不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~
まっすぐ駆け出す
「ライアン,何てことをしてくれたんだ。早く捕まえて謝りに行かないと」
全速力で駆け出しながら誰に聞かせるでもなく言った。雄大は白い歯を覗かせながらこちらを見た。
「何言ってるの? このまま冒険に出かけるんだよ」
「いや,さっき捕まえてくるって宣言したじゃないか」
「嘘も方便だよ」
自分たちが捕まらないように機転を利かせていったのか。頭の回転が速いなあと感心すると共に,みんなで皿洗いでもして償おうとしていた自分が正しいのか正しくないのか区別がつかなくなってきた。
「それより,なんでそんなに楽しそうなの? こんなに大変なときなのに」
後ろの方では「待ちやがれー!」と叫びながら集団で追いかけてくる人たちがいる。全員揃って逃げようとしたのを察したのだろう。怒号を飛ばして追いかけてくるその表情を確認することすら恐ろしくて出来ない。とても楽観的に思える状況ではなかった。逃走に失敗したら,旅に出るどころか袋だたきにされるだろう。モンスターにやられるわけでもなく,村人に殴り殺されてゲームオーバーになったりするなんてたまったもんじゃない。どうして笑っていられるんだ。気でも狂ったのだろうか。
わくわくするんだ,と雄大は息を切らしながら横目でぼくを見た。
「だって,こんなに全力で走ったのなんて久しぶりだし,すごい体験をしている気がするんだ。ぼく,厄介者になるのなんて初めてだ。それだけでわくわくしてきた。自分が自分じゃないみたい!」
確かに,こんなに必死で走っているなんていつぶりだろうか。現実世界でのことに思いをはせる。年を経るごとに,いつしかぼくは,本気で何かに打ち込まなくなった。全力を出すことに恥ずかしさを感じていた。正義感という武器を捨てて,取り組んでいる人を嘲笑する雰囲気に飲まれていた。運動音痴な結果を出せない自分が惨めではあったけど,それ以前に一生懸命生きるということにかっこ悪さを感じていたのだ。
ぼくは今,理由がどうであれ一生懸命生きようとしている。こんな気持ちになったのは幼稚園のかけっこぶりかも知れない。
「ライアン達,見えないね」
雄大は楽しそうに言う。
「追いつけるさ。追い越してやろう」
雄大の横に並んで,まっすぐ続く道を駆け出した。
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