不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~
ぼくたちは愚かな生き物
扉の向こうには,紫色のうろこを身にまとった竜が椅子に座っていた。象ほどの大きさのその生き物は,想像していたよりもずいぶんと小さいが,明らかに異質な雰囲気を醸し出している。どこまでも高く,壁が見えないほどの高さの天井のせいでまるで建物の中にいるとは思えない。竜が座っている椅子がスポットに照らされているようであたりは薄暗く,それがまた緊張感を体に感じさせた。
「待ちくたびれたぞ。・・・・・・ほう,全員できたか」
低くて重厚感のある声が空気を震わせた。
「全員って,どういう意味よ?」
リンナの声は少しだけ震えていた。
「三人そろって来ないこともシナリオにあったんだがな。なんとか乗り切ったわけだ」
「どいうこと? あなたはぼくたちの事情を知っているの?」
雄大の問に竜は椅子に座ったまま笑った。声を上げたわけではないが,歯をむき出して目を細めたその表情は「確かに笑っていた。
「あなた,なんて言われたのは初めてだ。なかなか面白い子どもだな。我が名は竜王。お前たちの世界を滅ぼす力を持っている。こんな風にな」
そういうと同時に,竜王は座ったまま腕を右の腰から左の肩にかけて振り上げた。あまりの速さに初めは分からなかったが,その手の先は爪が鋭利にとがっている。
驚いたのはそのあとだ。少し遅れて竜王の椅子のそばから壁にかけて,深くえぐれるように削れた。それを見て,ぼく達は摂りすぎなくらい竜王から間合いを取った。
「今さら経過したって遅い。もうこの部屋に入った時点で射程圏内なのだから。でも,安心していい。殺す気なら,もうとっくに息の根を止めている。まあ,そんなことをしても面白くないからな。噛むほど味が出るんだから,しっかり味わわないと」
不気味な雰囲気がぼくたちを包み込む。あの一撃をくらったら,命がいくらあっても足りはしない。それに,竜王の言う通りだ。その気になれば簡単に命は摂られていた。あっという間にライフゲージは削られてあの世行きに違いない。痛みはないと言っても,この床のダメージからは嫌でも痛みを感じそうだ。
竜王の手のひらにぼくたちの命が握られている。そんな絶望的な思いが胸を支配しているところで,さらに揺さぶりをかけてきた。
「もう分かっただろう? 作りが違うんだ。お前たちが空を飛ぶことができず,水の中で呼吸ができないように,超えられない壁というのは存在する。本当に,この私と戦うのか?」
ぼくの隣では,雄大が歯をがたがたと震わせていた。でも,決して後ろにはひかなかった。きっと,断固たる決意で逃げ出したい気持ちを必死で抑え込んでいる。リンナだって,力の差を歴然と感じていながら顔は決してそらさなかった。
「もう一度聞こう。死ぬかもしれないんだぞ? それに,お前たちが命を懸けて戦っていることを地球の者は知らない。万が一にも生き残ったところで普段通りの生活。負ければ・・・・・・犬死にだ」
目の前にコマンドが現れた。
→ 戦う
諦める
目を閉じて,掌を固く握る。心臓の音が落ち着くのを待った。でも,どれだけ時間をかけても落ち着きそうにはなかった。クラスメイトの顔を思い浮かべた。正直言って,仲良くしたいと思える人たちはいない。でも・・・・・・それでもぼくは彼らを守る。
ぼくはゆっくりと目を開け,戦うことを選択した。
「愚かな生き物だ。・・・・・・よいだろう」
竜王は白が震える頬の方向を挙げてのっそりと立ち上がった。座っている時の何倍にも大きく見えるその体をさらに膨らませて,ゆっくりとこちらに歩みを進めた。
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