不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

フラッシュバック



 教室の後ろのロッカーの棚は荷物が散乱し,机の横の通路には子どもの私物であふれていた。特に教室の雰囲気を左右する男子においては,公共の場という間隔は一切無かった。とっくに提出期限の切れたプリント,保護者への案内文,学級通信。まるで盗人が手当たり次第に金目のものを探したみたいに,クリアファイルやランドセルの中に入っているべきありとあらゆる配布物が床にまき散らしてあった。自分の部屋でさえもそのように散らかしているのかと疑わしくなるほどの散らかりようには目を覆いたくなる。
 小学校の低学年は素直だ。先生の言うことは絶対だし,とにかく褒められたい。物心が付いた頃には父がいなかったぼくには,担任の清水先生はお父さんのような存在だった。羽目を外すと叱ってくれ,正しい行動をすると手放しで褒めてくれた。清水先生が褒めてくれるなら何だってしたいと思い,自分の力以上の役割を引き受けたりもした。このことはぼくの力をずいぶんと引き上げた。
 中学年ぐらいになると,だんだんとませてくる。宿題がめんどくさくなってなんとかサボろうとしたり,誰かと効率よく答えを写し合ったり,時には言うことを聞かせて人にやらせようとする人もいた。山根くんはその代表だった。
 ある日,気の優しい背の小さなそっちゃというあだ名の男子に山根くんは漢字の宿題を押しつけていた。そっちゃは嫌そうだったが,はっきりと断ることが出来なかった様子で無理矢理漢字ノートを押しつけられていた。

「自分でやりなよ」

 そっちゃと山根くんの間に割り込むように入っていった。スポーツが得意だったり,身体が大きいわけじゃなかったが,正義感は人並みに持ち合わせていた。清水先生もぼくにはなぜか絶大な信頼を寄せていて,なにかあればぼくにお願いすることが多かった。正しいことをしなさいというのが清水先生の口癖で,クラスで何か問題があったときには傍観していた周りの人も必ず怒られた。でも,間違ったことをしていた人に注意を与えたり,弱い人を守ったときにはそれと同じくらい大げさに褒めてくれた。褒められたかったぼくは,大して強くもなかった正義感が輪をかけたように大きくなり,クラスの皆もぼくが注意をしたら素直に聞いていた。そんな関係が出来上がっていたので,ぼくはガキ大将の山根くんに臆することなく注意を与えた。
 ただ,その日は虫の居所が悪かったのか,番犬が部外者に気付いたときに見せるような,狂気に満ちた視線をこちらに向けてきた。


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