不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

ようこそ,この素晴らしき世界へ


 うずうずしながら電源を入れた。冒険の旅っていうのも,はっきり言ってよく分からない。冒険に出ることが目的なのか,冒険することを旅というのか,きっとこのゲームを作った人たちも深くは考えてはいないのだろう。ただ,楽しい。この世界に入り込んでいるときは全てを忘れていられる。
 スクリーンが起動した。ゲームの会社のロゴがでかでかと表示された後、オープニングの曲が流れる。
 こんな会社に勤められたら良いのにな,と漠然と考えていた。名前はよく知れているし,なんと言ってもぼくはゲームが好きだ。この世の何よりも。プレイするのはもちろん好きだし,自分が考えた設定で,自分が考えたキャラクターが自分の代わりに大活躍するだなんて考えただけで浮き足立つ。本を読むのが好きな人が,小説の世界に没頭して深く感動したり,主人公と自分を重ね合わせて感傷に浸ったり成長したりするのと同じように,ゲームを通して人が成長する。そんな仕事をしたいと思った。
 でも,現実は甘くない。会社について調べてみたことがある。給料は驚くほど高いし,仕事のスタイルや働いている人の口コミも生き生きとしていてやりがいを感じられる。でも,それに比例するようにして入社への壁は見上げても果てが見えないように高い。何より人とコミュニケーションが取れない,勉強も出来ない,なんとか頑張ろうとしても,人からは笑われ,軽蔑され,哀れみの目を向けられる。そんな人間には叶いっこない夢だ。
 ディスプレイに目をやるといつもと違う画面が映し出されていた。そこには黒い画面に白抜きの文字で

ようこそ,この素晴らしき世界へ

と書かれていた。
 何だこれは? といぶかしみながら画面をタップすると,ぼくは文字通り画面の中に引き込まれた。

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