異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

今宵の夢は甘くせつなく 後編

 隕石を処理した後、2人でアトランティアに向かう。

 近づくにつれ、その巨大さと壮麗さに言葉を失ってしまう。


「そういえば、男のサキュバスって夢の回廊が使えないんですよね?」

「ふふっ、その代わりに彼らは他人が見た悪夢を食べるのよ。どう? サキュバスって素敵でしょう?」

 悪夢を食べてくれるなんて、なんて素敵な種族なんだろう。ぜひお友達になりたいものだ。



 街への入口では屈強な衛兵たちが、出入りを監視しているが、

「おおっ、これはリリス殿下、何か忘れ物ですか?」

 時系列的には、リリスさまが出発した直後だから、衛兵たちは驚きながらもすんなり通してくれた。

「……お勤めご苦労さま、デジレ、ジャン、ニコラ」

 リリスに名を呼ばれた衛兵たちは、感激して顔を赤くしていた。

 何せ百年以上ぶりの帰還だ。本当はただいまと言いたかったが、ぐっとこらえる。

 カケルについては、護衛に雇った冒険者というリリスの説明で問題なく街に入ることが出来た。


 街の中はさながら風俗街のようで、たくさんの素敵な看板が立ち並んでいる。

『可愛いサキュバスが貴方の夢叶えます 一回金貨1枚』

『忘れたい黒歴史や悪夢を消します 銀貨10枚』 

 などなど、よく見ると街の中にいる人々のほとんどが観光客だった。

 サキュバスは長命な代わりに数が少ない。

このアトランティアは人口10万人の小国だが、その内サキュバスは2割程度しかいないのだとか。

 リリスさまによると近隣の街から定期便で送迎サービスがあるそうだ。

 浮島に来れるだけでも大金を払う価値はあるだろうな。


 リリスさまおすすめの浮島名物『雲菓子』を食べたが、これは完全に綿菓子だね。

 街を巡り、買い物をして、すっかり楽しんでいるリリスさまはまるで少女に戻ったかのようで微笑ましい。

「……行かなくて良いんですか? お城」

「うー、いざとなったら緊張しちゃって……」

 それでも、本題の家族がいるお城には中々行けないでいた。

「大丈夫ですよ、ちょっと忘れ物しちゃった! って戻れば良いんですから。ほら、俺たちいつ目が覚めるか分からないんですよ?」

「……そうね、わかったわ」

 ようやく覚悟を決めたリリスさま。

「でも、きっと泣いちゃうと思うわ……」

「泣きたければ泣けば良いんです。それはリリスさまの特権なんですから。楽しんで来てくださいね!」

「え、カケルくんは来てくれないの?」

「せっかくの家族の再会に俺がいたらまずいでしょう? 俺はこの国で1番高い場所で見守ってますから」

 そう言って城の天辺を指差す。

「ふふっ、ありがとう。じゃあ行って来ます」
「行ってらっしゃい」

 軽くキスをして別れる。


 しばらくして戻っできたリリスさまの目はとても腫れていたけれど、とても嬉しそうだった。良かったですね。


 夕方、2人で城の天辺から街を眺めている。

「リリスさま……あとどれぐらい時間が残っているかわかりませんが、何かしておきたいことありますか?」

「カケルくん……私は貴方と……その……朝まで愛し合いたいわ……」 

 夕日を背にピンク色の瞳を潤ませるリリスさまはとても綺麗で儚げでどうしようもなく魅力的だった。

 街で1番の高級ホテルに泊まり、朝まで思う存分リリスさまと愛し合った。夢なので邪魔は入らなかったよ。んふふ。


 翌朝。

「あれ……おかしいな?」

「うーん、おはようカケルくん、素敵な夢をありがとう」

「リリスさま……ちょっと周りを見て下さい」

「えっ? 周りって昨晩泊まったホテルじゃない…………って、ええっ? なんで!?」

 
 朝になっても夢から覚めていなかったのだ。


「原因はわかりませんが、遅かれ早かれ、現実世界で朝になれば、カザネが起こしてくれますから、それまでは…………」

「うふふ……じゃあ続きをしましょう」


 だが、次の日になっても、現実世界に戻ることはなかった。


 そして半年が過ぎた頃、2人はこちらで暮らしていく可能性を考え始めていた。

 カケルの繁殖スキルがバッチリ仕事をして、リリスが身籠っていたのだ。

