異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~
季節はずれの雪まつり
『……いいかげん諦めたら? まあ、粘っても諦めても、お前たちが死ぬことに変わりはないけどな、ギャハハハ』
魔人帝国先遣隊指揮官のテンスが心底馬鹿にした風に笑う。
「…………」
『ふん、またダンマリかよ! まァ良い、どうせあと少しで終わるからな。それに……お前、もう限界なんだろ? 分かってる分かってる、精々頑張れ下等な人間』
「…………」
下品な笑い声を響かせながらテンスが去ってゆく。
「どうやら行ったみたいですね……大丈夫ですか、エストレジャ」
心配そうに若い女性が駆け寄る。
「ありがとう、ルナ。大丈夫だ、今はまだ……な」
(だが、奴の言うとおり、限界は近い……)
悲痛に表情を曇らせるのは、七聖剣のエストレジャ。
半年前の災厄の日、王宮の守護をしていた男だ。
王宮の結界には、いくつか段階があり、
平時モードは王都への魔物の侵入を拒む比較的緩い結界
非常モードはスタンピードや敵国の襲撃に備えてセントレアそのものを防御する強力な結界。
そして、現在使用しているのが緊急時モード。王宮を守る絶対防御の結界だ。
緊急時モードは、その名のとおり、あくまで一時的に使用することを想定しており、効果は絶大だが、その分消費する魔力も桁違いに多い。
本来なら自然回復する魔力で半永久的に維持される結界だが、緊急時モードの場合は不足する魔力を補い続けなければならない。
七聖剣のエストレジャは、七聖剣の中では魔力が多い方ではないが、それでも常人とは桁外れの魔力を有している。
そんな彼だから、この半年間結界を維持し続けることが出来たのだが……
魔力が足りなくなれば魔力回復薬を飲み、瞑想で自然回復を極限まで高めることで不足分を補う。
そんなぎりぎりの綱渡りもまもなく終わりを迎えようとしていた。
短期間に魔力回復薬を使い続ければ回復量は落ちてゆく。
自然回復と回復薬によって回復する魔力量が、結界維持に必要な魔力量を下回る日は近いのだ。
「エストレジャ……あと何日だ?」
問いかけるのは、アストレアの宰相ベルダー、王不在のいま、王都における最高責任者だ。
「ベルダー殿……もって後2日ですね」
「そうか……この半年の間、本当にご苦労だったな。お前がいなければ我らはとうに全滅していただろう。頼りにしていた援軍も結局来なかった。お前はルナを連れて逃げろ。このセントレアと心中するのは私だけで十分だ」
ルナは宰相の娘でエストレジャの婚約者だ。
「そうは参りません、貴方はアストレアの未来に必要な人だ。それに……私が逃げたらその瞬間、結界が消えます。逃げ切れませんよ。ならば、貴方たちだけでも逃げて下さい」
「……死ぬ気か? エストレジャ」
「まさか! 可愛い婚約者を残して死ぬ訳にはいきませんよ。足手まといだと言ってるんです。私だけなら何とでもなリます。これでも七聖剣を拝命する男ですから」
不敵に微笑むエストレジャ。
「…………分かった、死ぬんじゃないぞ。お前は俺の誇らしい息子なんだからな……」
***
「では行こうか、ルナ」
「待ってお父様、エストレジャ、あなたはどうするの?」
「大丈夫だルナ、私は後から行く。お前たちが逃げる時間を稼がないとな」
「……ごめんなさい、私たちが足手まといなばかりに貴方に迷惑を……」
「気にするな、戦えぬ者を守るのが私たち七聖剣の使命だ。愛しているよルナ」
「……私も愛しているわ、エストレジャ」
きつく抱きしめ互いの温もりを確かめ合うルナとエストレジャ。
「逃げた先が安全とは限らない。頼んだぞネスタ殿」
「はっ、エストレジャ殿もどうぞご無事で、合流するのをお待ちしております」
ネスタ率いる近衛騎士団が、宰相とルナを守りながらアルカリーゼを目指す。
