異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

ハーピィクイーン

 ハーピィの最大の武器は、その疾風のようなスピードと、そこから繰り出される鉤爪の攻撃だ。なので――


『乱気流!』


 フリューゲルの風魔法でハーピィを自由に飛べなくする。


『ウインドアロー!』
『ファイアアロー!』


 洞窟の外にいたハーピィは、シルフィとサラがあっさり倒す。俺は魂を吸収してゆく。


「みんな、洞窟へ突入するぞ。卵が割れたら大変だから注意して戦ってくれ」


「かしこまりました」
「わかったわ」
「わかった」
「承知したのじゃ」
『お任せください』
「わかりました」
『承知した』


***




『女王様、大変です! 侵入者です!』


 配下のハーピィが顔色を変えて飛び込んでくる。全く大袈裟な奴。ここには二百の同胞がいる中空の要塞。グリフォンでも来ない限り安全なのだ。


『落ち着かんか、馬鹿者! ならば排除すれば良いではないか!』
『そ、それが、グリフォンと、もの凄く強い人間たちで、まるで歯が立ちません』


 な……ぐ、グリフォンだと……なぜこんなところに? しかも人間と一緒とは理解不能だ。


 間が悪いことに、まだ別の出口は完成していないのだ。つまり……逃げ場は何処にも無いということ。


 ならば――


『皆、許せ。すべては私の力不足。せめて一矢報いて見せようではないか!』


 虹色のグラデーションが輝く美しい髪をなびかせ、女王は覚悟を決めた。絶世の美貌と強力なカリスマ性こそがクイーンたる所以。残ったハーピィたちも最後の意地を見せようと奮い立つ。


 だか、ハーピィクイーンもBランク上位の強力な魔物だが、Aランク上位のグリフォンに勝ち目は無い。また、同じ風属性と相性も最悪で得意のスピードも狭い洞窟内では活かせない。


 姿を現したグリフォンに向かい総攻撃を加えるも、次々とやられていく同胞たち。


(ここが私の死に場所か……)


 最後の渾身の一撃を防がれ、次の瞬間意識が途絶えた。




(ああ……私は死んだのか。ふふふ、何やらすべてから解き放たれたような清々しい気持ちだ……あの狂おしい程の悪意や憎しみは一体何処へ消えたのだろう……これが死というのなら、なかなか悪くないものだな……)




 おや? 誰かが私を呼んでいる。身体が、魂が喜びで震えるような優しく愛おしい声だ。


「これから宜しくな、ツバサ」


 黒目黒髪の人間が、私の名を呼ぶ。どうやら私の名は、ツバサと言うらしい。うむ、悪くない気分だ。名があるとこうまで違うものなのか……


 そして私は理解する。そうか、この人が私の魂を救ってくれたのだと……ならば、応えて見せよう私の誇りにかけて。


『こちらこそ、宜しく頼む。我が愛しの王よ』


***


 ハーピィクイーンのツバサに協力してもらい、卵の回収を手早く終える。卵は全部で1078個、これだけでちょっとした財産となる量だ。これで料理やスイーツを作ったら絶対に美味いだろ! 今から帰って作るのが楽しみで仕方ない。


 ちなみに、ハーピィの卵は全て無精卵で、クイーンから産まれるハーピィの餌にしているのだという。


 結局、契約したハーピィはちょうど百人。


 みんなが戦っている間、全身全霊の集中力で好みのハーピィを選んでいたとは、絶対に言えないが。


 この洞窟には、西の転移拠点として20人ハーピィを残していくことにした。フィステリアにも近いし、空になった洞窟に別の魔物が住み着いても困るしね。


 もう一つは、ここで毎日卵を産んでもらうこと。ハーピィは毎日卵を3〜5個産む。召喚獣でも卵を産めるようなので、毎日100個近い新鮮な卵が手に入るようになった。


「御主兄様、卵料理楽しみです!!」


 すでに待ち切れない様子のクロエ。よだれが垂れてますよ。


 念の為、ツバサにも確認したが、この辺りに他のハーピィは居ないそうだ。


「よしっ、これで依頼完了だな。フィステリアに戻って早く知らせてあげよう」


***


 その夜、フィステリアの街中は歓喜に沸いていた。暫く使えなかった街道が、また使えるようになったからだ。足止めを食らっていたバルバロス領の商人たちも、帰る準備のために仕入れを再開する。街に活気が戻ってきたのだ。




「おい、街道が使えるようになったってのは本当か?」 
「ああ、残念ながら潮どきだな、誰だか知らないが余計なことしやがって!」


 路地裏の暗がりで話し合う男たち。


 彼らは人身売買を生業とする人攫い集団の構成員。ハーピィ騒動にかこつけて、高く売れそうな獲物を手当たり次第に攫っていた。


 普段なら怪しまれるが、今ならハーピィの仕業ということで仕事がやりやすい。


「まぁそういうな。何事も引き際が肝心。今夜辺境伯領へ引き上げるぞ」
「わかったぜリーダー。なら最後に荒稼ぎだな、ひひひ……」


 構成員たちは、最後に狙っていた獲物を強引に攫ってそのまま逃げるつもりだ。




***




「いや、本当に良くやってくれた! 街を代表して感謝する。これが報酬の白金貨1枚だ」


 ギルドマスターのベルトランが上機嫌に笑い報酬を手渡す。1日で1千万の稼ぎとか金銭感覚がおかしくなりそうだ。


「いいえ、こちらも得たものがたくさんありますので、逆に依頼していただき感謝している位です」


その後、ハーピィの洞窟使用の件も話し合い、最後にギルドマスターがカケルに尋ねる。


「ところで、カケルたちは、この後どうするんだ?」
「せっかくなんで、今夜は店巡りをして泊まっていこうかと。でも、その前にもう一仕事してからですかね」


「まだ何かするつもりか?」
「はい、場合によってはギルドマスターの力を借りることになるかもしれません」


「わかった、何でも言ってくれ。お前たちは街を救ってくれた恩人だからな」


「ありがとうございます。ところでアリサは?」
「ああ、アリサはここの所、休み無しだったから、早めに帰ったぞ。明日は休みだ」


「……そう、ですか……」




***




(いやー、最近ギルドで寝泊まりしてたから、家に帰るの久しぶりだわ……)


 今日は珍しく、早めに仕事を上がることが出来た。理由はカケルさんたちが依頼を受けてくれたからだ。すでに解決前提なのがすごいが、あんな実力を見せつけられたらそうなるのも仕方がない。


(明日は休みを貰ったし、美味しいものでも食べて帰ろうかな)


 行きつけの店に向かおうとすると、行き先に数人のガラの悪い男たちが立ちふさがり、こっちを見てニヤニヤしている。


 何となく嫌な感じがしたので、道を変えるため、引き返し、角を曲がった。


「えっ……」


 曲がった先には、別の男たちが待ち伏せていた。


 咄嗟に声を上げようとしたが、薬品を染み込ませた布を口に当てられ、意識を失ってしまう。


「ヒヒヒッ、ギルドの一番人気の受付嬢のアリサ。ようやく手に入ったな。こいつは高く売れそうだ……」


 仲間がまわりで睨みを効かせていたため、目撃者は居ない。


 手慣れた様子でアリサを荷物に偽装すると、何食わぬ顔で、アジトのある倉庫へと戻って行った。
 

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