不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

剣を抜く覚悟


「その子を離せ」

 トルコは立ち止まり,睨むような視線を送ってきた。

「は,離せと言っているんだ。今度は,ぼくが,相手だ」

 トルコはきょとんとした顔を見せた後,肩をふるわせて笑った。それに合わせて担がれたリンナが上下に揺れる。

「震える声で何を言っているんだ? しゃべるので必死じゃないか」

 そして,死んだ魚のような目で冷たく続けた。

「少ししか一緒にいなかったが,お前の良いところはよく分かったよ。お前の良いところは,自分の感情に素直なところだ。無駄なことをしない。自分の力量を客観的に理解している。そして,その状況によって適切な判断を下す。これは立派なことだ」

 鼻の奥を膨らませて,心底楽しそうに笑った。これ以上愉快なことが存在するのかと言うように。

「立派だったぞ。お前は何もしなかった。自分の命を守るために自らを犠牲にした仲間が苦しんでいても。命をかけて敵に立ち向かう女の子がいても。お前は何もしなかった。自分が勝てないことを分かっていたからだ。お前は賢い。だから,お前だけは生かしてやる。強いものに逆らうとろくなことにはならないと,人間界でしっかりと伝えてやってくれ。それがお前に出来ることだ」

 太くて不規則な笑い声が洞窟に響いた。そしてまた池の方に向かって進み始める。
トルコの言うことは,悔しいけど当たっている。今まではそうだった。・・・・・・でも,これからは違う!

「変わるんだ!」

 岩が震えた。自分でもびっくりするぐらい大きな声が洞窟に響いた。あ? とトルコがもう一度ぼくの方を振り返る。

「ぼくに勝ってから連れて行け!」

 深く息を吐いた。身体に力が入っている。これだと剣に力が,思いが伝わらない。剣は心の力を糧とする。臨機応変に対応できるように,肩の力を抜き,足を前後に開いた。母指球でバランスを取る。ライアンの教えは,しっかりとぼくの身体と心にたたき込まれていた。

「かわいそうなやつだ。いいだろう。一瞬だ」

 肩に担いだリンナを放り投げるように落とした。リンナが咳き込みながら身体を起こす。

「逃げて! 適わないわ! 私はなんとかするわ。お願いだから,雄大と逃げて!」
「おれを怒らせた。もう手遅れだ」

 トルコが水を得た魚のように機敏な動きで突進してきた。
 不思議と,恐怖感はなかった。トルコが射程圏内に入ってくるタイミングを見計らい,軸足に体重を乗せた。
 今だ! 足を踏み込むと同時に,剣を肩口から腰まで振り抜いた。


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