なぜ隣国に向かうのかといえば、国内が無事ならばすでに何らかの動きがあるはずで、それが無いということは、つまりそういうことだという判断だ。
さらに言えば隣国アルカリーゼには、留学中のセレスティーナ殿下がいる。
東のクリスタリアに向かった王族の安否が分からない今、アストレア存続の希望を賭けて一行は西へ向かうのだ。
ゴゴゴッ……ガコンッ
幾重にも重なるように、背後で壁が閉じてゆく。
「さあ、急ぎましょう!」
近衛副団長ネスタに促され秘密の脱出路を進む一行。
「……お父様? どうかしたのですか?」
無言で俯く父ベルダーの様子が気になり声をかける。
「……何でもない、何でもないんだよ、ルナ」
優しく微笑み返すベルダー。
(ルナ……この脱出路はな、一度閉まった壁は外からは開けることが出来ないんだよ。エストレジャは、そこが死地になると分かっていて、いや、だからこそ我々が逃げる時間を稼ぐ為に自ら退路を断ったのだ)
女神さま……どうかあの勇敢な戦士に加護を……死ぬんじゃないぞ、エストレジャ。
この地下脱出路は、王族が落ち延びるために作られたもので、隣国アルカリーゼとの国境の街ファーウエストレアまで続いている。
この脱出路の存在を知っているものはごく一部で、場所を知っているのは、王族を除けば宰相と近衛騎士団長だけだ。
2日後、一行は邪魔されること無く、アストレア西端の街ファーウエストレアに到着した。
「こ、これは…………」
外へ出た一行の眼前に広がるのは、見る影もなく破壊された街の残骸と魔物の群れ。
「……なんということだ……やはりアストレアはもう……」
半ば予想はしていたものの、現実を目にすればやはり衝撃は大きい。
だが、さすがは近衛騎士団、冷静に状況を確認してゆく。
「ラウル、どうだ?」
「……アルカリーゼは無事です。街壁に人影が見えます」
遠視のスキルを持つ騎士団員ラウルが嬉しそうに応える。
「ひとまず最悪の事態は回避されたな。問題はどうやって国境まで辿り着くかだが……」
国境まではおよそ1キロメートル。
なんてことない距離が今は絶望的に遠い。
「魔物の種類は、ゴブリン、オークが大半、あと一部ですがフォレストウルフに乗ったライダーがいます」
「ライダーがいるとなると厄介だな。奴らの機動力は厄介だ」
魔物の強さだけなら問題ないが、とにかく数が多い。近衛騎士団だけならともかく、宰相たちを守りながら進むのは困難を極める。
「ネスタ、お前たち近衛騎士団が先行してアルカリーゼに行き、援軍を連れて戻ってくれば良いだろう?」
「しかし、ベルダー様、それでは貴方方が危険過ぎます!」
「だが状況的にそれしかあるまい」
「くっ……確かに……仕方ないですね。隊を半分に分けて先行させましょう」
ネスタはやむなく隊を分けることを選択する。
「ふ、副団長!? 空から新手です! あれは……ハーピィ?」
ハーピィ単体ならばさほど脅威ではないが――――
「油断するな!! ただのハーピィではない、恐ろしく強いぞ」
そう叫ぶネスタの脳裏に全滅の文字がよぎる。
そう思うほどに飛来したハーピィは強い。
実力者のネスタだから分かるが、これならグリフォンの方が幾分かましかも知れない。
ネスタの額を冷や汗が流れる。
一行の上空を旋回していたハーピィは、突然方向を変えて襲いかかって――――来なかった。
『はじめまして。キタカゼと申します。我らが王カケルさまとその伴侶ユスティティアさまの命により、皆さまをアルカリーゼまでお守りいたします……』
優雅に一礼する美しいハーピィ。
どうやら味方のようだが、聞き捨てならない名前が出てきた。
「ユスティティア殿下はご無事なのか? それに伴侶とは一体……?」
『詳しい話は後ほど。道は開きました。どうぞお通り下さい』
