不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

死にかけの老人


 目の前に表示された選択肢は脳内で操作できるようだ。思った通りにカーソルが動き,選択することが出来た。
 文字がポチッと反応すると,後ろからしゃがれた声がした。

「・・・・・・ほしい」

 どこからとも無く現れた老人は今にも倒れそうなほど疲弊している。何かのイベントだろうか。伸ばした手を取り,自分の肩に乗せて支えてあげた。

「何が欲しいの?」
「・・・・・・水。のどが渇いて死にそうだ」

 かすれた声で訴えた後,咳き込みだした。とにかくこの人を救わないと。でも何も持ってきていないしどうしよう。あたふたしていると,身に付けた覚えのないポーチが腰に巻かれている。その中に手を入れると,水筒が入っていた。
 中を開けて念のため匂いを嗅いでみる。腐ってはなさそうだ。手のひらに少しだけ垂らして,口に含んだ。大丈夫。普通の飲み水だ。
 どうぞ,と水筒を差し出すと,目に涙を浮かべてお礼を言った。いいから早く,と急かすようにして水筒を口元へ押しやると,水筒を垂直にして音を鳴らしておいしそうに飲んだ。

「助かった。・・・・・・すまない。全部飲んでしまった」
「良いんだよそんなことは。それより,どうしたの?」

 よく見ると老人の服装はどころどころに砂が付いており,上質そうなスカーフは橋の方が割かれている。それに,こんな砂地のど真ん中で身一つで行動しているのはおかしい。

「追い剥ぎに遭った。最近悪い噂はしていたが,まさか自分がこんな目に遭うとは」
「けがはないの?」
「命だけは見逃してやると。村へ商品を届けるところだったが,物も食料も奪われてこんなところに放り出されては,死ねといっているのとおんなじ事だ」

 深いため息をつきながら老人は語った。大変な思いをしてここまで歩いてきたのだろう。

「それでも,生きている。これも神のご加護か。あなたにもお礼申し上げたい」

 老人は深々と頭を下げた。水をあげただけだ。やめてくださいと伝えて顔を上げてもらった。

「村まで行くなら,一緒に行きませんか? ぼくも道が分からず困っていて」
「おお! それはありがたい。こんなに強そうな青年と村まで行けるなら心強い。何から何まで世話になって悪いが,道案内だけは任せてくれ。わたしは見ての通り戦えないから,モンスターが出たら頼むぞ」

 モンスター? そんな物がいるのか。まるでゲー身の世界じゃないかと思ったが,ここはまさにその世界だ。キョロキョロと周りを見渡しながら,老人と村への道を進んだ。


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