忘れられない

水月紫苑

温もりをおぼえてる

今日も一人で 高いところに座って やっと慣れてきたタバコを吸う。 


昔は、煙くて嫌いだったし 今もあまり好きではない 


でも、たまにこうして 一人でタバコを吸う。 


銘柄は、あの人と 同じ 


売ってる場所が 限られているので 見つけるのが大変なのだが なんとなく あの人が 
県外にいってしまって会わなくなってからは ふとしたときに吸うようになった。 


フィルターを咥えたときに広がる甘い味とメンソール 


煙からふんわり漂う香り  パチパチとはじける音 


吸ってる間だけ あの人の姿が見えるような気がして・・・。 


あの人のことを考えながら  なるべくゆっくりと時間を掛けて 吸う。 




「まっじぃなぁ・・・・」 


独り言も慣れたものだ 傍からみたら 変人だろう 


タバコを吸い終わるころ ポケットの中に入れていた 携帯が鳴動する。 


タバコをくわえたまま 携帯の画面を覗く そこに表示されたのは 


『先輩』 


「うおぅ・・・」 


心臓が跳ね上がって、思わず情けない声が上がる 
咥えていたタバコも地面に落としてしまった。 


落ちたタバコを拾い、灰皿にいれて 再び携帯の画面に目を落とす。 
メールが 着ていた。 


文章は、簡潔で 
『今度そっちへ帰るから 会わない?』 




あぁ・・・帰ってくるんだ。 


動揺したわりに 感想は落ち着いたものだった。 




かちかち  
携帯のボタンの音 


打ったり消したりを繰り返す。 
何回目かで やっとあたりさわりない文章を作り 送信する。 


<いつですか? と、いうかなんでいきなり?> 


返信がくるまでが もどかしい 


そわそわしながら またタバコに火をつける。 


なんで、こんなにドキドキしてしまっているんだろう 


会わなくなってもう 5年もたつのに・・・。 



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品