異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

領都パラディの奇跡 金髪金眼の敏腕メイド


「おい、ラムー、ちゃんと耳を揃えて返してもらうからな、ぐふふ」 

 地主のゲドウさんが笑いながら出て行く。

「貴方……どうするの?」

 親子3代、ずっとこのパラディで、最高品質のブタウシを育てて来たが、それも俺の代で終わることになりそうだ。

 先日、何者かが放った矢を膝に受けてしまい、歩くことも困難になってしまった。おまけに矢には毒が塗ってあり、治療には高額な費用がかかる。

 どうしたものかと困っていたら、ゲドウさんが費用を立て替えてくれたのだが――――

「すまない、まさかあんな条件が書いてあったなんて……」

 立て替えの証文には、1月で10割の利息が付くとなっていた。おまけに返せなかったら娘を渡すとまで。返済期限まであと一週間しかない。

「仕方がない。ブタウシと牧場を売ろう。娘を守るにはそれしかない」
「そうね……大丈夫、私も頑張って働くから。お金を貯めてまた牧場を再建すれば良いのよ」
「……そうだな。ありがとうシリル」

 思えば、妻のシリルには苦労ばかりかけてきた。俺には過ぎた女性だといつも感謝している。


「くそっ、一体どうなっているんだ!?」 

 ブタウシと牧場を売ろうとしたが、みな申し訳なさそうに買い取れないと言ってきた。もちろん捨て値なら買い取る商人も居たが、返済額に届かないのであれば意味はない。

 絶望に打ちひしがれて家に帰る。妻になんと言えば良いのか?

 何だか家の中が騒がしい。来客だろうか?

「ただいま、お客さんかい?」
「あ、貴方、待ってたのよ! この方がブタウシを売って欲しいって」

 見れば珍しい黒髪の青年が立ち上がり、頭を下げる。男に見惚れちまうなんて人生で初めてだけど、それくらいの色男だ。脇に控えるメイドも見たこともないくらい、非現実的な美しさ。きっと何処かの貴族さまに違いない。

「カケルといいます。この国に旅行で来ているんですが、ブタウシがとても気に入りまして。出来れば定期的に肉を売って欲しいのです」

 貴族さまなのに、本当に腰が低くて物腰の柔らかい方だ。有り難くて涙が零れ落ちる。

「うぇっ!? ど、どうしたんですか? 俺、変な事言いましたか?」

 金髪金眼のメイドが何かを耳打ちすると、青年の顔色が変わる。

「もし良かったら、事情を聞かせてもらえませんか? 力になれると思いますよ」

 その眼差しが優しくて、温かくて、すべてを話してしまった。


「事情はわかりました。少しだけ待っていてください。行くぞヒルデガルド」
『はい、カケルさま』

***

「ぐふふ……あと少しでアリアが手に入る。少々手間と金がかかったが、安いものだ」

 下品な笑みをこぼすゲドウ。

『貴方がゲドウさまですね? ちょっと良いかしら?』

 信じられないほどの美しいメイドに声をかけられ呆然とするゲドウ。すべてを見透かすようなその瞳にあっという間に魅了されてしまう。

「たしかに俺がゲドウだが……」

 冷静を装いながらメイドの頭からつま先までじっくりと舐め回すように鑑賞するゲドウ。

(なんて良い女なんだ。どんな手段を使ってでも俺のものにしてやるぞ……ぐふふ)

 メイドの顔が嫌悪に歪んでいることにも気付かず、ゲドウはメイドに促されるまま角を曲がると、ゲドウの意識はそこで途絶えるのだった。


***


「すいません、お待たせしました」

 20分ほどして戻って来た青年とメイド。

「地主のゲドウと平和的に交渉しまして、牧場と周辺一帯の土地はラムーさんに譲るそうです。あと、先日の矢の件はゲドウの仕業だとわかりましたので借用書は無効。慰謝料として全財産を渡すそうです。これが借用書と慰謝料、そして土地の権利書です」

「…………は?」

 俺も妻のシリルも話について行けず、間抜けな声を出してしまう。

「あ、あの……それでゲドウさんは?」
「ああ、彼なら己の犯した罪に耐えきれなくなったようで自首したみたいですよ?」

 ようやく頭が現実に追いつき、困惑が安堵に変わる。

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます! なんと御礼を言えば……」
「ふふっ、俺は美味しいブタウシが食べたいだけですから!」

 本気とも冗談ともつかない様子で笑う黒髪の青年。

「あ、ラムーさんにひとつだけお願いがあるんですが……」

 これだけの事をしていただいたのだ、何でも応えよう。そんなことを言うとは思わないが、娘を要求するなら全力で説得しようとすら思う。

「出来ればブタウシの生産は続けて欲しいんです。もちろん無理にとは言いませんけど」
「へ? それだけですか?」

「はい、それだけです」
「わ、わかりました。カケルさまの為に、最高のブタウシを育てますよ!」

 もともとお金の為にブタウシを生産してきた訳じゃない。やってやろうじゃないか、俺の誇りにかけて。


***
 

「最高のブタウシが手に入ることになって良かったな」
『ふふっ、そうですね。カケルさま。ですが……』
「ん? どうしたヒルデガルド?」

『あのゲドウとかいう男に視線で汚されて、悪寒が消えないのです……』

 責めるような、期待するような熱い眼差しでそっと身を寄せるヒルデガルド。

「それは辛かっただろう。ちょっと屋敷に戻るか? 俺がたっぷり清めてやろう」
『うふふ、でも時間が無いのでは?』
「心配するな、イヴリースからもらった時空魔法を使えば、3分が30分になるからな。あくまで体感だが」

『カケルさま……』
「ん? なんだ、ヒルデガルド」
『……最高です』

 俺たちは屋敷に戻り寝室でゲドウの邪気をしっかり清めると、再びパラディに戻り情報収集を続けるのだった。

 ……後でしっかりクロエにバレて、クロエも清めるはめになったけどね。

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