

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