不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

赤く染まる


 トルコはカバンの中から太い木の棒とスポイトのような形をした容器を取り出した。棒の先端にスポイトから油のような液体を落として火を付けた。あの大きなリュックサックからは旅に必要なものはなんでも出てくるのだ。

「せめて先導させて欲しい。足下が悪いから明かりからあまり離れないように。しばらく歩いて開けた場所に出ると明るくなる。そこにある小さな池のようなところに例の生き物がいるから,あまり近づかないように」

 息をのみ,トルコの背中をついていった。
 ごつごつとした凹凸やぬめりに気をつけながら五分ほど歩くと,だんだんと明かりがなくても周りの様子が分かるようになってきた。

「見えるか? 少し遠くて見えにくいが,あそこに化け物がいる」

 トルコが指さす方向を見ると,確かに大きなくぼみがある。穴のように見えるその場所からは岩があるように見えたが,それはわずかに揺れていた。。きっと水が景色を映して反射しているのだろう。

「あなたたちは少し距離を取って。わたしが先に様子を見てくる。
「そういうわけにはいかないよ」
「だめよ雄大。だってあなた,生まれたての子鹿みたいに震えているじゃない」
「でも・・・・・・」
「ありがとう。ジェントルマンなところがあるのね。じゃあ,何かあったらよろしく」

 そう言ってウインクすると,忍び足で進んでいった。雄大の頬が林檎飴のように色づいている。その紅潮した横顔を見ながら,ぼくは何て弱いのだろうと思った。ぼくが行くべきなのに,声を上げられなかった。一生懸命生きると決めたはずなのに,恐怖心に打ち勝てないでいる。
 リンナの後を十メートルほど間隔を開けてついていく。もうそこに池があるというところで立ち止まり,近くにある小石を拾って投げた。
 雄大が後ろで呼吸を止める。無茶をするな,と言う暇も無かった。心臓がはねるような鼓動を打ちつけている。
 リンナはその場から動かなかった。そっと池の中をのぞき込む。そうしてしばらくした後こちらを振り向いて,両手の平を上にして肩をすくめた。何も変わったことはないようだ。
 ほっとしたのもつかの間,リンナの目が見開かれた。甲高い叫びと共に後ろに手をついて倒れた。
 何かが起きたことを察知して後ろを振り返ると,手を伸ばせば届く位置にライアンがいた。徐々に腹部が赤く染まる。背中から刺された鋭利な刃物が腹を貫通して切っ先がこちらに見えていた。


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