異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

ユリウス=エンペライオン

 ずっと悪い夢を見ていた。

 自分が自分でなくなってゆく夢だ。

 だがある日気付いた。いや、本当はとっくに分かっていたんだ。

 これが夢ではないことを。

 真実だと受け入れるのが怖くて、夢だと思い込もうとしていたことを。

 情けない。これが帝国最強の男だと言うのか? 帝位を継がんとする者なのか?

 もはや自分の意思で自害することすら出来ないのだ。

 愛する帝国が、よりにもよって自分の手でめちゃくちゃになってゆく。

 もはや私にものを言うのは父上と妹のアリーセだけになってしまった。

 そんな2人を誇りに思う自分と殺意を抱く自分ではない自分。

 駄目だ……このままではいつか2人を殺めてしまう。

 早く2人を私から遠ざけないと……私にまだ理性の欠片が残っている内に。


 多少強引ではあったが、父上を退位させて田舎の離宮に行ってもらう手はずを整えた。

 アリーセには、父上の面倒を見てもらうつもりだ。

 そして私はこの帝国から出て海を渡り魔大陸へ行こう。

 そこでなら、私の大事なものは何も無い。壊す心配もないからな。

 魔大陸の人々には申し訳ないが、どうしようもないのだ。

 描いていた未来はもう来ない。

 隔てられた大陸同士を人々が行き交い繋がる可能性も。

 世界中を旅して、様々な国、種族、文化、料理を堪能してみたかった。

 だがもう時間が無い。私が私でいられる時間が。

 悔しいな……何も出来ない自分が。

 悲しいな……弱い自分が。




「ユリウス、気分はどうだ?」

 目を覚ますと、私の顔を心配そうに見つめる黒髪の青年がいた。

 誰だったかな……そうだ……私はこの青年と戦っていたんだったな。そうか……

『……私は負けたんだな、カケル殿』

 静かに頷く黒髪の青年。

『そうか……ありがとう、私を倒してくれて。感謝する、私を止めてくれて』

 
 おそらく私はまもなく死ぬのだろう。

 あれほど私を狂わせていた黒い激情はもはや何処にも無い。

 全てを喰らい尽くさんとする、ひりつくような飢餓感は消え去った。

 願わくばこの青年に誇りある名誉が与えられることを願う。

 皇太子を殺害した犯罪者となったらあまりにも申し訳ないからな。


『頼む……最後に父上に伝えて欲しい……出来の悪い息子でごめんなさいと。妹のアリーセには帝国を頼むと』


「……断わる」

『なっ!?』

「……何で遺言みたいなことを伝えなくちゃならないんだ? 伝えたいなら、自分で伝えてくれ、ユリウス義兄」

『へ? 義兄? 私は死ぬのではないのか?』

「残念だけど、死んでる暇は無いかな。これから新しい皇帝として死ぬほど働いてもらわないといけないから」

 青年の悪戯っぽい笑顔を見て、私は初めて救われたのだと実感することが出来たのだ。


***


『邪神の因子……そんなものが……』

 自身を狂わせていたものの正体に驚きを隠せないユリウス。

「そうだ。だから自分を責める必要は無い。人がどうにか出来るものではないのだから」

 ユリウス義兄は責任感が強いから責めるなと言ってもきっと無駄だろうけど……少しは楽になってくれるといいなと思う。


『カケル……ありがとう。私に出来ることを精一杯やってみるよ。それが皇太子として生まれた者の責任だと思うから』

 そう言って微笑むユリウスは文字通り憑き物が落ちたようで、眩しいほど輝いていた。

『よし、そうと決まれば、まずはヒルデガルドにプロポーズをしよう!!!』


「「「「えええぇっ!?」」」」


「あ、あの〜、ユリウス義兄、それはやめておいた方が……」

『そ、そうよ、ユリウス兄様。もっと兄様に相応しい女性はたくさんいるわ!!』

『そ、そうだな。第一身分が釣り合わない。ほら、お前の幼馴染みの公爵令嬢のユリア、びっくりするぐらい美人になって……』

『……父上? 以前は応援していただいたではないですか? あ、ヒルデガルド、ちょうど良かった』

 そこへ間が悪いのかそれとも良いのか、ヒルデガルドがやってきた。


『何でしょうか、ユリウス殿下』

『ヒルデガルド、私の妻になってくれないか? 一緒に帝国をより良い国にしたいんだ』


『お断わりします』

『そうか! ありがとう。では式は――――って断わる!? な、何故だ?』

 まさか断られるとは思っていなかったユリウスは見事なノリツッコミをみせる。


『まず第一に私は元々殿下のことが男性として好きではありません。そして私が愛する殿方はカケル様唯一人』

 熱い視線を俺に向けるヒルデガルドさん。やめて……嬉しいけどいまは空気読もうね?


『…………』

 無言で項垂れるユリウス。

 ひ、ヒルデガルドさん……ユリウス義兄病み上がりなんだからもう少し……ね?

 うわあ……そんな目で見ないで下さいお兄様!? 

 顔を上げたユリウスの目は生きる屍のように虚ろだった。


『くっ、そうか……私も男だ。キッパリ諦めるとしよう。そうだ! アリーセ、ソニア子爵を呼んでくれないか?』

 しばらくして復活した義兄がソニアを呼んでくれという。

『ソニアを? 構いませんけど……』

 なんだろう? なんか嫌な予感しかしないけれど……


***


『……お呼びとのことで参上いたしましたユリウス殿下』

 恭しく頭を下げるソニア。

『呼び立ててすまない、ソニア、実は以前からお前の才能に惚れていたんだ。私の妻になって欲しい。一緒に帝国をより良い国にしよう』 


『お断わりします』 


『そうか! ありがとう……って、ソニアお前もか!?』

 お兄様……見事なノリツッコミです。


『私の身も心もすでに主様のものです。昨晩も一緒にお風呂に入ってあんなことや口に出せないようなこともしましたし』

 そう言って俺に抱きつくソニア。

 ソニア……やめて差し上げて。義兄のライフはゼロだよ? ついでに俺の罪悪感が限界突破しているからね?


 致命傷を負ったユリウスはふらふらとアリーセの元へ。


『あ、アリーセ、お前は俺の味方だよな?』

 すがるように懇願するユリウス。もはや帝国最強の面影はどこにもない。捨てられた子犬のようだ。


『……甘えないでくださいお兄様、私はワタノハラ様の味方です』

『ぐはっ!?』

 吐血して倒れるユリウス。

 元気出して下さいね義兄様。えっ、お前に言われたくないって? おっしゃる通りで。


***


「ところで皆さんは、深海幻という名前をご存知ありませんか?」

 今のところ、邪神の因子は帝国内で拡がっていた。何か接点があるかもしれない。


『カケル、もしゲン=シンカイのことなら、我が帝国の始祖様であるな』

 皇帝ギャラクティカが驚愕の事実を語る。


 建国神話によれば、魔人帝国は遥か昔、ゲン=シンカイに率いられたわずか100人の魔人から始まったのだという。

 その後、数百年間ゲンの統治は続き、ゲンは忽然と姿を消したと伝えられているらしいが。


(なるほどな……あまり考えたくは無いが、魔人は幻の命のストックとして生み出されたのかもしれない……)

 真実はわからないが、いずれにせよ、帝国の人々には絶対に話せない。話す必要もないことだ。

 やはり深海幻は危険すぎるし、胸糞悪い。

 万一に備えて、イリゼ様の言っていたスキルの保有者……探しておいてもいいかもしれないな。

「異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く