異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

だって私は天才だから

 気持ちが少しだけ落ち着くのを待って、書斎を見渡す。

 ここが最後かと思っていたのだが、ふと冷静になってみれば、プレゼントを受け取る義務があると言っていた。

 この宝物がそれだと言えなくは無いが、やはりしっくり来ない。

 そして机の上のモニターには新たなメッセージが浮かび上がっていた。


『駆、これが最後。あの日貴方が最後に私に言ったことを実行してね』


 俺が読み終わるとモニターは役目を終えたように沈黙した。

 まるで最初から動いていなかったように。

 すべては幻だったかのように。


(あの日…………か)

 分かっている。白崎さんと最後に会った日のことだろう。

 辛いけど行かないといけない。

 俺は記憶の海に意識を沈めてゆく。




「で、結局授賞式行くことにしたんだな」

「うん、ご褒美もあるから!」

 珍しく上機嫌な白崎さん。

「ん? ご褒美?」

「…………酷い。まさか忘れて――――」 

 途端に不機嫌になる白崎さん。

「じ、冗談だって! ランドだろ? 大丈夫、忘れてないって!」

 実は結構楽しみになっていて、ランドに関するあらゆる資料を読み込んでいるのは内緒だ。

 地図、アトラクション、イベントのタイムテーブル、飲食店のメニューから限定のお土産グッズまで完璧に把握した。準備は万端だよ。

「どうした? 何か心配事でもあるのか?」

 表情を曇らせる彼女の様子が気になってたずねる。


「帰ってきたら、そのままランドに直行するつもりだけど、時差ボケが心配」

 帰ってきたら直行とか、どんだけ楽しみにしているんだよ。俺も人のこと言えないけどな。

「時差ボケか……だったら泊まりにするか? 夜まで遊びまくれば、疲れて眠れるだろ」

「あわわ……お泊り……いきなりお泊り……」

 茹でだこ状態の白崎さんを見て失言を悟る。

「あ、そ、そうだよな、さすがにお泊りはマズいよな」

「……マズくない。それで進めて」

 急に真顔になった白崎さんの迫力に押されて思わず頷いてしまう。

「まあ部屋は別々に取るから安心してくれ」

「別々は駄目。ひとりじゃ怖いし、せっかくのランドを時差ボケで寝過ごしたくない。大丈夫、前に一緒にお昼寝したからいける……と思う」

 それは幼稚園の頃の話だろうと思いながらも、鼻息荒くする白崎さんにほっこりしてしまう。

「分かった。部屋は同室な。大丈夫、もし時差ボケで寝過ごしてたら優しく起こしてやるから」

「…………眠り姫で起こして」

「眠り姫? なんだそれ?」

「……自分で調べれば? とにかく約束よ」

「分かったよ、眠り姫みたいに起こせば良いんだな?」 


「うん…………じゃあ行ってきます」

 その屈託の無い笑顔に俺は一瞬見惚れてしまった。

 それが最後だとも知らずに。

 知っていたら抱きしめていた? 行くなと叫んだ? 

 意味が無いと分かっていても繰り返してしまう無限ループ。



 浮上した意識。折れそうな心を叱咤しながら、ひとつのドアを見つめる。

 おそらく寝室だろう。

 そして……そこには眠り続ける白崎さんがいるはずだ。


 予感はあった。

 800年近く経っているにも関わらず原形を留めているノートや家具。

 このエリア全体にかかっている保存の魔法、あるいは魔道具の力によるものだろう。

 そして、日記の後半に書かれていた肉体保存の研究。

 最初はロボットに魂を移す研究をしていたみたいだけど、なぜかすぐに辞めたようだ。

 最終的に完成した肉体保存。

 は大丈夫って日記には書いてあった。


 すげえよな。白崎さんはひとりで異世界に飛ばされたのに、最後まで諦めなかったんだ。

 ひとりで研究して、こんな仕掛けまで準備してさ……普通に考えたら来るはずのない俺の為にこんな……

 酷いじゃないか……なんで、なんでもう少し早く……そうしたらきっと。


 寝室のドアを開く。

 腐敗臭やカビ臭さもなく、女の子特有の甘い匂いがほのかに香る。

(白崎さん…………)

 ベッドに横たわる女性は、記憶の中の彼女とほとんど変わっていない。服装も当時のままだ。

(わざわざ着替えたのかな?) 

 そっと髪を撫でる。

 白崎さんは生まれつき色素が薄くて、髪の色は白に近い。


(こうしていると本当に寝ているだけのように見えるよ) 

 ゆっくりとベッドに腰掛ける。

「白崎さん、起きて! 早く起きないとせっかくの朝食が冷めちゃうよ。楽しみにしていたアトラクションだって……ほら……」

 彼女に声をかけて優しくゆするが目を覚ましてはくれない。

「白崎さん、遅刻したのは謝るから……起きてくれよ。頼む……お願いだ……」

 一瞬動いたように見えたけれど、涙で瞳が揺れただけだった。


「眠り姫……この世界に広めたの君だろ? おかげで何度も王子様役やるはめになったんだぜ。予行練習はもう十分だから……そろそろ本番をやらないとな」

「だから……ちゃんと王子様やるから、目を開けてくれよ白崎さん……もう一度、駆って呼んでくれよ……」

 泣きながらキスをする。

 長い沈黙の中、鼻をすする音だけが現実であることを教えてくれる。 




「駆……酷い顔してる」

 聞き間違いではないか? 恐る恐るみれば、白崎さんがぱっちり目を開いてこちらを見つめている。

「白……崎……さん?」

「……なに? 駆」

「うわああああああ!? 良かった、良かった……」

 白崎さんを抱きしめ、まだ幾分か低い体温を感じて涙が止まらない。

「あ、あわわわわ……駆、駆、痛いよ、まだ身体が……」

 ごめんごめんと慌てて腕を緩める。取り乱して恥ずかしい。


「駆……ここは? ホテル? それともダンジョン? 私、どれぐらい眠ってた?」

「ダンジョンだ。多分800年近くだと思う。遅くなって悪かった」

「そう……やっぱり夢じゃなかったの……でもやっぱり来てくれた」 

 今度は白崎さんが抱きついてくる。弱々しい力で、でもしっかりと離さないように。


「でも、どうやって? 百年しか持たないんじゃなかったのか?」

「ん? 百年? ああ、最終的には千年まで伸ばすことに成功したの。だって私天才だから……ってまさか、駆、私の日記読んだの!?」

「ああ、全部な」

「い、い、いやああああああああ!?」 
 
 真っ赤になって絶叫する白崎さん。お身体に障りますよ?

「忘れて! 今すぐ全部忘れて! さあ忘れなさい」

 
 ふふふ、必死に俺の頭を揺さぶるが、そんなことをしても無駄ですよ?


 

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