異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

悪など無い、あるのは別の正義

『チッ……あの眼を思い出すと未だに震えが止まらない。ふざけるな! この四魔王の俺がっ! 恐怖を感じたとでも言うのか?』

 テーブルや机が破壊されて瓦礫に変わる。

 
 またですか…………

 フォースはこのイーストレアに戻ってからずっとあの調子ですね。

 一体どんな目に遭えば、あそこまで怯えるようになるのでしょうか?

 これまでの負け無しの人生の反動で少しナイーブになっているのかもしれないですけど……

 うーん、面倒くさいから殺しちゃいましょうか? 今ならワンチャンありそうですし?

 そんなことを考えていたら、フォースが話しかけてきましたよ。何でしょうね?


『おい、セブン、俺は帝国に戻る。おまえはどうする?』

『はい? 戻るんですか? 今更なぜ?』

『悔しいが、あの化物のことを報告しなければならない。先遣隊の連中もここまでお膳立てしてやれば十分だろう。元々俺たちナンバーズの存在はテンスたちには伏せられているんだ。情報も集まったし、そろそろ潮どきだろう』

 もっともらしいことを言ってますけど、怖いから逃げるんですね? 分かります。ふふっ、あのフォースがまるで怯えた仔犬みたい……

『わかりました。ですが、私は残りましょう。その化物とやらの監視も必要でしょうしね』


『勝手にしろ……だが、間違っても闘うなよ? 死ぬぞ』

『フォース、ご忠告感謝いたします』
 
 ふふっ、闘いませんよ。私がここにいるのは、あなた方や先遣隊が行なった非道の証拠を集めるためなのですから。

 アリーセ殿下には是非とも帝位に就いていただく必要があります。

 フォースが、居なくなるのであれば好都合。

 本隊が来るまでに害虫駆除しておきましょうか……

 薄暗い笑みを浮かべるセブン。


 フォースを見送り、執務室に戻ると呼び出した腹心がやってきた。


『お呼びですか様。』

 セブンをゼロと呼ぶ長い金髪を三つ編みにした美しい女魔人が膝をついて頭を垂れる。


『急に呼び出してごめんねエルゼ。フォースを殺ることにした。手伝ってくれる?』

『承知いたしました。それであの……ソニアからその後連絡は?』

『…………残念だけど無い。捕まった可能性が高いね』

『そう……ですか……あの娘優し過ぎるから、見ていられなくて飛び出しちゃったのかも知れませんね…………』

 悲痛な表情を浮かべるエルゼ。

『エルゼ……捜しに行けずにすまない。フォースを消したら私も手を尽くそう』

 3人しかいない以上、捜索に割く余裕など無い。そう答えるのがゼロには精一杯だった。

『ゼロ様、ありがとうございます。まずは我らの任務遂行が最優先です。それはソニアも分かっているはずですから』

『そうだな……フォースがセントレアに到着するまでに殺るぞ――――メタモルフォーゼ!!』

 
 スキルによって地味な焦げ茶色の髪と瞳の女性に変身したゼロ。

 
 共に黒装束を身に纏ったゼロとエルゼは夜の帳が降り始めた街を後にする。

 2人が去ったイーストレアには暗殺された魔人たちの物言わぬ屍が転がっていた。


***

 〜 カケルノ 〜 


『駄目ですよマリネさん、王さまが人形で変なことするなって言ってたじゃないですか!!』

 カケルが去った後、ヨカゼはマリネが人形を悪用しないように見張りを命じられていた。

 そしてカケルが居なくなるやいなや、マリネたちがカケル型人形を使ってあんなことやそんなことを始めようとしたので、慌ててヨカゼが止めに入ったのだが…………


『大丈夫ですよ、ヨカゼさん。カケルさまは変なことをするなと言っただけですから』

 確かに具体的にしてはいけない事を指示された訳ではない。変なことってなんだろう?

『そうですよ、これは変なことなんかじゃありません。むしろ正しいこと、正義の行いです』

 善と悪、正義と不義を一体誰が決められると言うのか? ヨカゼは思う。この世界に悪も不義も無い。あるのはそれぞれが信じる善であり、正義なのだと。

 ドールとドーラが口を揃えてヨカゼを諭すが、ヨカゼには反論出来なかった。

 そしてとどめが――――

『ヨカゼ……俺はお前としたいな……正義の行い』

『は、はい〜、私もしたいですジャスティス』

 カケルの声と姿の人形に秒殺されそうになるヨカゼ。

 だが、彼女の中の最後の理性が必死に訴えかけてくる。

『……しっかりしなさい! また罰を受けたいの?』 

 その言葉に熱い抱擁と甘い口づけを思い出し盛大に赤面するヨカゼ。

『…………逆効果だったわね』

 そうつぶやいてヨカゼの理性は消えた。

 
 もう彼女たちを邪魔をするものはいない。

 
 その晩、カケルノの執務室の明かりが消えることはなかったという。

 
 

 

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