不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

それから



 冷えた部屋で作業をしていたので身体が緊張して少し動かすと痛みが走る。壁にかけたリモコンに手を伸ばし,スイッチを入れた。集中していた作業を中断したくなくて凍てつく寒さの中でパソコンを睨んでいたが,暖房なしでは効率よく作業もできない。
リモコンをテーブルに机に置いて,乾燥した目と凝り固まった身体をほぐすために立ち上がる。目を固くつぶって首を回すと同時に肩をもみこみ,入念にほぐした。ふと窓の外に目をやると,しんしんと雪が降り始めていた。ディズニーのキャラクターがプリントされたカレンダーの中では,雪だるまを作ったりプレゼントが入った箱を嬉しそうに開けたりしている。

「これでどうだ・・・・・・。うまくいくといいんだけど」

 大学に入ってから三年間,学校やアルバイトの時間以外はほとんどこのことだけに時間を費やした。試行錯誤を繰り返し,作ってはやり直し,構想を練っては白紙に戻し,完成間近の原稿用紙を破り捨てる作家のような気分を味わいながらここまできた。やっと満足のいくものが出来上がった。これから,この作品が日の目を見る。そう思うと,高ぶる気持ちが抑えきれなかった。
 深い呼吸で神経を整え,また机の前に戻る。
 ログインするためのURLを添付して,三つのメールアドレスに添付した。胸の鼓動が高鳴り,体温が上昇して熱い。宛先が間違っていないことを確認して,送信ボタンにマウスのポイントを合わせた。

 あとはクリックをするだけ。左クリックをする直前に,件名を入力していないことに気が付いた。普段は私用のメールで件名を打つことなどないのだが,今日は入れておこう。そうだな。件名はこれだ。


ようこそ,この素晴らしき世界へ


 よし,と一つうなずき,送信ボタンをクリックした。


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