不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

泣き声


 冷たい風が頬を刺すように通り過ぎ,汗をかいた身体を容赦なく冷やした。村に着いたのは,曇り空の隙間から星が暗く光っているのが見え始めた頃だった。

「手遅れじゃ。もう死んでおる」

 診療上にいる医者は素っ気なかった。

「ちょっと,ろくに見てもいないのに・・・・・・とにかく,出来ることをしてよ!」
「お願いします」

 ぼくたちは頭を下げた。深く,後頭部が見えるほどに。他にすがるものがないのだ。

「見んでも分かる。来るのが遅すぎじゃ」

 手にもったペンにインクを浸し,手元の紙に何かを書き込んでいる。
 リンナが大きな音を立てて椅子から立ち上がった。

「このやぶ医者! あなたには情がないの? 人がこんなにひどい目に遭っているというのに。なんのための医者なのよ!」

 よれた白衣を着た医者はペンを置き,ゆっくりとした動作でこっちを見た。

「わしはこの村の唯一の医者じゃ。何人ものけが人を見てきた。一番辛いのは,洞窟に連れさられてひどい目に遭った者達を治療できないことと,すでに息絶えた者が運ばれた時じゃ」

 医者の声は震えていた。

「お前さん達は,洞窟に住む化け物を退治してくれたのじゃな。深く礼を言う。この者も,きっとその一役を担ったのじゃろう。じゃが・・・・・・もう死後硬直が始まっておる。どうか,供養してやってくれ」

 医者は立ち上がり,深く頭を下げた。
 室内には雄大の鼻をすする音と,リンナの鳴き声が響き渡った。


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