そう言って促すキタカゼの向こうには、物言わぬ無数の氷像が並んでいるのだった。
魔人帝国先遣隊指揮官のテンスが心底馬鹿にした風に笑う。
「…………」
『ふん、またダンマリかよ! まァ良い、どうせあと少しで終わるからな。それに……お前、もう限界なんだろ? 分かってる分かってる、精々頑張れ下等な人間』
「…………」
下品な笑い声を響かせながらテンスが去ってゆく。
「どうやら行ったみたいですね……大丈夫ですか、エストレジャ」
心配そうに若い女性が駆け寄る。
「ありがとう、ルナ。大丈夫だ、今はまだ……な」
(だが、奴の言うとおり、限界は近い……)
悲痛に表情を曇らせるのは、七聖剣のエストレジャ。
半年前の災厄の日、王宮の守護をしていた男だ。
王宮の結界には、いくつか段階があり、
平時モードは王都への魔物の侵入を拒む比較的緩い結界
非常モードはスタンピードや敵国の襲撃に備えてセントレアそのものを防御する強力な結界。
そして、現在使用しているのが緊急時モード。王宮を守る絶対防御の結界だ。
緊急時モードは、その名のとおり、あくまで一時的に使用することを想定しており、効果は絶大だが、その分消費する魔力も桁違いに多い。
本来なら自然回復する魔力で半永久的に維持される結界だが、緊急時モードの場合は不足する魔力を補い続けなければならない。
七聖剣のエストレジャは、七聖剣の中では魔力が多い方ではないが、それでも常人とは桁外れの魔力を有している。
そんな彼だから、この半年間結界を維持し続けることが出来たのだが……
魔力が足りなくなれば魔力回復薬を飲み、瞑想で自然回復を極限まで高めることで不足分を補う。
そんなぎりぎりの綱渡りもまもなく終わりを迎えようとしていた。
短期間に魔力回復薬を使い続ければ回復量は落ちてゆく。
自然回復と回復薬によって回復する魔力量が、結界維持に必要な魔力量を下回る日は近いのだ。
「エストレジャ……あと何日だ?」
問いかけるのは、アストレアの宰相ベルダー、王不在のいま、王都における最高責任者だ。
「ベルダー殿……もって後2日ですね」
「そうか……この半年の間、本当にご苦労だったな。お前がいなければ我らはとうに全滅していただろう。頼りにしていた援軍も結局来なかった。お前はルナを連れて逃げろ。このセントレアと心中するのは私だけで十分だ」
ルナは宰相の娘でエストレジャの婚約者だ。
「そうは参りません、貴方はアストレアの未来に必要な人だ。それに……私が逃げたらその瞬間、結界が消えます。逃げ切れませんよ。ならば、貴方たちだけでも逃げて下さい」
「……死ぬ気か? エストレジャ」
「まさか! 可愛い婚約者を残して死ぬ訳にはいきませんよ。足手まといだと言ってるんです。私だけなら何とでもなリます。これでも七聖剣を拝命する男ですから」
不敵に微笑むエストレジャ。
「…………分かった、死ぬんじゃないぞ。お前は俺の誇らしい息子なんだからな……」
***
「では行こうか、ルナ」
「待ってお父様、エストレジャ、あなたはどうするの?」
「大丈夫だルナ、私は後から行く。お前たちが逃げる時間を稼がないとな」
「……ごめんなさい、私たちが足手まといなばかりに貴方に迷惑を……」
「気にするな、戦えぬ者を守るのが私たち七聖剣の使命だ。愛しているよルナ」
「……私も愛しているわ、エストレジャ」
きつく抱きしめ互いの温もりを確かめ合うルナとエストレジャ。
「逃げた先が安全とは限らない。頼んだぞネスタ殿」
「はっ、エストレジャ殿もどうぞご無事で、合流するのをお待ちしております」
ネスタ率いる近衛騎士団が、宰相とルナを守りながらアルカリーゼを目指す。
なぜ隣国に向かうのかといえば、国内が無事ならばすでに何らかの動きがあるはずで、それが無いということは、つまりそういうことだという判断だ。
さらに言えば隣国アルカリーゼには、留学中のセレスティーナ殿下がいる。
