異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

夜が明けるまで

「カケルくん……今なら邪魔は入らないわ」
「カタリナさん……いいんですか?」

 黙って小さく頷くカタリナさん。

 紫紺の瞳が潤んで揺れている。

 女性にここまで言われたら行かないと失礼だろう。腕の中で小さく震えるカタリナさんがとても愛おしい。

 幸いセシリアさんは泳ぎに夢中で気づかれる心配もなさそうだ。

 しかし――――


「ふっ、私たちを忘れてもらっては困ります!」
「だからなんで私まで……」

 セレスティーナたちを踏み台にして、クロエとアイシャさんがカタリナさんに襲い掛かる。

「甘く見ましたね。私たち獣人はもふ耐性が高いんですよ」
「み、右に同じ! です」

「しまった……私としたことが……無念」

 ラビの床暖房とカケルの抱擁ですでに限界を迎えていたカタリナに、クロエとアイシャの追加モフに耐えられる余裕は無かった。あっけなく夢の世界へ旅立ってゆく。


「大丈夫ですか、御主兄様? 悪は滅びましたのでご安心ください」
「カケルさま、良く分かりませんが、とりあえずモフりますか?」 

 クロエとアイシャさんに前後から挟まれてしまう。

「くっ、これはヤバい……」 

 ラビの床暖房に、極上のモフサンドイッチ。カケルも夢の世界へ旅立っていった。 

「御主兄様? うっ……私もそろそろお迎えが来たようですね……」
「ああ……結局私は何のために……」 

 高いモフ耐性を持つ獣人とはいえ、所詮モフ素人に過ぎない。

 クロエとアイシャが力尽きるのも時間の問題だった。

 季節は秋に差し掛かっており、朝晩は肌寒くなる。

 暖かいラビの体温と極上の毛皮に包まれてカケルたちは極上の眠りについた。

 多忙な英雄たちのささやかな休息。

 
***


「はっ、ふんっ、いやあ!!」

 まだ暗い夜明け前、ひとり剣を振るうひとりの女性。

 ピンク色の髪を無造作に後ろで束ね、セシリアは習慣となっている朝の鍛錬を行なっていた。

(うーん、やっぱりひとりだと限界があるな……)

 誰かを叩き起こして来ようかと悩むセシリア。そこへ背後から声がかかる。

「おはようございます! セシリアさん。こんな早くからお疲れ様です」

 互いに気配を消していないので、セシリアは振り向きもせずに答える。

「おはよう、カケルっち! ちょうど良かった。ちょっと相手してくれよ」

「良いですよ。そのつもりで来ましたので。得物は何にしますか? 格闘でも構いませんよ」  

 カケルはあらゆる武器を扱える武術マスターのスキルを持っているので、セシリアにリクエストがないかたずねる。

「まずは槍で頼む」 
「了解です!」

 薄っすらと明るくなりはじめたばかりで、辺りはまだ暗い中、互いに武器を打ち合う金属音が響き渡る。

「次は魔法も使ってくれ」
「だったら、場所を変えましょうか」

 セシリアを抱きしめ郊外の荒地へ転移する。

「ここなら邪魔は入らないですから、思い切り来て下さい」

「はっ、面白い! 行くぞカケルっち!!」


 
 
 私は親の顔を知らない。物心ついた時には奴隷として売られていたからだ。

 私を攫った連中は、人身売買組織の末端のチンピラみたいな連中だった。

 多分両親はこいつ等に殺されたのだろう。記憶がないので、思い出すことすら出来ないが。

 私は人気のピンク色の髪をしていて、珍しいユニークスキルを持っているので高く売れるのだと連中が話しているのを聞いた。

 結局、輸送中に魔物に襲われてチンピラ共は死んじまいやがった。私は偶然通りかかった冒険者たちに助けられ、そのまま彼らの世話になることになった。

 彼らは私を近くの街で置いていくつもりだったが、連れて行ってくれと懇願した。

 掃除、解体、料理、情報収集、荷物持ちまで何でもやった。私のスキルのおかげで、便利になったとみんな喜んでくれた。

 私のユニークスキルは【模倣】だ。見たものや習ったことを真似ることが出来る。

 その後も彼らから様々なことを教わり、私は冒険者になるべく鍛えに鍛えた。

 周りの冒険者たちの技や魔法を貪欲に模倣していったおかげで、成人する頃には、すっかり1人前の冒険者になっていた。

 誤解があるかもしれないけど、模倣はコピーじゃない。強いて言えば劣化コピーだろうか。

 オリジナルには敵わないし、適性の関係で模倣しても上手く使えないものもある。

 だから私は人一倍努力した。

 模倣した力を自分のものにするために。生きる力を手に入れるために。

 
 あれから十年経って、A級冒険者にもなれたけど、私はそこで頭打ちになってしまった。

 もはや周りには模倣すべき人間が居なくなってしまったのだ。

 そんな時、カケルっちが現れた。

 理不尽なまでの強さ。私の想像を絶する成長スピード。神様に愛されているとしか思えない才能の塊だった。

 たまらなくワクワクした。

 初めて冒険者になった時のようにドキドキした。


 私は……まだ……強くなれるんだ!

 それから暇さえあればカケルっちを模倣した。一挙手一投足も見逃さないように目で追っていた。

 おかしいな……強くなるために見ていたはずなのに、いつの間にか、見たいから見ている私がいた。

 カケルっちを見ているとドキドキする。抱きしめられると胸が苦しくなる。

 これが好きってヤツなのか?

 ずっとむさ苦しい男の中で生きてきたから、女性らしい話し方も可愛らしい服装も今更興味無いけど、やっぱりカケルっちもクラウディアみたいな可愛い娘の方が良いのだろうか?

 一度、カタリナの話し方を模倣した事があるけど、死ぬほど笑われたしな。

 やっぱり私にはこれしかない!

 全力でカケルっちに打ち込む。

 私の気持ちを……私の想いを思い切りぶつける。彼ならば絶対受け止めてくれるから。

 楽しい……楽しいぜ……カケルっちもそうだと良いな。

 2人だけの時間。

 夜明け前の夢のような時間。

 
 夜が明けて汗だくになったら

「カケルっち、一緒に風呂入ろうぜ!」
「はい、喜んで」

 
 これからも、ずっと朝練&朝風呂しような! カケルっち。



「ふぅ〜、いい湯だな、カケルっち」 
「鍛錬のあとで入る朝風呂は最高ですよね」

「ところで……結婚したら夜の運動があるんだろ? どんなことをするんだ?」
「ブッ!? えっと……カタリナさんにでも聞いてください」

 男女の営みに疎いセシリアの質問攻めに逃げの一手のカケルであった。

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