悪魔座

不動 聖

正義の味方

突然後ろから大声が響き渡り、何事かと振り返る男達。

(・・なんだ?)

快刀も目を開けて声の主を確認する。

そこに居たのはセーラー服姿のショートカットの1人の少女。

服装と見た目の年齢からすると女子高生だろう。

いかにも体育会系の活発そうな、それでいて目鼻立ちの整った美少女である。

だがその可愛らしい外見とは裏腹に腰に手を置き仁王立ちで立っている。

「あんた達!馬鹿なことは止めなさい!」

三人の男は180cm前後、対する少女は小柄で160cm足らずといった所である。

頭一つ分の対格差はあるが、物怖じすることなく少女は男達に立ち去るように促す。

(・・正義の味方?)

まるで特撮ヒーローの主人公の様な台詞に快刀は思わずそう考えてしまった。

「なんだ、このガキ」

怪訝そうに少女を睨み付けているモヒカンを尻目に赤髪がにやついた顔で少女に近づいていく。

「・・お嬢ちゃん。威勢が良いね。俺たちに関わるとロクな事がないよ。それとも遊んでほしいのかな?へへへ」

下心丸出しの表情で少女の肩に手を回そうとする。
何を企んでるかは一目瞭然だ。

(やれやれ。面倒臭い事になったな・・)

さすがに女子高生を巻き込むのは気が引ける。

そう思い快刀が起き上がろうとした時 ー

少女が肩に近付けた赤髪の手を払いのけると同時に腕をねじり上げた。

「ぎゃー!」

たまらず赤髪が悲鳴をあげる。

間髪入れず少女は襟を掴み投げ技をかけると、派手な音と共にそのまま勢い良く地面に叩き伏せられた。

赤髪は痛さでたまらず地面を転がり回っている。

目の前で起きた出来事に男達は一瞬唖然とするが、すぐに表情が険しくなり今度はモヒカンが襲い掛かる。

「このガキ!」

モヒカンは力任せに右手を繰り出すが、その動きは無駄に大きい。

案の定、あっさりかわされると少女の強烈な正拳突きがガラ空きになった腹に命中。

「うげえ!」

モヒカンの体がくの字に曲がり殴られた腹を抱えると、膝から崩れ落ちその場から動けなくなった。

(・・やるもんだ。まだ若いのに相当鍛錬しているな)

一連の動作と見事な体術に快刀は感心する。

(見た目の派手さよりも、地味だが無駄な動きを省いた実戦的な古武術だ。しかし、あの動きは・・)

冷静に少女の動きを分析する快刀とは裏腹に
仲間二人がやられパーマはその場で立ちすくんでしまった。

「どう!?まだやるつもり!?」

少女がパーマを睨み付ける。

「な、なんなんだ。お前・・」

震える声を押さえきれずパーマは言った。

「私は神楽流かぐらりゅう道場の娘よ!」

「神楽流!?」

神楽流と聞いてパーマの顔が青ざめた。

パーマの表情から察すると、この辺りではよほど有名な道場なのだろう。

「これ以上痛い目を見たくないなら、さっさと立ち去る事ね」

「くそ・・おい!お前ら行くぞ!」

少女に返す言葉もなくパーマが痛みで悶絶する二人を強引に引っ張ると、逃げるようにその場を去って行った。




(・・大したもんだ)

快刀が一応お礼の言葉を述べようと体を起こそうとする。

しかし少女は快刀の方を一瞬ちらりと見ると、すぐに走りだしその場から去っていった。

「あっ・・」

少女の姿はもう見えない。

(何も言わず去って行くなんて、まさしく正義の味方だな。・・それとも俺も怪しい人間だと思われたか?)

確かに早朝に公園のベンチで乱れた服装で寝ている男を見れば誰でも怪しく感じるだろう。

仕方なしに再び快刀はベンチの上で目を閉じた。


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