シスコンお兄ちゃん異世界で妹無双

スノー

第2話 旅立ち②

タクシーの運転手さんの見た目は、昔絵本で見たような、白い髭を生やした神様みたいな人だった。


『よろしくお願いしまーす。』


『どちらまで?』


『多座駅までお願いします。』


『分かりました。』


走り出したタクシーの車内で、妹達と他愛も無い話をしていると、俺の目にふと運転手さんのネームプレートが入ってきた。「ガンダ・ゴッド」と書いてある。(この人、見た目が神様なうえに、名前にも神って入ってるのか。片仮名ということはハーフの方かな?)俺は一度気になり始めると、納得のいく答えが出るまで探究を続けるような人間だ。運転手さんがハーフか気になって、妹達との会話に集中出来なくなるといけないので、俺は運転手さんに質問してみることにした。


『運転手さん。ちょっといいですか?』


『はい。何でしょうか。』


『失礼かもしれないんですけど、運転手さんって、珍しい名前をされていますよね。』


『あー、私ハワイ出身なんです。日系3世に当たります。だから、片仮名の名前なんですよ。よく質問されます。私からも質問良いですか?』


運転手さんはとてもニコニコしていて、機嫌が良さそうだ。だが、俺の経験上、その笑顔の裏に何かを隠している様な顔もしている。質問を返してきたのも、これ以上何かを聞かれたくないような…まあ良い。考えすぎだろう。今は妹達との外出を楽しもう。


『どうぞどうぞ。』


『今さっきから話してる会話の内容から、ご兄妹っていうのは分かったんですけど、皆さん、モデルとかなさってます?』


『いえ。してないですよ?』


『そうなんですか。ビックリするくらい美男美女なんで、てっきりそうかと。』


『確かに妹達は絶世の美女ですけど、自分はそんなことないですよ!』


『いやいや!私こそ、そんなことないよ!お兄ちゃんと紗雪は本当に顔整ってるけどね』


『…お兄ちゃんも、音羽もいい加減にして。ごめんなさいね?運転手さん。馬鹿な兄妹で』


『良いんですよ。仲の良い兄妹なんですね。』


『はい!愛の力で繋がってるんで!』


『だなだな!』


俺と音羽が声を揃えて答える。運転手さんはバックミラー越しに笑ってみせる。


『羨ましい限りです。ご兄妹共に美男美女ということは、親御さんとかは何か芸能関係のお仕事を?仕事上そういう方を乗せたこともあるのでそんな気がするんです。』


『母が女優をしています。私と紗雪の実の父は俳優をしていました。今の私達の父でもある、音羽のお父さんはモデルをしていますよ。』


その瞬間、少し気まずい空気が漂った。空には暗雲が広がり始め、まだ弱いものの雨が降り始めていた。


先程までの明るい笑顔は無くなり、運転手さんは申し訳なさそうにしている。その瞬間俺はやらかしてしまったことに気がついた。


『運転手さん!ごめんなさいね…なんか空気重くなっちゃいましたね。自分達は、今とても幸せなので大丈夫ですよ。』


『私こそすいません。配慮が足りませんでした。』


そんなこともありながら、その後は運転手さんも一緒になって趣味の話をしていた。


しばらくすると駅に着いた。


『はい!到着しました。料金は1200円になります。』


『ありがとうございました!お話も楽しかったです!』


『そう言っていただけて光栄です。また後でお会いしましょうね。』


「バタンッ」タクシーのドアが勢いよく閉められた。
 俺は運転手さんが最後に言った、「また後でお会いしましょうね。」の部分に引っかかりながらも駅の南口から改札へ向かうのだった。
最初は小降りだった雨が、今は雷が鳴るほど強い大降りの雨になっていた。

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