不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

イベントありき!?


 身体がふわふわと浮かんでいるみたいだ。まるでエレベーターが停止する前の,重力から解放されているみたいに。どこか遠くの方で声がする。聞き覚えのある声だ。優しい声と酒焼けしたような声。聞いていると安心する。ずっとこのままでいたい。

「いつまでひっくり返っている! さっさと起きんか!」

 かなづちで殴られたような衝撃が走った。びくんと身体が起き上がる。気付くとどこか見知らぬ村の屋根の下にいた。雄大がぼくの身体を抱えて心配そうに顔をのぞき込んでいる。ライアンは右手を拳にして荒い鼻息を立てていた。

「ちょっとライアン。グーパンチはひどいよ。急なことで身体が付いてきてないんだから」
「何を言っている。ちょっと身体を打ち付けた程度でひっくり返って。情けない男よ」

 どうやらあの光の中で別の場所に飛ばされたようだ。その中でたった一人、自分だけが意識を失っていたようだ。二人ともピンピンしているというのに情けない。

「ごめんごめん。もう大丈夫だから心配しないで」
「だれが心配なんかしているか。こんなんじゃ先が思いやられる。子どものように頼りなかったところからやっと成長したと思ったが、赤ちゃん返りしてどうする? このはなたれが」

 言い過ぎだろうとも思ったが,何も言い返せない。雄大にお礼を言って立ち上がり,お尻を払う。

「ちょっと油断しただけさ。それより,これからどうすればいいんだろう?」
「何が油断だ。今ナイフを持った盗賊がいたならば,間違いなく刺されておしまいだっただろうな。まあ,ちょっと頭のある盗賊ならこんな金目のものをもっていなさそうなやつは相手にするまいが」
「あー,分かった分かった。雄大、これからどうする?」

 ライアンの小言にうんざりして雄大に話を振った。そうだなあ,と悩む雄大の横でライアンはまだ小言を続けている。

「だいたい進むべき道に困ったら,村人に話を聞くと示してくれるよね。とにかく,何か耳寄りな情報が無いかあたってみよう」

 ぼくは同意した。辺りを見渡すと,それなりに人はいる。誰か一人ぐらいは必要な情報を持っているに違いないと確信したところで,大きな音が鳴った。空腹を知らせる音だ。雄大と一緒にライアンを見る。ライアンはお腹をさすりながら顔を真っ赤にして笑っていた。

「いや~,腹が減っては戦にならんとも言うし,お前達も育ち盛りだからお腹に何か入れるべきだ。それも修行の一つ。ひとまずご飯処に向かうというのはどうだ?」

 雄大は頬を緩ませ,賛成している。素直にお腹がすいたと言えば良いのに小さい人だと思ったが,ライアンはこの世界の人間だ。きっとご飯処に行くと何かイベントが待っているに違いない。
 ぼくたちは食事にありつけそうな所へと向かった。


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