不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

ヒットポイント0


「君たち,こっちの世界の人じゃないわよね?」

 睨むような目でぼくと雄大を交互に見ている。ぼくたちは蛇に追い詰められた小動物のように縮こまり,小刻みにうなずいた。
 すると,彼女の顔やあふれ出る雰囲気は先ほどとは打って変わり,まるでお釈迦様のように穏やかになった。あたりから後光が差したような神々しさを放つ笑顔だ。

「よかった~。わたし,いつの間にかこの訳の分からない世界に飛ばされていて,どうしようかと困っていたの。わたし,リンナっていうの。あなたたちもこれから旅に出るのよね? だったら,一緒に旅しない?」

 名前の漢字を丁寧に説明をしてくれたが,難しくて理解できなかった。
太陽を浴びるひまわりのようにきらきらとした表情で話す彼女にうっとりしてると,「もちろんさ!」と異性の声がした。

「あんたには言ってないから!」

 ライアンは一蹴された。懲りずに鼻の下を伸ばしながらじろじろとリンナを見つめているが,もはや誰にも相手にされていない。

「私たちの住む世界が訳の分からない生き物に消滅されるって話、あなたたちも聞いた?」

 ぼくたちは三人で情報を整理した。ライアンは我関せずと言った様子で相変わらず会話に参加せずうっとりとしている。
 それぞれの情報を持ち寄ったところ,この世界はおそらくバーチャル空間であること,自分たちが任務を達成しないと地球が滅びてしまうことは一致した。この世界のシステムとして,戦いなど重要な選択はコマンドを通して行い,命はヒットポイントを示すゲージで表示される。実際にダメージを受けるとゲージは減っていくが,自分たちが痛みを感じることはない。
 リンナはさらにぼくたちが経験していない事実を知っていた。リンナは昨日まで別の仲間と一緒に行動をしていたということだが,目の前で敵にやられてヒットポイントが消滅するのを目の当たりにしたらしい。ヒットポイントが0になった人間は,まるで肉体が浄化していくように透けていき,そのまま消えていったということだ。

「つまり,そのままあの世いきってこと?」

 雄大が歯をがちがちと震わせながら問いかけた。「そういうことでしょうね」とリンナはうつむいたまま答える。

「わたし、約束したの。絶対に地球を守るって。その子とはこっちの世界で出会ったからそんなに深い関わりがあったわけじゃないけど,でも,許せない。こんな目に遭わせたこの世界をつくったやつも,この世界ごとぶち壊してやる」

 負けん気の強いアンナは拳を握りしめて,自らに誓うようにしてうなずいた。
 ぼくはどうだろう。地球は救いたい。でも,この世界を壊したいのだろうか。ぼくはゲームの世界に救われてきた。これからもきっとそうだろう。だから,リンナの考え方に全面的に同意するわけでは中ってけど、あえて口に出すことはしなかった。こんなことで対立をして揉めても仕方が無いし,ぼくのなかにあるただの考えだ。
 ふと,ライアンの方を見た。彼の表情はいつの間にかしまっており,どこか寂しそうにも見えた。


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