不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

依頼ボード


 女将さんが持ってきてくれた栄養たっぷりの食事を食べてから,大浴場で一日の汗を流した。毎日なんとなく食べていた食事や風呂も,充実した生活をしていると一層気持ちよく感じられた。一段落して部屋でゆっくりしているとすぐに眠気がやってきた。ここちよい疲労感に包まれながら毛布にくるまっていると,次に目を開けたときには気持ちのよい朝が来ていた。
 受付でお礼を言って出発の準備を整えていると,昨日と同じ受付の人に声をかけられた。

「荷馬車もないようですけど,これからどちらへ? このあたりは徒歩で歩くには不便で,一番近くの町でも歩いたら一日ではつきませんけど」

 そうなのか。一日歩いてもどこにも着かないなんて,それはいくらなんでも厳しいのではないだろうか。特に目当ても行き先も決まっていない。それに,この世界はぼくにとって不案内な場所だ。ライアンしか頼れる人がいないが,次はどういうプランなのだろう。きっとぼくを成長させてくれるイベントがあるに違いない。
 そんな期待を込めてライアンを見つめると,彼は大きく首を左右に振った。何も計画はなかったのかよ,とツッコみたくなったが,声には出さなかった。こういうときにはどうしようか。何か導きのような者がないと事は前に進んでいかない。
 特に行く当ての決まっていない僕たちの様子を察したのか,受付のお姉さんが談笑スペースに設けてあるボードを指差してから言った。

「もしあてがなければ,あれなんてどうですか? 依頼ボードといって定期的に依頼が張り出されるんですけど,昨日も誰か新しい紙を貼っていましたよ」

 お姉さんの指さす方向に目をやると,大きなボードに貼り付けられた紙の一枚に,大きな見出しで「冒険者求む」とでかでかと見出しをつけたものが目に入った。
 これだ,とライアンの顔を見ると,彼も「それを求めていた」と言わんばかりに胸を張って大きくうなずいた。
 ありがとうございます,と大きくお姉さんに頭を下げた。「お気を付けて」というお姉さんの言葉を背中に受けながら,ライアンの手を引いてボードの元へと駆け出した。


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