英雄に憧れた転生者 〜捨てられた一人の救世主〜
第二の人生の始まり
昔、こんな話を聞いたことがある。「この世で死んだ後、別の世界で人生をやり直せる。魔法を使ったりできるんだ」と。
どこかの胡散臭い宗教団体が駅前でそう言っていた。真面目に聞いてる人なんていない。近くのベンチで座っている酔っ払ったサラリーマンは、笑い転げていた。
ゲーム好きの人達は聞いていないふりをしながらも聞き耳を立てていた。
そんな話があってたまるか。僕はそれを聞いた時に思ってしまった。そんな漫画や小説のようなありきたりな展開があるわけが無いと、本気で思っていた。というか、それが正常な判断だろう。
だがある日、どこの誰だか知らないネット動画配信者が、大問題を起こした。
「えー、この前駅前を通ったら、全く意味のわからない団体が『貴方は絶対に転生ができる!』とか言ってきたので、ちょっとワクワクしちゃったんで転生してみようと思いまーす」
その後、彼は森の奥深くまで侵入していき、自分が自殺する所を配信で流した。絶対に有り得ない現象を起こそうとした彼の下に、かなりの視聴者が集まった。
そして、その現象は起こってしまった。
彼が木に登り頭から落下した直後、彼の死体となるはずの体がどこかへ消え去ったのだ。その配信は瞬く間に世界へ広がった。
一人の動画配信者が消えたと世間では噂になり、大きなニュースとなった。その後、かなりの自殺者が現れた。
配信者が成功をさせてしまったせいで、その後に続こうと多くの人が同じ場所で、同じように自殺を図った。だが、必ずしも全員が成功するとは限らなかったのだ。
その事はニュースになり、社会問題へと発展した。死者は数えきれない程に増え、また行方不明者もかなりの量が続出した。
そのニュースが流れてから二週間が経ち、今も尚この世界ではそういう人達が増え続けている。そしてその話題は僕の学校でも広まっていた。
「なぁヤック、お前このことどう思う?」
「ん? あぁ、転生自殺の奴? 僕は信じてないね。そんな話」
「いやでもさ、実際に行方不明になってる人もいる訳だしさ、かなりリアリティあるよね、これ」
「そうだけどさ……まさかとは思うけど、タクこの話信じてる?」
「まぁ少しな。俺もやろうとした」
「嘘だな?」
「バレたか」
「バレバレ。何年もいれば嘘なんてすぐわかる」
「チェッ、つまんねーの!」
昼休みの話題はこの事ばかり。正直もううんざりしていた。早くこの話題が消え去ればいい、心の中で呟いた。
その日の帰り道、コンビニによって夜食に良さそうなものを探していると、フードを深々と被った背丈の大きい男性が入店してきた。
入店するやなぜか立ち止まり、周りをうろちょろと見回りした後、背中に背負っていたバックから何かを取りだした。
「全員動くな、動いたら殺す!!」
カバンから拳銃を取り出し、天井に向けて発砲。その音に店内にいた女性は悲鳴をあげ、他の人も立ち止まりその男に視線が集めた。
「まじかよ……」
恐怖で足が震える。強盗現場に出くわすなんてどんな奇跡だよ。心の中でそう言いながら、その場にしゃがむ。
父が警察官という事もあり、一刻も早くこの事を伝えなければとスマートフォンを開き父へメッセージを飛ばす。だがその途中、男が歩み寄り拳銃を頭に突きつけられる。
「おいガキ、何してんだそれを捨てろ!!」
言うとうりにしなければ殺される。だが後は送信ボタンを押すだけだった。
「早く捨てろや!!」
大きな怒鳴り声が店内に響き渡る。恐怖で何も出来ない。指一本だって動かすことが出来ない。汗が垂れ、呼吸が早くなり、沈黙がさらにそれを悪化させる。
「ぼうや、早く捨てるんだ!」
「は、はい……」
捨てようとした所、こっそりと送信ボタンを押す。それが精一杯の僕にできる事だった。スマートフォンを地面に置くと、髪の毛を掴まれて銃口を向けられたまま、レジの前まで引っ張られる。
「おい、金を出せ。じゃねぇとガキを殺す、そしてお前も殺す」
隙を見て逃げ出そうとした客がいた。それを見逃さない強盗犯は、その客の足を撃ち抜き、客はその場に倒れ込んだ。
「動くやつは全員撃ち殺す!」
「やめろ撃つな! わかった、金をだす!」
その店員はとても落ち着いた様子だった。だがそう見えるだけであり、実際は緊張と恐怖で吐き出しそうだった。
「早くしろやぁ! 死にてぇのか!?」
慌てて金をレジから出す店員。その最中、先程地面に置いたスマートフォンから通知音が店内に鳴り響く。
「おいガキ、お前のだよな? さっき、あれ開いてたよなぁ? ……誰かにメッセージ送ったのか?」
「送ってない……」
「本当だろうなぁ? 嘘だったら殺すぞ?」
そう言って強盗犯はスマートフォンの元へ近寄り、スマートフォンの画面を見る。すると、そこには父からのメッセージが届いた通知が表示されていた。
「ガキ、お前送ってないって言ったよなぁ?」
「や、やめ……!」
「死ねガキ!」
突然辺りが真っ暗になり、一瞬だけ聞こえた銃声の音が最後の記憶。そこからは何が起こったか分からない。
『貴方の人生はここまで。では、新たな人生を貴方に。陽ノ下八雲君』
その声が聞こえたのは暗闇の世界。何も見えない真っ暗な世界。そこで聞いた声は暖かく優しい。
『新たな世界での祝福を。そして、新たな人生に幸運を』
