異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

急襲 エスペランサ 

 旦那様は、目的地へ到着しただろうか? アンドレアが失礼なことをしていないといいのだが……。あの男は、優秀だが、少し思い込みの強いところがあるからな。


 遠征の準備の最中、少しでも時間が出来ると、つい旦那様のことを考えてしまう。


 私に、こんな乙女な部分があるとは予想外だった。まわりの女の子たちが、恋や結婚の話題に花を咲かせる中、私はひたすら剣を振るい、技を磨き続けてきた。そのことに後悔は一切ない。


 だが、今なら彼女たちの気持ちも分かるような気がする。人を好きになることが、こんなにも温かく、いつも優しく包まれているような心地よいものなのだとは知らなかった。


 以前より世界が輝いて見える。この世界を守りたい。大切なあの人を。世界を形作る人々の暮らしを守りたい。すべてを犠牲にして意固地になっていた私自身すら、今なら素直に守りたいと思えるのだ。


 やることは変わらない。だが、一人ではない。想いを預けられる人がいる。たとえ、私が倒れても、旦那様ならきっと世界を救ってくれる。そう思えることが、これほどの勇気と力を与えてくれるのだ。


 願わくば、その隣に私も立っていられたら。


(早く帰ってきて……私をだ、抱っこしてくださいね)


 内心そんなことを考えて、ひとり赤面して悶える私は、さぞかし変にみえるだろうが構わない。これからは、もう我慢をしないと決めたのだ。旦那様の前だけは……。 




「お、お知らせします! エスペランサ砦より、魔物の大群に襲われているとの報告が届いております。その数……少なくとも3万!! その数、いまだ増え続けているとのことです」 


 甘い空想を吹き飛ばすように、現実はかくも無情だ。


「何だと、それで、魔物の構成はわかっているのか?」


 同じ3万でも、ゴブリンなら問題ない。だが――


「構成は、ゴブリン、オーク、トロール、リザードマン、それぞれの上位種に加え、地竜の姿も確認されています。更に、ほとんどの魔物が、ワイルドボアなどに騎乗しているとの事です」


 最悪に近い構成だ……時間をかけて準備された軍勢だとわかる。砦を守る騎士団は二千、守りに徹したとしても、もって1日だろう。サクラ……無事でいてくれ。


 結局、一手届かなかった。明日には増援部隊が出発する予定だったのに……いや、そもそも旦那様がいなければ、今頃、西と南の森にかかりきりとなり、遠征の準備どころではなかったではないか。むしろ、ぎりぎり間に合ったと云うべきだ。


「アルベルト、私は足の早い部隊を率いて先に出る。各所への連絡調整は任せたぞ」


「はっ、領主様への連絡、冒険者ギルドへの緊急依頼、全てお任せください。直ちに後発隊も準備させます」


「うむ、頼んだぞ、アルベルト」


「セレス団長!」
「何だ?」


「……どうか、ご武運を」
「ああ……わかっている。無茶はしない」


 ……駄目だ、団長は絶対に無茶をする。せっかく笑顔を見せて下さるようになったのに……こんなところで死なせる訳にはいかない! 


「急げ! ここからは、時間との勝負だ、プリメーラの存亡は、今このときにかかっていると心せよ」


「アベル、来てくれ!」
「はっ、ご命令でしょうか?」


「良いか、お前は一刻も早く、このことをカケル殿に知らせるんだ。お前の力が必要なんだ。頼む、俺は、団長を死なせたくないんだよ」


「副団長……何言ってるんですか、そんなの全員同じ気持ちです。この命に代えても、使命果たして見せますよ……獣化」


 アベルは、一頭の黒狼に変化する。スピードに特化した黒狼族は、獣人の中でも、最速を誇る。


(頼んだぞ、アベル……)


 走り去る黒狼を見送ると、アルベルトは、矢継ぎ早に指示を出して行く。


***


「いいか、全員守りに徹するんだ。プリメーラでは、すでに増援部隊の準備が出来ている。到着まで、あと少し持ち堪えるだけで良いのだ! 雑魚には構うな、大型の魔物に集中しろ! 取りつかれると、城壁を破壊されるぞ」


 なんとしても増援が到着するまで持ち堪えなければならない。この砦を築くために、どれほどの犠牲を出したことか。昨日、ようやく調査が再開できるとの報せに喜んだばかりだったのに……。


 私は、エスペランサ砦の守備隊長のサクラだ。セレスティーナ様が留学する際、護衛兼侍女として同行したため、生き残ることができた。祖国アストレアを含む、東諸国への調査は、私たちの悲願だ。絶対失うわけにはいかないのだ。


「サクラ隊長、東門突破されそうです。地竜が止まりません」
「わかった、私が出る。指揮は頼んだぞ」


 地竜は、ほとんど知能というものがないが、そのぶん巨大な身体と、岩のように頑丈な皮ふを持ち、力任せに体当たりしてくる。いわゆる動く攻城兵器のような存在だ。生半可な攻撃は通らない。


「いいか、私が地竜の動きを封じる。動きが止まったら集中砲火せよ!」


 黒髪をなびかせて城壁に立つ。私は英雄の血を受け継ぎしもの。黒髪はその証だ。桜色の瞳が淡く輝きを増す。


「樹木魔法(聖)大樹生成!」


 異世界人が持つといわれるユニークスキルは遺伝しないと云われるが、まれに先祖がえりとして受け継ぐものが現われる。私もそんな先祖がえりの一人。樹木魔法(聖)は、私の御先祖、千川桜様が持っていたスキル。私の名前は、桜様からいただいた誇りある名だ。


 大樹生成は、どんな植物でも大樹へと変化させ、操作出来るスキルだ。地面に生えた雑草が、みるみる大樹に変化し、地竜を押し上げひっくり返す。


 地竜はお腹が柔らかく唯一の弱点となっている。放たれた矢が次々と突き刺さり、魔法がさく裂する。


「魔物どもよ聞け、このサクラ=オルレアンがいる限り、この砦は決して落とさせない」 


 エスペランサの絶望的な戦いは、始まったばかりだ。







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