不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

温かい労い


「いつまで振るつもりだ」

 不意に後ろからなじんだ声がした。ずいぶんと集中していたため,そこに人がいることに声をかけられるまで気がつかなかった。
 暗がりのせいで表情をはっきり読み取ることは出来なかったが,年にしてはしっかりとした歯が月の光を浴びて白く光っていた。

「様になってきたな。ただ,わしが敵だったら命を取られていたぞ。いついかなる時も気を抜かないように」

 厳しいな,と思ったけど確かにその通りだ。敵は戦う前に声をかけてはくれない。常にアンテナを張って周りの空気感や敵の雰囲気を敏感に察知しなければならない。もし今敵がやってきていたなら,ぼくは間違いなく命を落としていたということなのだ。
 ライアンは本気で説教をしに来たわけではないらしく,近づいてぽんと肩を一度叩いて「お疲れさん」と言った。

「食事の用意が出来たみたいだ。しっかりと鍛錬をしたのならば,食べて休むのも修行の一つだ。今日の所はよく頑張った。剣が見違えるように上達したじゃないか」

 ライアンの温かい言葉に涙がこぼれそうになる。たった一日必死で頑張ったくらいで目に見えて成長するというのは少々できすぎな気もするが,それもゲームやアニメの飽きの来ないところだ。何より,自分が必死になって取り組んだという経験は,肉体的な成長よりももっと大切なことを与えてくれたという気がした。
 こぼれ落ちそうになる涙を拭っていると,お腹が鳴った。ライアンは大きく笑って「飯だめし~」とご機嫌そうに歩いていく。砂を撒いたようにきらきらと散らばる星の光を受けながら,ぼくはライアンの少し後ろを付いていくようにして宿へと戻った。

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