異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

商業ギルドの朝

「おはようございます、ミレイヌさん!」

「おはよう、マッカラン。やだ……もうそんな時間!?」

「いいえ、まだ夜明け前ですよ。どうせ仕事がたまってるだろうと思いまして、お手伝いしますよ。まさか、昨日からずっとギルドにいるんですか?」

「そのまさかよ……でもありがとう、マッカラン。次のギルドマスターはあなたかもしれないわね!」

「ふふっ、褒めてもお茶菓子くらいしか出ませんよ? 軽食持って来たんで良かったら食べて下さい。今、お茶淹れますね」

「わいあろう〜もぐもぐ」

「……食べるか返事するかどちらかにして下さいよ、喉詰まらせますよ?」

 お茶を用意しながら苦笑いするマッカラン。


 また薄暗い商業ギルドで、2人は無言で仕事を処理してゆく。

(良かったですね……ミレイヌさん)

 マッカランは、一回り年下のサブギルドマスターを見て微笑む。

 年齢など関係ない。マッカランに仕事を叩き込んだのはミレイヌだ。

 燃えるような情熱でこの商業ギルドを引っ張って来たミレイヌ。彼女のセレスティーナ行きに不満を漏らす者は誰もいない。

 むしろ、セレスティーナについていきたい者が多すぎて、選考が大変だったのだ。

(向こうに行ってからも宜しくお願いいたします、ギルドマスター)

 マッカランもセレスティーナに下見に行ってすっかり魅了されてしまったひとりだ。妻を説得してセレスティーナ行きに志願した。

(さあ、頑張って終わらせますか!)


***


「おはよう、ミレイヌ」
「おはようモウカル」

 育ての親のような存在のギルドマスターをミレイヌはモウカルと呼ぶ。

「なんとか引き継ぎの仕事は終わったようだな?」

 少し淋しげに微笑むモウカル。

「何とかね……マッカランが手伝ってくれなかったらどうだったかしら」

「まったく……お前といい、マッカランといい、有能な人材が抜けてしまうといろんな意味で辛いな……ほれ、疲れた時には甘いものだろう?」

「……またそのお菓子? 本当に好きよね」

 文句を言いながらも嬉しそうに食べるミレイヌ。彼女にとっての想い出の味だ。

(そうか……向こうに行ったらこのお菓子も食べられなくなるかも……いやいや、そういえばカケルさまのお屋敷に住むんだったわ……んふふ)

「どうしたんだミレイヌ? そんな不気味な笑顔――――ぐほぁ!?」


「では、今日はカケルさまがいらっしゃるので失礼します。ギルドマスター!」


***


「ねぇミレイヌ、何があったの?」

 話しかけてきたのは白猫獣人のカリン。彼女もセレスティーナに移るメンバーのひとりだ。

「ん? 何がってなに?」

「気付いてないの? 毛並みと肌ツヤが半端なく良いのよ! どこのお姫様かと思ったわ」

「へ?」

 慌てて鏡で自分の姿を確認するミレイヌ。

「うそ……何コレ?」

 思い当たるのは昨晩カケルにしてもらった洗体だ。

 あの時は状況に流されて平気だったが、今になって急激に恥ずかしくなってきた。

「あ、あわあわ……な、何でもないのよ?」
「いや……そんな真っ赤な顔で言われても説得力ゼロですから……」


***


(それにしても……ちょっと頑張り過ぎたわね) 

 セレスティーナ行きを希望する申請書を整理しながらため息をつくミレイヌ。

 宿屋の申請だけでも5百件、飲食店に至っては多すぎて受付を早々に打ち切ったほどだ。

 理由は簡単。条件が良すぎるのだ。

 引越しは転移で完了。建物は無償で新築が提供されるし、もともとセレスティーナが有る場所は商売に向いている。

 だが、1番は安全保障だ。どんなに条件が良くても危険と隣り合わせでは人は集まらない。

 その点、異世界の英雄が守る都市となれば、世界で最も安全な場所に違いないと皆考える。


(私でも間違いなく申し込むわね……)

 苦笑いしながらも、凄まじいスピードで優先順位で書類を振り分け部下に渡してゆく。


「す、すげぇ……」

 その光景に新人ギルド職員たちは思わず茫然としてしまう。

「はいはい! 見惚れてないで手を動かしなさい、貴方達も早く戦力になってくれないと困るんだからね!」

 セレスティーナに行けなかった職員たちから背中を叩かれる新人職員たち。

 正直穴を埋めるのは無理だろうが、何とか回していかなければならない。


「正直、私たちにはあんまりメリットないのよね~」

 そんな様子を眺めながらぼやくローラにミネルヴァが呆れたようにツッコむ。

「なに言ってるのよ? おかげで臨時ボーナスも出たし、プリメーラの失業率も下がるし、良いことずくめじゃないの。今日はカケルさまがいらっしゃるんだから、ちゃんとお礼を言わないと」

「えっ、今日カケルさまいらっしゃるの? ごめん、ちょっと化粧直してくる!』

 あわてて化粧直しにいくローラ。

「やれやれ……あら、噂をすればなんとやらね……」


「おはようございます、ミネルヴァさん」
「おはようございます、カケルさま!」

 ほとんど話したことが無いはずなのに、英雄が自分の名前を知ってくれている。これは地味に嬉しい。

 ミネルヴァは内心歓喜していた。

「プリンの売れ行きはどうですか? 補充分を持ってきたのですが……」
「本当ですか! あっという間に売り切れてしまうので、実は、私たちも食べられないんですよ」

 残念そうなミネルヴァ。ギルド職員の誇りにかけて、先に職員分をキープすることなどしない。あくまでこれは宣伝の一環なのだから。

「それは良かった。そんなこともあろうかと、ちゃんと皆さんの分のプリンも用意してありますから、どうぞ食べてくださいね。試食用に何種類か用意してみましたので、後で感想などいただけたら助かります」

「か、カケルさま……貴方は神ですか?」

 感動に打ち震えるミネルヴァ。

「ふふっ、大袈裟ですね。また持ってきますよ」

「ああ!? カケルさま!!! ミネルヴァずるい!」

 戻ってきたローラがミネルヴァをジト目でにらむ。

「おはようございます、ローラさん」

「へ? わ、私の名前? あ、お、おはようございます! カケルさま」

 真っ赤になっておろおろするローラ。

「……お2人とも肩こりがひどいですね……疲れがたまってるんじゃ?」

「!? わかります? そうなんですよ! もう肩こりがひどくて……」

 鑑定では疲労・寝不足・肩こりと出ている。これは可哀想だ。


「これはサービスです。ちょっと後ろ向いてて下さいね」

 並行動作で2人の肩をもみ始めるカケル。

「ふえっ、な、何これ……気持ちいい……」
「あわわわわ……ダメ! これはダメ! ああああああ!?」

 商業ギルドに嬌声が響き渡る。

「はぁはぁ……もうダメ……」 

 あまりの気持ち良さに失神寸前の2人。

 朝からとても人前で見せられる顔ではない。


「…………朝っぱらから何をしてるのかしら? カケルさま?」

 背後で仁王立ちするミレイヌ。

「おはようございます、ミレイヌさん……なんか怒ってます?」

「いいえ……私にも今のをしてくれれば、怒りを忘れるかもしれません……よ?」

 顔を赤らめて拗ねるミレイヌさんが可愛いんだが!? ここ本当に商業ギルド?


 結局、職員全員の肩もみをする羽目になったよ……とほほ。
 

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