異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

アリーセの憂鬱 中編

「ふーん、結局出口まで連れていってもらってるじゃない……しかもおんぶまで。いいなあ」

「う……そうですね」

「でも大海原くん、昔からちっとも変わって無いんだね。そうだありす、2人で一緒に彼女にしてもらえるように頑張ろうよ!」

「まさかのハーレム宣言だね……いや、意外にアリかも!?」

 選り取り見取りの大海原さんに選んでもらえる確率など天文学的だろうから。ひめかとセットでワンチャン狙うのも夢があって悪くない。

 男の子ってハーレム好きみたいだし。

 
 って意気込んでいたのに、それからチャンスらしいチャンスも無く……

 
「ねえ、ありす、アルバイトしない?」

 そんなある日、ひめかがそんなことを言い出した。

「実はね、大海原くんがよく行く店が分かったんだ〜」

「うぇっ、本当? でもわざわざバイトなんかしないでも、普通にお店に行った方が良いんじゃないかな?」 

「む、確かにそうだね」

 大海原くんは大抵週末にその店に行くらしい。まさか目当ての女の子でもいるんだろうか? やはり行かねばなるまい。


「でも良く分かったねひめかちゃん」

「ふふーん、ちょっと本気を出せばこんなものよ! 昔の伝手をすべて使ったの」

 むふん! と薄い胸を張るひめかちゃん。


 そして週末、私とひめかちゃんは2人で大海原さん行きつけのカフェに向かう。

 持ちうる最高のおしゃれをしてショッピングバッグを持ち、いかにも買い物帰りにカフェに寄った風の2人組を装う。

 完璧なプランだと自画自賛してしまうわ。

 偶然遭遇した大海原さんはきっと少なからず縁を感じて意識してくれるのではないでしょうか。

「ドキドキするねひめかちゃん」

「ふふっ、楽しめば良いんだよ、ありす」

 さすがひめかは余裕がある。欲しいです同級生補正。


 大海原さん行きつけは美大の向かいにあるおしゃれな雰囲気のカフェ。まさか美大生のお姉さんが? 年上好みだったらどうしよう。

「この横断歩道渡った向こうだよ。なんかね、大海原くんカフェで絵を描いているんだって」 

「大海原さんがカフェで絵を!? 想像しただけで鼻血出そう……」

「ふふふ、ありすったら大げさ――――危ないっ!?」

 不意にひめかに突き飛ばされ、目に映ったのは車にはねられ宙を舞う親友の姿。

「ひめかあああああ!?」

 しかし私の目の前にはトラックが……




『鏡原ひめか……行くよ』

 不意に呼ばれて振り返るとそこはさっきの横断歩道だった。

 グシャグシャになった黄色い軽自動車とトラック……そして倒れてピクリともしない親友の姿。

 そして思い出してしまう。

 そうだ……私とひめかは……

『あの、私とひめかはどうなったんですか?』

 声の主にたずねる。顔は見えないが不吉なローブを身にまとい巨大な鎌を持っている。明らかに死神だろう。

 答えは予想しているが、希望を捨てきれない思いもある。


『あなた達は死んだの。これから神界へ案内する。それが私の仕事だから』 

 淡々と話す声はこの世のものとは思えないほど美しく、若い女性だと分かる。ローブの隙間から見える輝くような銀髪から目が離せなかった。


『あの……死神さん。何とかひめかちゃんだけでも助かる方法はないでしょうか?』

 咄嗟に私を助けようとしてくれたひめかちゃん。私に出来ることなら何でもするつもりだった。

『ふふっ』
 
『な、何で笑うんですか? 死神さん。私、変なこと言いましたか?』 

『……ごめんなさい。2人が全く同じことを言うものだから。仲が良いね、あなた達』

 そう言ってフードを取る死神さん。

『うわあ…………』

 思わず感嘆のため息が出てしまった。輝く銀髪に燃えるような赤い瞳。絶世の美女と言う言葉はこのひとのためにあったのかと納得するほどのとんでもない美少女がそこに居た。

 表情は乏しいが、かすかに微笑んでいるようにも見える。

『ミコト……私の名はミコトよ。残念だけど私に出来ることは無い……』


 気がつけば眼下にはすでに豆粒のようになった街が見えていて、その景色も一瞬で消えた。


『綺麗…………』

 光が雨のように降り注ぎ、川のように流れてゆく。美しく幻想的な風景がもはやここが人の世界でないことを教えてくれる。


『……私が案内するのはここまで』

『ありがとうございました、ミコトさん』

『…………鏡原ありす、この先の分かれ道はすべて左を選べ』 

『そうするとどうなるんですか?』

『可能性……蜘蛛の糸ぐらいの可能性があるかもしれない……選ぶのは貴女自身。じゃあね』

『あの、それって………』

 すでにミコトさんの姿はそこには無かった。

 でも迷いは無かった。

 他に頼る言葉もないのだから。

 蜘蛛の糸ぐらいでも、あるのなら掴みたい。ひめかちゃんに繋がる可能性を。

 
***


『…………なるほどね。貴女もミコちんが……』

 目の前には虹色の輝きを纏った女神様が渋い顔でぶつぶつ言っている。ミコちんとはミコトさんのことだろうか?

『……仕方が無いわね。あなた達が死んだのは事故のようなものだから転生の資格はあるの。親友と同じ世界へ送ることが出来るけどどうする?』

『行きます! 転生させて下さい!』

 ひめかちゃんにまた会えるかもしれないという僅かな可能性にすがるように私は転生を決めたのだった。

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