「リリス、お腹の子は双子の女の子だよ」

 鑑定があれば、当然性別までわかってしまう。

「ねぇ、カケル。私、もう名前決めたの。2人の名前から一文字ずつとって、リカとリルよ」

「良いね! すごく可愛い名前だと思う」

「でしょう? 早く産まれて来ないかしら……」




『…………さま、…………王さま! …………起きてください!!』

 目を開くと懐かしい桃色の瞳が覗き込んでいる。

「…………カザネ、俺はどれぐらい寝ていた?」

『え? そうですね……1時間くらいです、王さま』

「は? 1時間!? どうなってるんだ……あ、大丈夫かリリス!?」

 隣では同じく目を覚ましたリリスが静かに泣いていた。

「…………カケル…………やっぱり全部夢だったのね。どこかでこのまま目が覚めなければ良いと思っていたの。そんなことあり得ないってわかってたのに……リカとリルがお腹にいないのが悲しくて……ごめんなさい」

「リリス……」

 お腹の子を失ったリリスの喪失感はどれほどだろう。抱きしめてあげることしか出来ない。

「気休めかもしれないけど、2人で暮らした記憶は少なくとも本物だろ? リカとリルにはもう少しだけ待っていてもらおう。今度こそ、本当にすれば良いんだから」 

「そうね……未来はこれから作れるもの」

「リリス、今更かもしれないけど、これを受け取って欲しい」

 ピンクダイヤモンドを使ったリリスのために作った指輪だ。

 はにかむリリスが愛おしい。


「じゃあ、今度こそ本当におやすみなさい、カケル」

 俺はプリメーラに戻らないといけないので、リリスとは一旦お別れだ。


「リリス……未来はこれから作れるって言ってたけど、案外夢じゃなかったのかもしれないぞ?」 

「? どういう意味かしらね、カザネ?」

『さあ……私はあまり賢く無いので、さっぱりです』

 カケルが去り際に残した意味深なセリフに困惑する2人。


***


 次の日の朝 バドル冒険者ギルド


「おはようございます、リリスさま!」
「おはよう、リノ。今朝はカケルが送ってくれたのでしょう?」

「んふふ、そうなんですよ! もう最高でしたね。ん? リリスさま、カケルさまの呼び方変えたんですか? それになんだか雰囲気も変わったような……」 

「そうかしら? それならきっと良い方に変わったのね。私、今とっても幸せなのよ」

「む、リリスさま……カケルさまと何かありました?」

 ジト目するリノ。

「さあ……有り過ぎて何のことか分からないわ」

「うっ、何か大人の余裕を感じますね……ところでリリスさま、今年も届いてますけど返事はどうします?」

「届いてるって何が?」

「何がって、リリスさまの実家から顔を見せろって毎年届く手紙に決まってるじゃないですか……」

「リノ…………実家って?」

「? どうしちゃったんですか? アトランティア王国に決まってるじゃないですか――って、リリスさま!? 何で泣いているんです!?」


『案外夢じゃなかったのかもしれないぞ?』

(そう…………知ってたなら教えてくれれば良かったのに……バカ)


「ごめんなさいね、リノ、返事は私が書くわ。素敵な人が出来ました。今度連れて帰りますってね」




『あの……イリゼさま、なんで担当外の僕まで手伝っているのでしょうか?』

『アスト……貴方の親友の後始末なんだから、手伝うのは当たり前じゃない! ほら、あと少しよ、頑張って!!』

『ええっ!?……わかりました、頑張ります』

(まったくカケルくんたら、まさか時の回廊を開いちゃうとはね……お姉さんもびっくりだよ!? 国規模の歴史修正は大変なんだからね! 今度たっぷり埋め合わせしてもらうから覚悟してなさい)




【名 前】 リリス=アトランティア(女)
【種 族】 魔族サキュバス
【年 齢】 127
【その他】 女帝 バドル冒険者ギルドマスター

 アトランティア王国第1王女。バルバロス辺境伯領の領都バドルの冒険者ギルドマスター。純血のサキュバスで、魔力を吸い若さを保ち続けている。夢の回廊を使って、異性の望む夢を見せることができる。カケルの強大な魔力と、純粋さに心ひかれ、自ら専用サキュバスとなった。
 

 

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