不登校だったおれが竜王相手に世界を守るために戦う話~学校に行けなくてもコマンド操作なら得意ですから~

文戸玲

憂鬱な朝

 カレンダーに目をやる。しばらくカレンダーを眺めることがなかったため,ひと月前の暦をかたどった数字の周りをディズニーのキャラクターが楽しそうにしていた。そのページを一枚破ると,Julyと書かれた文字が浮かんだ真っ青な空の下で,今度はサングラスをかけてバカンスを楽しんでいた。
 破り捨てたカレンダーの一ページをゴミ箱に投げ入れ,窓を開けた。部屋に新鮮な空気を入れる。夏の爽やかな風が部屋の中に入ってきて頬を撫でる。今日は洗濯物を干すと一日で乾くし,布団を干せば夜は気持ちよく眠れるだろう。素晴らしい一日だ。

「まさるー,朝よー! 起きなさーい!」

 一階からお母さんが大きな声を張り上げる。声量はあるが,間の抜けた声。特に何も心配していないよ。元気があるのなら降りてきなさい。お母さんの声にはそんな気持ちを無理やり乗せて発声している。もちろん,この声が意図的に出されたものであるということをまさるは察している。

(だるいなあ)

 外の様子を確認すると,ばたんと大きな音をたてて窓を閉める。まさるはこの時間が一日の中で最も嫌いだった。昨晩,朝からずっと眠くなるまでやり続けたゲーム機を手に取る。お母さんの声にいつもの通り特に反応も示さず,ゲームを起動した。この瞬間がまさるは好きだった。スイッチを入れると自分の世界に入り込める。そこには誰も介入してはならない。一度,ゲームに没頭しているところをお母さんに話しかけられ,ゲームを中断させられたことがある。その時,まさるは自分でも考えらえないくらいに激高した。それ以来,家族のだれもまさるがゲームをしているときは声をかけないようになった。

 

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