そして彼は、新たな世界へ転生する。
どこかの胡散臭い宗教団体が駅前でそう言っていた。真面目に聞いてる人なんていない。近くのベンチで座っている酔っ払ったサラリーマンは、笑い転げていた。
ゲーム好きの人達は聞いていないふりをしながらも聞き耳を立てていた。
そんな話があってたまるか。僕はそれを聞いた時に思ってしまった。そんな漫画や小説のようなありきたりな展開があるわけが無いと、本気で思っていた。というか、それが正常な判断だろう。
だがある日、どこの誰だか知らないネット動画配信者が、大問題を起こした。
「えー、この前駅前を通ったら、全く意味のわからない団体が『貴方は絶対に転生ができる!』とか言ってきたので、ちょっとワクワクしちゃったんで転生してみようと思いまーす」
その後、彼は森の奥深くまで侵入していき、自分が自殺する所を配信で流した。絶対に有り得ない現象を起こそうとした彼の下に、かなりの視聴者が集まった。
そして、その現象は起こってしまった。
彼が木に登り頭から落下した直後、彼の死体となるはずの体がどこかへ消え去ったのだ。その配信は瞬く間に世界へ広がった。
一人の動画配信者が消えたと世間では噂になり、大きなニュースとなった。その後、かなりの自殺者が現れた。
配信者が成功をさせてしまったせいで、その後に続こうと多くの人が同じ場所で、同じように自殺を図った。だが、必ずしも全員が成功するとは限らなかったのだ。
その事はニュースになり、社会問題へと発展した。死者は数えきれない程に増え、また行方不明者もかなりの量が続出した。
そのニュースが流れてから二週間が経ち、今も尚この世界ではそういう人達が増え続けている。そしてその話題は僕の学校でも広まっていた。
「なぁヤック、お前このことどう思う?」
「ん? あぁ、転生自殺の奴? 僕は信じてないね。そんな話」
「いやでもさ、実際に行方不明になってる人もいる訳だしさ、かなりリアリティあるよね、これ」
「そうだけどさ……まさかとは思うけど、タクこの話信じてる?」
「まぁ少しな。俺もやろうとした」
「嘘だな?」
「バレたか」
「バレバレ。何年もいれば嘘なんてすぐわかる」
「チェッ、つまんねーの!」
昼休みの話題はこの事ばかり。正直もううんざりしていた。早くこの話題が消え去ればいい、心の中で呟いた。
その日の帰り道、コンビニによって夜食に良さそうなものを探していると、フードを深々と被った背丈の大きい男性が入店してきた。
入店するやなぜか立ち止まり、周りをうろちょろと見回りした後、背中に背負っていたバックから何かを取りだした。
「全員動くな、動いたら殺す!!」
カバンから拳銃を取り出し、天井に向けて発砲。その音に店内にいた女性は悲鳴をあげ、他の人も立ち止まりその男に視線が集めた。
「まじかよ……」
恐怖で足が震える。強盗現場に出くわすなんてどんな奇跡だよ。心の中でそう言いながら、その場にしゃがむ。
父が警察官という事もあり、一刻も早くこの事を伝えなければとスマートフォンを開き父へメッセージを飛ばす。だがその途中、男が歩み寄り拳銃を頭に突きつけられる。
「おいガキ、何してんだそれを捨てろ!!」
言うとうりにしなければ殺される。だが後は送信ボタンを押すだけだった。
「早く捨てろや!!」
大きな怒鳴り声が店内に響き渡る。恐怖で何も出来ない。指一本だって動かすことが出来ない。汗が垂れ、呼吸が早くなり、沈黙がさらにそれを悪化させる。
「ぼうや、早く捨てるんだ!」
「は、はい……」
捨てようとした所、こっそりと送信ボタンを押す。それが精一杯の僕にできる事だった。スマートフォンを地面に置くと、髪の毛を掴まれて銃口を向けられたまま、レジの前まで引っ張られる。
「おい、金を出せ。じゃねぇとガキを殺す、そしてお前も殺す」
隙を見て逃げ出そうとした客がいた。それを見逃さない強盗犯は、その客の足を撃ち抜き、客はその場に倒れ込んだ。
「動くやつは全員撃ち殺す!」
「やめろ撃つな! わかった、金をだす!」
その店員はとても落ち着いた様子だった。だがそう見えるだけであり、実際は緊張と恐怖で吐き出しそうだった。
「早くしろやぁ! 死にてぇのか!?」
慌てて金をレジから出す店員。その最中、先程地面に置いたスマートフォンから通知音が店内に鳴り響く。
「おいガキ、お前のだよな? さっき、あれ開いてたよなぁ? ……誰かにメッセージ送ったのか?」
「送ってない……」
「本当だろうなぁ? 嘘だったら殺すぞ?」
そう言って強盗犯はスマートフォンの元へ近寄り、スマートフォンの画面を見る。すると、そこには父からのメッセージが届いた通知が表示されていた。
「ガキ、お前送ってないって言ったよなぁ?」
「や、やめ……!」
「死ねガキ!」
突然辺りが真っ暗になり、一瞬だけ聞こえた銃声の音が最後の記憶。そこからは何が起こったか分からない。
『貴方の人生はここまで。では、新たな人生を貴方に。陽ノ下八雲君』
その声が聞こえたのは暗闇の世界。何も見えない真っ暗な世界。そこで聞いた声は暖かく優しい。
『新たな世界での祝福を。そして、新たな人生に幸運を』
そして彼は、新たな世界へ転生する。
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