東のクリスタリアに向かった王族の安否が分からない今、アストレア存続の希望を賭けて一行は西へ向かうのだ。
ゴゴゴッ……ガコンッ
幾重にも重なるように、背後で壁が閉じてゆく。
「さあ、急ぎましょう!」
近衛副団長ネスタに促され秘密の脱出路を進む一行。
「……お父様? どうかしたのですか?」
無言で俯く父ベルダーの様子が気になり声をかける。
「……何でもない、何でもないんだよ、ルナ」
優しく微笑み返すベルダー。
(ルナ……この脱出路はな、一度閉まった壁は外からは開けることが出来ないんだよ。エストレジャは、そこが死地になると分かっていて、いや、だからこそ我々が逃げる時間を稼ぐ為に自ら退路を断ったのだ)
女神さま……どうかあの勇敢な戦士に加護を……死ぬんじゃないぞ、エストレジャ。
この地下脱出路は、王族が落ち延びるために作られたもので、隣国アルカリーゼとの国境の街ファーウエストレアまで続いている。
この脱出路の存在を知っているものはごく一部で、場所を知っているのは、王族を除けば宰相と近衛騎士団長だけだ。
2日後、一行は邪魔されること無く、アストレア西端の街ファーウエストレアに到着した。
「こ、これは…………」
外へ出た一行の眼前に広がるのは、見る影もなく破壊された街の残骸と魔物の群れ。
「……なんということだ……やはりアストレアはもう……」
半ば予想はしていたものの、現実を目にすればやはり衝撃は大きい。
だが、さすがは近衛騎士団、冷静に状況を確認してゆく。
「ラウル、どうだ?」
「……アルカリーゼは無事です。街壁に人影が見えます」
遠視のスキルを持つ騎士団員ラウルが嬉しそうに応える。
「ひとまず最悪の事態は回避されたな。問題はどうやって国境まで辿り着くかだが……」
国境まではおよそ1キロメートル。
なんてことない距離が今は絶望的に遠い。
「魔物の種類は、ゴブリン、オークが大半、あと一部ですがフォレストウルフに乗ったライダーがいます」
「ライダーがいるとなると厄介だな。奴らの機動力は厄介だ」
魔物の強さだけなら問題ないが、とにかく数が多い。近衛騎士団だけならともかく、宰相たちを守りながら進むのは困難を極める。
「ネスタ、お前たち近衛騎士団が先行してアルカリーゼに行き、援軍を連れて戻ってくれば良いだろう?」
「しかし、ベルダー様、それでは貴方方が危険過ぎます!」
「だが状況的にそれしかあるまい」
「くっ……確かに……仕方ないですね。隊を半分に分けて先行させましょう」
ネスタはやむなく隊を分けることを選択する。
「ふ、副団長!? 空から新手です! あれは……ハーピィ?」
ハーピィ単体ならばさほど脅威ではないが――――
「油断するな!! ただのハーピィではない、恐ろしく強いぞ」
そう叫ぶネスタの脳裏に全滅の文字がよぎる。
そう思うほどに飛来したハーピィは強い。
実力者のネスタだから分かるが、これならグリフォンの方が幾分かましかも知れない。
ネスタの額を冷や汗が流れる。
一行の上空を旋回していたハーピィは、突然方向を変えて襲いかかって――――来なかった。
『はじめまして。キタカゼと申します。我らが王カケルさまとその伴侶ユスティティアさまの命により、皆さまをアルカリーゼまでお守りいたします……』
優雅に一礼する美しいハーピィ。
どうやら味方のようだが、聞き捨てならない名前が出てきた。
「ユスティティア殿下はご無事なのか? それに伴侶とは一体……?」
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そう言って促すキタカゼの向こうには、物言わぬ無数の氷像が並んでいるのだった。
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