異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
『氷の翼』 よく頑張りましたね
キタカゼがリーダーとしての判断を悔やんでいたのと同じように、実はフリューゲルも己の責任を強く感じていた。
主から力になってやってくれと頼まれていたのに、乗り物としての自身の役割に満足してしまっていた。完全に油断していたのだ。
いち早く魔物の動きを察知していながら、距離が離れていたこと、いざとなれば排除出来ることから、キタカゼに報告しなかったことを悔いる。その結果としてこの事態を招いたのだから。
もはや自分に出来ることは、コンマ一秒でも早く現場に到着すること。そして主に不利益を与える敵を殲滅することしかない。
自分への怒りと不甲斐なさに美しき空の王者は咆哮する。
かつてないスピードでフリューゲルは飛ぶ。翼が悲鳴を上げ、骨が軋むのも構わずに飛ぶ。
ネストの町を発ってから約1分という驚異的な早さで、一行は現場付近に到着したのだった。
***
眼下には、集落を囲むように展開する無数のオークの集団が見える。
集落を中心に、騎士団らしき集団が必死に戦ってはいるが、多勢に無勢。このままでは陥落するのも時間の問題だろう。
『ちっ……よりにもよってオークかよ』
苦り切った表情でうめくシュヴァインたち。
『シュヴァイン、シュタルク、ハルク、ハルト、お前たちは背後から敵を蹴散らし進軍を止めてください。集落は私が守ります。行って!』
『『『『応!!』』』』
4人のパーティメンバーが次々と飛び降りてゆく。
『フリューゲル、これだけの集団です。出来ればボスを探して叩いてください』
『承知!!』
それだけ言い残してキタカゼは集落へと飛び降りた。
***
『!? なんだ貴様は?』
突然空から落ちてきた正体不明の人間に驚くオークたち。
『……悪いがお喋りしている暇はねえ……死ね』
シュヴァインが命じると、オークたちが絶命してゆく。
『貴様!? 何をした? 許さんぞ』
バトルアックスを装備した巨体のオークが姿を現す。
『……ハイオークか。誰にものを言っている……跪け』
『がっ……な、なぜだ!? なぜ体がいうことを聞かない? ……ぎゃああああ!?』
命令により跪いたハイオークの頭を蹴り飛ばし絶命させる。
『雑魚が……オークエンペラーの俺の命令には逆らえないんだよ。てめえがオークである以上な』
オークやゴブリンなどの種族は、上位種には絶対服従。その種族特性ゆえに、集団で無類の強さを発揮するのだが。
『こちとら、飯を邪魔されて苛ついているんだ。覚悟しろよ……』
シュヴァインたち、オークエンペラーによるオーク蹂躙が始まるのだった。
***
「撃てぇ!! 絶対に奴らを近寄せるな!」
弓矢と攻撃魔法が次々と放たれ、バタバタとオークが倒れてゆくが、その屍を乗り越えて、倍の数の新手が集落に迫る。
「くそっ、キリがない。このままでは……」
オークどもを接近させまいと奮戦してきた騎士団だったが、すでに限界が近い。
パワーに特化したオークと接近戦になれば、非戦闘員を守りながら戦っている騎士団は、数で押し込まれるのは明白だ。
「諦めるな! 英雄イソネ殿が、必ず敵軍を止めてくれる。時間を稼ぐのだ!」
指揮官のフランツも、必死に声を張り上げ味方を鼓舞する。
(イソネ殿……急いでください。もう長くは持ちません……)
もとより、勝てる見込みはほとんどなかった。
それでも騎士団が集落に残り迎え撃ったのは、夜間に非戦闘員を多数抱えて逃げることのリスクが大きすぎたからだ。
朝になれば、ポルトハーフェンから援軍が到着する。その時間を稼ぐために、イソネ殿が単身敵の本隊に乗り込んだのだ。ここで我々が諦めるわけにはいかない。
イソネ殿が敵のリーダーを潰して進軍を止めることができれば、勝ち筋が見える。皆がそう考えていたのだが……
誤算があったとすれば、当初500と見ていた敵勢が、実際にはその何倍もの軍勢だったということだろう。もはやどれほどの敵がいるのかわからないが、やるべきこと、できることは変わらない。
オークが得意とする接近戦に持ち込ませないこと。とにかく1分1秒でも時間を稼ぐことだけだ。
「フランツ隊長、一部突破されましたあああ!?」
騎士たちの絶叫が響き渡る。
「慌てるな、私が止める。総員そのまま体制を維持するんだ!」
一番恐ろしいのは総崩れになることだ。フランツは抜剣して前に出る。
『ぐるるわああああ』
唸り声を上げながら迫ってくるオークが5体。はっきり言えば私の力量では厳しいだろう。
(だが、刺し違えてでもここで止める……)
フランツの死を覚悟した悲壮な戦いぶりに騎士団は最後の気力を奮い立たせる。
「隊長にに続けえええ!! 一歩も通すなああ!」
――――だが、無情にも数の暴力の前に、精神論だけではどうにもならない。
もはや剣も折れ、立っているのがやっとのフランツに、新手のオークが棍棒を振りかざす。
(そうか……お前が俺の死か)
受ける力も避ける気力もすでにない。オークが振り下ろした棍棒は、フランツの体をトマトのように潰 ――――さなかった。
『……よく頑張りましたね。貴方たちが稼いだ時間は、間違いなく意味があったのですよ』
突然舞い降りたアイスブルーの奇跡。
聞くだけで魂まで魅了されそうな涼やかな声色に、その女神と言われても納得してしまいそうな絶世の美女がそこにはいた。物言わぬ氷柱となったオークどもを背景にして。
その氷すら溶かしてしまいそうな微笑みに、騎士たちはここが戦場であることを忘れて見惚れてしまう。
『ぐるるわああああ』
新たなオークの軍勢が集落に迫ってくる。
『愚かな……力量差もわからないとは所詮オークか……アイスジャベリン!』
数百本の氷の槍がオークどもを容易く貫き、その場で氷柱に変える。
「ば、馬鹿な……中級魔法であの威力と数は信じられん……」
騎士団の魔法士が驚くのも無理はない。キタカゼのそれは、アイスジャベリンに見せかけただけの別の何かなのだから。
『私はキタカゼと申します。つかぬことを伺いますが、イソネ殿はどちらに?』
集落に迫るオークをすべて氷柱に変えると、にこやかに尋ねるキタカゼであった。
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