異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

ノスタルジア=アルカリーゼ


「呪いは王家の子孫の身体を蝕んでゆき、長男は成人を待たずに病死してしまった。長女は生きてはいるが、はたしてあれを生きていると言っていいのか……」

 国王レイは、悲痛な表情で項垂れる。

「このままではアルカリーゼ王家は私の代で終わる。いや、誤解しないで欲しいのだが、王の地位にしがみついている訳ではないのだ。この呪いは、この国の王となったものへと移ってゆく。だから逃げることも出来んのだ」

 なるほど……仮にミヤビの父親である王弟が王位を継いだら、ミヤビにも呪いがかかるってことか。

 そんな答えの出ない絶望の中で、この人は王として懸命にこの国を守ってきたんだな……

 なんとか助けてあげたい。

 まずは情報を集めて対策を練らないと。おっと、その前に。


「陛下、どうぞこれを飲んでください。あらゆる状態異常・病・肉体の欠損すら治癒する異世界の聖水です。呪いに対する根本的な解決にはならないかもしれませんが、最低でも時間稼ぎにはなるでしょう」

 身体が元通りになっても、呪いは消えるかどうかは怪しい。

「わかった。飲んでみよう……うおおおおおお!?」

 陛下の身体が淡く輝くと、すっかり若返った美中年が居た。ちょっと変わり過ぎじゃないですかね。


「すいません陛下、やはり呪いは消えていないようです」

「とんでもない。心から感謝するぞカケル殿。身体が軽い! これでまだまだ頑張れる」

 元気になって嬉しそうな陛下。 

 問題は先送りだけど、とりあえずは良かったと前向きに考えよう。


***


「実は、恥を忍んでカケル殿にお願いしたいことがあるのだ」

 陛下の本題はこれだろう。ミヤビからもお願いされていた件だ。

「ノスタルジア殿下の件ですね?」

「う、うむ、その通りだ。ミヤビから聞いたのか?」

「はい、大事な妹を助けて欲しいとお願いされました。もちろん全力で力になりますよ」

「頼む……見てくれるだけでも構わない。もう、他に頼る手段もないのだ……」

「わかりました。まずは殿下に会わせていただけますか?」


***

 
 ノスタルジア=アルカリーゼ。

 国王レイの長女で第1王女。ミヤビの2歳年下の従兄妹にあたる。

 本来ならば、呪いによって死ぬはずだった彼女がまだ生きている理由。

 それがノスタルジアが持つユニークスキル『リワインド』

 寿命以外で死んだ時に発動し、24時間身体の時間が巻き戻されるという、規格外の力。

 本来ならば、彼女を守るはずのその力が、自身を苦しめ続けることになったのだ。

 彼女が成人した日、その日彼女は呪いによって死に、地獄の日々が始まった。 

 毎日呪いによって苦しみながら死ぬことを繰り返すだけの日々。

 王やミヤビも見ていられずに、いっそのこと殺してあげられたらと何度考えたことだろう。

 だが、スキルによって彼女を殺すことは出来ない。

 せめて少しでも苦痛を和らげるために、毎日鎮痛薬を服用させるぐらいしかできないのだ。
  

 どれほどの苦しみと絶望か想像すら出来ない。

 ミヤビが使者に立候補したのは、ひょっとしたら俺なら助けられるかも知れないと考えたかららしい。

 ノスタルジアの心がぎりぎりで壊れなかったのは、異世界の勇者や英雄の存在があったから。

 もしかしたら、自分を苦しみから救ってくれるかも知れない。そんな夢物語を、ただそれだけを支えにしていたのだ。


 自分自身に腹が立つ。

 なぜもっと早く王都へ行かなかった?

 アルフレイド様にも、早く王都へ行けと言われていたじゃないか……

 王都へ行くのはスタンピードが終わってからで良い? ふざけんなよ。

 ノスタルジアは何回死んだ? 俺が王都へ行かなかったせいで……行こうと思えばいつでも転移で来れたのに。


 ふと背中に温もりを感じて我に返る。


「……カケル殿、お願いだから自分を責めないで下さい。そんな辛そうな顔をしないで……」

 ミヤビが泣きながら抱きしめてくれた。

 何やってるんだ俺は……神にでもなったつもりかよ……ミヤビまで悲しませてどうする。

「ごめんなミヤビ、心配させてしまって。早くノスタルジアを助けないとな」

 もちろん、呪いが解ければ1番だが、最悪、ノスタルジアを俺の召喚契約者にする方法もある。出来ればそんな手段は使いたくないが。


 ミヤビと一緒にノスタルジアの部屋に入る。

 風や光でさえも、今の彼女にとっては負担になるため、薄暗く息が詰まりそうな空間だ。

「あ、ミヤビ姉様……来てくださったんですか? 嬉しいです」 

 瀕死の状態のはずなのに、ほとんど動くことすら出来ないのに、声を出せば激痛が走るはずなのに……本当に強い人だな……貴女は。

「あれ……? ねぇ……ミヤビ姉様……誰かいるのですか? とても心地良い、温かい感じがするのです……」

 ノスタルジアの目から涙が零れ落ちる。

「ふふっ、きっと驚きますよ、ノスタルジア。貴女が1番逢いたがっていた人を連れて来ました」

「……ノスタルジア、良いか……喋らなくて良い。目を閉じて。待たせて悪かったけど、もう大丈夫だ。今、助けてやるからな」

 声の振動でさえ負担になる。

 ささやくように優しくそっと。

 ノスタルジアに口移しで神水を飲ませた。


 
「もう目を開けても良いぞ、ノスタルジア」 

「……嫌です。感覚が無かったので、今のは無しです。ちゃんと目覚めさせて下さい。ナイトさま」 

 良かった。ちゃんと元気になったみたいだ。

「ふふっ、お任せ下さい……ノスタルジア姫」

 今度はちゃんとキスをした。

 彼女がこれまで味わった痛みや苦しみが、溶けてしまえと、消えてしまえと気持ちを込めてキスをした。

「ふわあ……もうだめでしゅ……」

 ……やり過ぎたかも知れない。

 
「もうこれも必要ないですね!」

 ミヤビが光を遮っていた板を外す。

 部屋に光が差し込み、そよ風が心地良く部屋を一周する。


「ありがとうございます……ナイトさま……」 

 そよ風になびく輝くような藤紫ふじむらさきの髪と、涙をたたえた藤色の瞳。

 木漏れ日の中で微笑む彼女は、とても……とても綺麗ではかなげで。手を触れたら消えてしまいそうで。


 ただ……ただ……見つめあっていたんだ。

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