異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
『氷の翼』 ネストの街へ
一方、邪神に対抗するスキルを持つ人物を追ってネストへ向かったキタカゼたち『氷の翼』パーティ一行。
『見えた……あれがネストね』
フリューゲルの背の上でキタカゼがつぶやく。
本当は、ハーピィ形態になって一人で飛んで行きたいのだが、彼女にとってカケルの命は絶対であり、全てに優先される。
そのカケルに託されたパーティメンバーをまとめ、ターゲットを一刻も早く発見すること。そのことだけにキタカゼは集中していた。
『なあ、ネストに着いたら今度こそ酒場……ぐべらべほぉぇぁ!?』
死なない程度に痛めつけられ氷柱にされるシュヴァイン。
『やっと静かになりましたね。クソ豚が』
『……シュヴァインもたいがいめげないよね……』
心底呆れるシュタルク。
『だが、気持ちはわからないでもない。もうすぐ夜だ、早くターゲットを発見したいものだな』
ハルクの言葉に頷くシュタルクとハルト。基本的にオークは飲み食いが好きなのだ。
歌や踊りが好きなハーピィとは方向は違えど、キタカゼにも理解は出来る。
『そうですね、ターゲットを発見出来たら、貴方たちは自由にして良いですよ』
ありがたいと沸き立つメンバーたち。
『ただし、ネストの町で発見出来なければ、すぐに出発しますからね?』
きっちり釘を刺すキタカゼに、やはりそうなるか、と互いに顔を見合わせるメンバー。
どうかネストで、ターゲットを発見出来ますように。祈るような気持ちで、一行はネストの町に向かう。
***
ネストは広大な大森林の辺縁部に位置し、林業が主要産業の小さな町だ。
町から大森林を抜けて北上するとアルヘイス山脈を越える王都への最短ルート。
大森林に沿って西へ進むと、港町から船で王都に向かう迂回ルートとなる。
どちらへ進むにせよ、王都に向かうならば、必ず経由する町ということになるのだ。
「ようこそ、ネストの町へ!」
キタカゼたちを迎える衛兵の表情も明るく、心から歓迎されているのが伝わってくる。
『へへっ、なんか感じの良い町だな』
『そうだね。町の空気がそう感じさせるのかな?』
シュヴァインとシュタルクも自然と表情が柔らかくなる。祭りの最中なのか、屋台が多く立ち並び、人々はそこかしこで楽しそうに飲み食いをしている。正直オークたちには目の毒でしかない。
『なあ――――んぐっぐう……な、何すんだよ!?』
口を開きかけたシュヴァインの口を、シュタルクとハルトが慌ててふさぐ。こんな町中で極力騒ぎを起こしたくはない。
『……さっさと冒険者ギルドへ行きますよ』
シュヴァインたちを絶対零度の視線で一瞥すると、冒険者ギルドへと歩き出すキタカゼ。
『へーい、わかりましたよ』
未練がましく屋台を眺めながら、シュヴァインたちは渋々歩き始めた。
(頼むぜイソネとやら。この町に居てくれよな……)
***
ネストの冒険者ギルドは、町の中心部にあることもあって、すぐに見つけることが出来た。
頑丈な石造りの3階建の立派なもので、少々町の規模に見合わない印象すら受ける。おそらく、大森林に面していること、王都への要衝であることで、訪れる冒険者が多いことが理由だと思われる。
「こんばんは、冒険者ギルドへようこそ!」
キタカゼたちを出迎えたのは、可愛らしい猫の獣人の受付嬢。
シュヴァインたちは色めき立つが、キタカゼは不機嫌そうに、キッと目を細める。
(獣人……しかも猫ですか……王さまを惑わす泥棒猫……)
ただモフモフであるというだけで、王さまの寵愛を受けるのが気に食わないのです。クロエさまやアイシャさまは王さまに尽くしているから別ですけれど。
「ヒッ!?」
キタカゼの凍てつくような視線を受けて、怯える受付嬢。何を言われた訳でもないのに震えが止まらない。
『……綺麗な毛並みね……』
(王さまが喜びそう……全部むしり取ってやりたい……)
「あ、ありがとうございます……」
心底怯えきった可哀想な猫獣人の受付嬢は、やっとのことで返事を返す。
『……ギルドマスターを呼んで頂戴』
冒険者カードを見せるキタカゼ。
「え、A級冒険者さまでしたか!? 申し訳ございません、ギルドマスターは、会議出席の為、王都へ向かいまして……当分の間戻らないのです」
申し訳なさそうに頭を下げる受付嬢。
『……だったら代わりの責任者を呼びなさい。そんなことも言われなければわからないのですか?』
「ヒッ!? も、申し訳ございません。すぐに呼んで参ります」
慌てて席を立ち、奥へ向かう受付嬢。
『……歩かないで走りなさい』
「す、すいません!?」
パタパタ駆けてゆく受付嬢を憐れみの視線で見送るパーティメンバー。
なぜキタカゼが不機嫌なのか分からない為、怖くて口を出すことが出来ないのだ。
『あ、あのう……キタカゼさん?』
『……何か?』
振り返ったキタカゼの表情に凍りつく一同。
『な、何でもないです……』
これは危険だ……さすがのシュヴァインですら空気を読んで引き下がる。
「お待たせしました、ギルドマスター代理のシャロと申します。訳あってサブギルドマスターが不在の為、私が現在責任者ということになります」
やって来たのは、美しい白猫獣人のシャロ。
シュヴァインたちからも、思わずため息が漏れる。
(また猫獣人……もしかして、ここは泥棒猫ギルドなのでしょうか?)
『ご丁寧にどうも。A級冒険者パーティ『氷の翼』リーダーのキタカゼと申します。実は人を探しておりまして……』
「A級冒険者さまが、探し人ですか? お力になれると良いのですが……」
『イソネとリズという二人を探しています。路傍の花という冒険者パーティと一緒に王都を目指して、この町に寄ったはずなんですが?』
「ああ、イソネさんたちのお知り合いだったんですか」
シャロの言葉に喜ぶメンバーたち。だが――――
「でも残念、入れ違いでしたね、イソネさんたちは今日、この町を出発したばかりなんですよ」
『嫌あああ!?』
ギルド内に、シュヴァインの絶叫が響き渡るのであった。
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