異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

エスペランサの攻防

 魔物の上げる土煙や、咆哮が響き渡る血みどろの大地。無数の死体を足場に、新たな魔物が這い上がってくる。一体どれほどの時間戦い続けているのだろう。


「サクラ様、北門が破壊されました」


「わかった、大樹生成!」


 破壊された壁や門は、大樹によってすぐに修復されるが、いつかは突破される。積み重なった魔物の死体が足場となり、徐々に侵入が容易になってきているのだ。 


「いいか、私が時間を稼ぐ、魔法部隊は、死体処理の準備を始めろ」


 大樹生成で、砦から少し離れた位置にぐるりと大樹の壁を生成する。少しの間、外から魔物が入ってくるのを防げるだろう。


 魔法部隊が、魔物の死体を火魔法で焼き尽くし、土魔法で作った穴に埋めていく。


「しっかり休憩しながら、交代で戦うんだ。この調子なら、援軍が到着するまで持ちこたえられるぞ」


 疲労は蓄積しているが、気持ちは折れていない。実際、私の樹木魔法があれば、何とかなる。なら。


『ぐるるるるあああ』


 砦全体が震えるような咆哮が響く。


(そ、そんな……あれは……)


 砦を囲むように設置した大樹を上から覗き込むように、不気味な一つ目がぎょろぎょろ動く。


 サイクロプス それはまさしく、エスペランサを襲う破壊の象徴としてそびえ立っていた。 


 サイクロプスは、一つ目の凶悪な巨人。討伐ランクA上位の化け物だ。パワーだけならば、Sランクとも云われ、20メートル以上ある巨体には、城壁など気休めにしかならない。


(駄目だ……あれを通したら、砦は終わる。絶対通しちゃダメだ)


「大樹生成! 大樹生成!」


 次々と大樹を生成し、サイクロプスを足止めする。通常の壁と違い、大樹の壁はしっかり根を張っているので、簡単には倒れない。さらに、枝を伸ばしてサイクロプスの手足に巻き付けることで動きを阻害することもできるのだ。しかし――


「サクラ様、東門と北門が破られそうです」


 そう、サイクロプスにかかりきりになるわけにはいかない。先ほどまでと、なんら状況が変わったわけではない。おまけに、サイクロプスの威容は、騎士たちを委縮させるのに十分過ぎる影響を与えている。


(くそっ、手が足りない……)


「生成【ウッドゴーレム】!」


 体長2メートルの樹木の兵士たちが、魔物に襲い掛かり、遠くへ運び去ってゆく。そして魔物を養分にさらに成長し、ウッドナイトへと進化する。倒されたウッドナイトは、周りの魔物を巻き込み、押し潰しながら、大樹となり、敵を阻む。


 ウッドゴーレム生成は、魔力を消耗するので、温存していたが、もはやそんな余裕は無くなった。  


 騎士たちの疲労も極限に達しており、奮戦するサクラの姿に支えられて、何とか踏みとどまっている状態だ。何かプラスの情報が欲しい……だが――


『ぐるるるるあああ』


「馬鹿な……もう1体だと……」


 騎士たちの口から、絶望の声が漏れる。


 ただでさえ、ぎりぎりの状況で、新たなサイクロプスの登場は、騎士たちの心を折るのに十分だった。 
「くそっ、タイミングが悪い。臆するな! サイクロプスなど私が斬り捨てる。倒す必要などない。お前たちは砦の守備に集中しろ!」


 気力を振り絞り、檄を飛ばす。なのに――  




『ぐるるるるあああ』


「3体目……もう駄目だ……」


 3体目のサイクロプスの出現に動揺が広がる。全滅の二文字が頭をよぎる。


 決断しなければ。撤退するなら今しかない。


「全軍撤退―― そう言いかけた瞬間、


 ――サイクロプスの首が落ちた―― 


 頭部を失った巨体が、轟音を響かせながら倒れる。多くの魔物を押し潰しながら。


【飛剣 オートクレール】


 剣撃を飛ばし離れた敵を倒すことができる絶技。その威力は、一撃で城壁を破壊すると云われている。


 そして、誰もがその技を知っている。なぜなら、その技を使えるたった一人の騎士を誰もが知っているから。騎士団全員の心に勇気の火が灯り、力がみなぎる。


勇敢なる獅子心ブレイブハート


 敬愛する彼らの団長が持つユニークスキルだ。味方全員の心と体の傷を癒し、一時的に戦闘力を大幅に引き上げる奇跡の力。


「っ!? セレスティーナ様!!」
「団長だ! 団長が来てくださったぞ!」


「皆、団長が到着された! 今こそ我らの力を見せるとき! 命を燃やせ、敵を蹴散らすのだ!」


 サクラが、声の限りに叫ぶ。


 砦の騎士全員が、生き返ったように、魔物の大群を押し返してゆく。


***


「サクラ、よくぞ持ちこたえてくれた。何より……よくぞ生きていてくれた」


 セレスティーナがサクラを抱きしめる。一瞬の抱擁だったが、サクラの表情は暗い。


「セレス団長、なぜここにいらっしゃったのですか? いくら団長でも、これ以上は持ちません。団長は、いえ、セレスティーナ様は、こんなところで死んではならないお方です!」


「サクラ……死んでいい者など一人もいない。私が来ることで、皆が生き残る可能性が一番高くなるから、私が来たのだ。大丈夫だ、私にも生きる理由ができた。犠牲になろうなどとは思っていない。当然、全員で生きて帰るぞ」


「セレスティーナ様……はい、そうですね、皆で生きて帰りましょう」


 サクラが、泣きながら笑う。


「私が率いてきた部隊が50名、少数だが、精鋭だ。後続部隊も順次出発している。本隊も明日には合流できるだろう。なんとか日没まで持たせれば勝機が見えてくるはずだ」


 セレスティーナが率いてきた騎士は、みな一騎当千の強者だ。すでにサイクロプスは3体とも倒されており、残りの魔物もすでに2万に満たない。これならば、後続部隊が到着するまで、十分持たせられると誰もがそう思っていた。


「団長! 大変です。新手の大群が砦に迫っています」
「なんだと、敵の数は?」    


「……少なく見積もっても、5万は下らないかと……」


「わかった、全軍に告げる。これより我が騎士団はプリメーラへ撤退する。荷物は置いていけ、速度重視だ。急げ」


 セレスティーナの決断は早かった。


 このまま新手の到着を待てば、砦は落ち、全滅は免れなかっただろう。  


エスペランサ希望を失うのはもちろん痛い。だが、今のプリメーラには新たな希望旦那様がいる)


 以前の私なら、砦に籠って最後まで戦っていたかもしれない。でも今は――


 旦那様がいれば何とかなる。生きてさえいれば、チャンスはきっとまた来るのだと、そう思えるようになったのだ。 


 こうして……エスペランサ砦は陥落した。 

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