異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

ヒモアーマー


「カケルさん……そんなに悲しまないでください。そのかわり王族はヒモです」

 落胆する俺を見かねて、カミラさんが優しく教えてくれる。

 
 だが、一瞬何を言われたのか俺には分からなかった。刹那だ、天才の刹那を呼ぼう。急いで刹那を念話で呼び出す。

『ん? どうしたの駆』
『刹那、助けてくれ、ヒモの意味がわからないんだ……』

 いや、ヒモの意味は分かるんだが、そうじゃないんだ。って意味不明ですまんな刹那。

『……女性にお金を貢がせて生活している男のこと? それとも細長い物のこと?』
『分からないんだ……王族はヒモ……キーワードはそれしかない』
『……ごめんね、意味がわからない』

 くっ、刹那でも駄目なら一体どうすれば……ここは恥を忍んで本人に聞くしかないか。

「あの……ヒモって何です?」
「ああ、ごめんなさい。それだけじゃわからないわよね。ヒモアーマーのことよ」

 がはっ!? ヒモ……アーマーだと? それは本当にアーマーなのか? 防御力ゼロなのに? いや待て早まるな。俺が知っているヒモと違う可能性がまだ残っている。

「ちなみにヒモアーマーに用いられるヒモは、アトランティア名産である天空糸を使った伝統工芸品アトランヒモよ」

 カミラさんによると、王族は、その美しいヒモを身に着けることで、伝統工芸を守り、宣伝しているのだとか。誰の発案か知らないが、どうやらアトランティアは、偉人の島らしい。

 
 となれば、気になるのはヒモの幅だが……さすがに聞くのは憚られる。


「でも、カミラさん、ヒモじゃ大事なところが隠せないんじゃないですか?」

 女神降臨……クロエ、お前は天才か? 常々できる妹メイドだと思っていたが、想像以上だったよ。

「ふふっ、そうなのよ。結構ぎりぎりを攻めてるから、見てるほうがハラハラしちゃうわ」

 ぎりぎりキタあああああああ!? 待ってろよアトランティア。幅の広いヒモは俺が全部買い占めてやるからな。そうすれば、ふふふ……いや待て、俺が見る分にはいいけど、リリスのヒモアーマー姿を他の男に見られたくはない……くっ、俺は一体どうすれば。

 
 いくら悩んでも答えなんか出やしない。もう真っ白に燃え尽きたよ……クロエ、カミラさん……俺はもう駄目だ。構わず先に行ってくれ。

「クロエちゃん……カケルさん、どうしちゃったんでしょうね?」
「大丈夫です。数秒後には元に戻っていますから」


***


「リリス! 黙ってこれを着てくれないか」

 屋敷に戻った俺は、リリスのために作った装備を渡す。

「……これを私に着ろと?」

 さすがのリリスも引きつった表情を浮かべる。

 渡したのは、特製のヒモアーマー。どんな動きをしても安心機能搭載の逸品だ。悩んだ末、出した答えが、自分で作ることだったのだ。


「先輩……一体どんなプレイなんですか?」
「駆……変態」
「お兄ちゃん……最低」
「大海原さん……そんな趣味が……」
「大海原くん……二人きりなら……いいよ?」

 くっ、異世界組から容赦のない誹謗中傷の嵐……えっ? ひめか、二人きりならいいの?


「誤解しないように、これはアトランティア王族の正装なんですよ?」

 再び女神降臨。ナイスだクロエ。俺が力説しても説得力ないし、変態にしか思われないからな。

「えっ……本当なの……カミラ?」

 信じられないリリスは、助けを求めるようにカミラに確認する。

「はい、リリスさまは、百年以上里帰りされていないみたいなのでご存じないかもしれませんが、間違いございません」


「嫌あああああああ!?」

 崩れ落ちるリリスを抱きしめる。そりゃそうだ。自分で作っておいてなんだが、これはヤバい。人前で装備できる代物では断じてない。

「ううう……カケル、私帰りたくない」
「リリス……無理しなくていい。着たくなければ着なくたっていいんだぞ」

「大丈夫ですよ、リリスさま、さすがに着ないのは無理ですが、後ろだけがヒモのタイプもあるそうですし」

 後ろだけヒモだと……ゴクリ……それはそれで……いやむしろそっちのほうが……ぶつぶつ。

「そうなの? それなら何とかなりそうね」

 嬉しそうなリリスだが、これは確信犯の仕業だな。最初にあのヒモアーマーを見た後なら、後ろ半分ヒモアーマーくらいなんてことない気になってしまう。最初から後ろ半分ヒモアーマー出したら、たぶん嫌がっていたに違いない。どこの誰かは知らないが、グッジョブと言わせてもらうよ。


「わかった、じゃあ作り直すから、リリスは一緒に来てくれ。サイズを合わせたい」
「お願いね、カケル」

 うっきうきで寝室に向かう二人に待ったがかかる。

「ちょっと待ったああああ!」
 
 婚約者たちは顔を見合わせ頷き合う。

「……私たちにも作ってください」

 へ? マジか? いいの? 作っちゃうよ? やっほーい。

 調子に乗って作った装備、後ろ半分ヒモのメイド服、後ろ半分ヒモの甲冑、後ろ半分ヒモのドレスetc... 楽しい……作るのは大変だけど、全然苦にならない。

「駆、どうかな……?」

 恥ずかしそうに、後ろ半分ヒモの白衣を着る刹那がヤバい。っていうか白衣の意味がない。

「旦那様、おかしくないだろうか?」

 これまた恥ずかしそうに、後ろ半分ヒモの甲冑を装備するセレスティーナ。はっきり言おう、おかしいです。背後からの攻撃に対してはザルです。でも最高です。


「カケルさん……盛り上がっているところ申し訳ないんだけど……」
「ん? どうしたんですか、カミラさん?」

「ひょっとして気付いてないみたいだから言いますけど……それ、カケルさんも着るんですよ?」
「…………は?」

「え? もしかして本当に気付いてなかったの? 私の夫になるんだから当然カケルも王族扱いだからね」

 ば、馬鹿な……俺がそんな恰好して、誰得なんだ?

(お兄様、私を含めて皆さまお喜びになると思いますよ!)

 駄目だ……ミヅハに退路を断たれてしまった。仕方がない。あきらめて俺専用の装備を作るしかない。

「カミラさん……もしかして、男の王族もヒモアーマーなんですか?」
「うふふ、さすがにそれはないわ。男性はヒモふんどしよ」

 ……ふんどしもあるんですね……でも良かった。良くはないけど変態っぽさは大幅減だ。陛下のヒモアーマー姿とか見たくないし……


「なあ、リリス……」
「なあに、カケル」

「なんか行きたくなくなっちゃったんだけど、行かないとだめかな?」
「すごーく気持ちはわかるけど、行かないと駄目よ?」

 わかってる。言ってみただけさ。さあレッツ、アトランティア!


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